雑種弱勢

異なる植物間で交雑を行うと、雑種植物が両親よりも明らかに劣った生育を示すことがあります。この現象は雑種弱勢と呼ばれますが、雑種植物の次の世代が得られないため、育種の障害となっています。私たちは、雑種弱勢の分子機構を明らかにするために研究を行っています。

トウガラシにおける雑種弱勢

トウガラシでは種間交雑で得られた雑種植物に雑種弱勢が生じることが知られています。遺伝学的には、片親に由来するA遺伝子ともう片親に由来するB遺伝子の相互作用によって弱勢が生じることが明らかになっていますが、遺伝子の実態はまだわかっていません。また、雑種弱勢がどのような仕組みで引き起こされるのかもよくわかっていません。そこで、トウガラシの雑種弱勢のメカニズムを解明するために研究しています。

雑種弱勢の表現型

トウガラシの種間雑種でどのような異常が生じているのかを調査しています。これまでに雑種弱勢は温度感受性であり、25℃以下で生じること、30℃以上では生じないことを明らかにしました(Shiragaki et al. 2021)。

CapsicumWeakness_Temperature


また、弱勢を示す雑種植物は、発芽後しばらくは両親と同じように生育しますが、次第に生育が遅延していく様子が観察されました。茎頂を調べると、雑種植物では茎頂分裂組織の発達が遅れ、扁平な構造をしていることがわかりました(下図B、E;Shiragaki et al. 2020)。

CapsicumWeakness_SAM

雑種弱勢に対する病害抵抗性の関与

雑種弱勢の生理学的な研究も行っています。これまでに、弱勢を示す雑種植物では細胞死が起きていること、活性酸素種である過酸化水素が発生していること、DNAのヌクレオソーム単位での断片化が生じていることを明らかにしました(下図;Shiragaki et al. 2020)。したがって、雑種弱勢の過程ではプログラム細胞死が起きていると考えられます。

CapsicumWeakness_DNALadder


また、弱勢を示す雑種植物では病害抵抗性関連遺伝子の発現量が増加していました(下図;Shiragaki et al. 2020)。

CapsicumWeakness_PRgene


これらのことから、トウガラシの種間雑種に生じる雑種弱勢では病害抵抗性に類似した現象が生じていることが示唆されています。

イネにおける雑種弱勢

イネでは品種間交雑で得られた雑種植物に雑種弱勢が生じることが知られています。トウガラシの場合と同じように、2つの優性補足遺伝子によって雑種弱勢が生じることが明らかになっています。イネの雑種弱勢は原因遺伝子によって表現型が異なりますが、下図は葉の黄化が特徴的な弱勢です。

RiceWeakness


こちらは両親と雑種(中央)を比較した写真です(Shiragaki et al. 2019)。

RiceWeakness2


これまでの研究で、雑種植物では活性酸素種である過酸化水素が発生していること、細胞死が生じていることなどを明らかにしています(Shiragaki et al. 2019)

RiceWeakness_ROS

雑種弱勢に関連する発表論文

*:Corresponding author(責任著者)

  1. Kumpei Shiragaki, Shuji Yokoi, Takahiro Tezuka* (2024) Abnormalities in juvenile-to-adult transition are associated with hybrid weakness in chili pepper (Capsicum). Plant Breeding 143(3): 403-411. https://doi.org/10.1111/pbr.13174
  2. Masanobu Mino*, Clément Lafon Placette, Takahiro Tezuka (2023) Editorial: Molecular insights in plant reproductive isolation barriers. Frontiers in Plant Science 14: 1257823. https://doi.org/10.3389/fpls.2023.1257823
  3. Hai He, Kumpei Shiragaki, Takahiro Tezuka* (2023) Understanding and overcoming hybrid lethality in seed and seedling stages as barriers to hybridization and gene flow. Frontiers in Plant Science 14: 1219417. https://doi.org/10.3389/fpls.2023.1219417
  4. Kumpei Shiragaki, Shonosuke Seko, Shuji Yokoi, Takahiro Tezuka* (2022) Capsicum annuum with causal allele of hybrid weakness is prevalent in Asia. PLoS ONE 17(7): e0271091. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0271091
  5. Kumpei Shiragaki, Hajime Furukawa, Shuji Yokoi, Takahiro Tezuka* (2021) Temperature-dependent sugar accumulation in interspecific Capsicum F1 plants showing hybrid weakness. Journal of Plant Research 134(6): 1199-1211 https://doi.org/10.1007/s10265-021-01340-1

  6. Kumpei Shiragaki, Shuji Yokoi, Takahiro Tezuka* (2020) A hypersensitive response-like reaction is involved in hybrid weakness in F1 plants of the cross Capsicum annuum × Capsicum chinense. Breeding Science 70(4): 430-437 https://doi.org/10.1270/jsbbs.19137

  7. Kumpei Shiragaki, Takahiro Iizuka, Katsuyuki Ichitani, Tsutomu Kuboyama, Toshinobu Morikawa, Masayuki Oda, Takahiro Tezuka* (2019) HWA1- and HWA2-mediated hybrid weakness in rice involves cell death, reactive oxygen species accumulation, and disease resistance-related gene upregulation. Plants 8(11): 450 https://doi.org/10.3390/plants8110450

  8. 手塚孝弘*・一谷勝之・松本雄一・何海・木下哲・宅見薫雄・久保山勉(2019)植物の生殖隔離機構解明に向けて ―多様性と統一性―.育種学研究 21(1): 75-80 https://doi.org/10.1270/jsbbr.21.W05

  9. Katsuyuki Ichitani*, Satoru Taura, Takahiro Tezuka, Yuuya Okiyama, Tsutomu Kuboyama (2011) Chromosomal location of HWA1 and HWA2, complementary hybrid weakness genes in rice. Rice 4(2): 29-38 http://dx.doi.org/10.1007/s12284-011-9062-2