アレルギーの治療を目指した低アレルゲンワクチンの開発
近年日本において, 喘息, アレルギー性鼻炎, およびアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患により医療機関を受診する患者数は, 増加傾向にある[1]。このようなアレルギーの原因となるアレルゲンは多種多様であるが, 当研究室では特に, ペットとしてヒトとの接触機会が多いイヌ・ネコと, ハウスダストアレルゲンとして近年着目されている, チャタテムシのアレルギーについて研究を行っている。
アレルギーに対する主な治療法としてアレルゲン免疫療法が実施されている。アレルゲン免疫療法では, 抗アレルギー薬などによる対症療法とは異なり, アレルギーの完治も期待できる。一方でアレルゲンを直接投与することから, アナフィラキシー反応により生命に関わる重篤な症状を引き起こす可能性がある。この問題を解決するため, アレルゲン活性を低減した低アレルゲン化ワクチンの開発が望まれている (Fig.1)。
Figure 1. I型アレルギーの作用機序(上)低アレルゲン化ワクチンの作用機序(下)
イヌ・ネコは日本において飼育頭数がともに800万頭を超え[2],その多くが室内で飼育されていることから,ヒトとイヌ・ネコが産生するアレルゲンとの接触機会が多く,アレルギー患者が増加している。当研究室では,イヌ・ネコが産生するアレルゲンのうち,他の哺乳類の主要アレルゲンにおいても多く見られるリポカリン蛋白質ファミリーに属しており,かつ感作率の高い,イヌアレルゲンCanis familiaris allergen 1 (Can f 1),Can f 6,ネコアレルゲンFelis domesticus allergen 4 (Fel d 4)に着目している。低アレルゲン化ワクチン作製のためには,これらアレルゲンの主要IgEエピトープの同定が必須であり,当研究室では対象となるアレルゲン蛋白質のX線結晶構造解析,及びバイオインフォマティクス解析を駆使して,各アレルゲン蛋白質の立体構造,およびIgEエピトープを予測し,部位特異的なアミノ酸置換により低アレルゲン化した変異型アレルゲンの作製を試みている。
ヒラタチャタテはチャタテムシの中で最も広く生息する微小昆虫であり,高温多湿な室内環境において高い汚染率を示す。アレルギー試験の結果から,喘息患者の20%以上がヒラタチャタテのアレルゲンに感作していることが示されている。当研究室は,これまでにヒラタチャタテ由来のアレルゲン蛋白質Liposcelis bostrychophila allergen 1 (Lip b 1)を同定している。Lip b 1は新規のアレルゲン蛋白質であるため,主要IgEエピトープも未だ明らかとなっていない。そこで,Lip b 1についてさらに詳細な知見を得るために,Lip b 1由来のオーバーラップペプチドを作製し,アレルギー患者由来のIgE抗体との反応性を評価することによりIgEエピトープ領域の同定を試みている。
Figure 2. Can f 6のX線結晶構造
8本のアンチパラレルβ-ストランド (緑) からなるβ-バレル構造と1本の長いα-ヘリックス (橙赤色) を有している。
- 厚生労働省 健康局 がん・疾病対策課『アレルギー疾患の現状等』(平成28年2月3日)
- 一般社団法人 日本ペットフード協会, “平成 29 年(2017 年)全国犬猫飼育実 態調査,” 2017.