金子勝規

研究者紹介

金子勝規  /教授   東南アジア経済論

キーワード:アジア、タイ、保健医療制度、介護制度、社会的企業

「東南アジア諸国の保健医療制度と高齢者介護制度の経済分析」

東南アジアにおける経済発展とグローバル化の進展は、 保健医療分野にも影響を及ぼしていると考えられています 。 労働者の国際間の移動は保健医療専門職にも見られる現象です。 東南アジアのほとんどの国は医師や看護師が不足している状態が続いており、 外国への頭脳流出は大きな政策課題です。

図1は人口 1 万人あたり医師数と人口 1 万人あたり医師流出数を表しています。 図から明らかなように両者には正の相関があることが東南アジア各国のデータから確認することができます。これは、人口あたりの医師密度が高い国ほど、 医師の流出が多く起こると理解することができ、 多くの医師を育てるだけでは医師不足の問題を効率良く解消することができない可能性が示唆されます。したがって、東南アジア各国は医師を自国の保健医療制度に留まってもらうための様々なインセンティブを提供しています。

「賦金調-明治8年」(総務省統計局統計図書館蔵)

図1  人口1万人あたり医師数と人口1万人あたり医師流出数

(出所)金子 (2014) p.29

タイでも経済発展によって生活水準が向上するにつれて、感染症による死亡率が低下する一方、慢性疾患の罹患率は上昇し続けています。がんの死亡率も上昇してきており、早期発見のために予防行動であるがん検診の受診が効果的と考えられます。しかし、医療保険・医療保障制度の拡充がモラルハザードを生じさせるために予防行動が低下する可能性もあります。モラルハザードの抑制を政策的に検討するにあたり、がん検診の受診行動に影響を与える要因を分析することで、個人属性の違いの他に居住地域の違いも受診行動に影響していることが明らかになりました。特に胆管がんのがん検診に関して、東北部では未調理の淡水魚を生食する食事習慣があることから、この疾病と予防に対する理解の高さが受診率を押し上げていることが分かりました

 

最近は東南アジアでも高齢化が進んでいるタイの高齢者介護制度の研究に取り組んでいます。タイでは 60 歳以上の人々が高齢者と定義されますが、2021 年までに高齢化率は 19.6%に達しています(図 2)

2016 年より本格的な公的介護制度の導入が進められています。人口の約 8 割が加入しているといわれる医療保障制度(UC 制度)の加入者のうち介護が必要な高齢者を対象に、 地方自治体の関与と要介護認定を要件とする介護サービスが提供されます。 厳しい予算制約下におけるサービスの供給において、介護ボランティアが大きな役割を担っています 。 都市と農村や地域別の比較から高齢化率や誰が介護提供者であるかについて地域間格差が生じていることが明らかになっており、 家族内介護が一般的ではあるものの使用人・介護労働者による介護サービスの利用は徐々に増加しており、 今後は介護需要の研究の必要性が高まると考えられます。

「大阪商法会議所月次報告」(個人蔵)_600×400

図2  タイの60歳以上高齢者の人口と高齢化率の推移

(出所) 金子、近刊

参考文献