鹿野繁樹

研究者紹介

鹿野繁樹  /教授   計量経済学

キーワード:パネルデータ分析、有効推定量、定式化の検定

「パネルデータ分析における有効性と定式化の検定」

複数の個人や、企業、国などを複数時点にわたって定点観測したデータを、パネルデータ(panel data)と呼びます。例えば図1は、複数人の労働者の年収(縦軸)を複数年追跡したパネルデータの数値例で、横軸 year=5の時点で職業訓練を受けた者を青、受けなかった者を赤のグラフで色分けしています。両グループの比較から、私たちは訓練の年収効果を確認することができます。この例のように、パネルデータは、複数個体の単時点データ(クロスセクションデータ)や、単一個体の複数時点データ(時系列データ)ではできなかった分析を可能にします。パネルデータの利用例として、Kishi and Kano (2020)を挙げておきます。

「賦金調-明治8年」(総務省統計局統計図書館蔵)

図1:パネルデータの数値例

さて、先の例で初期時点にさかのぼり、再び同一母集団の労働者の観測をし直したら、どうなるでしょうか?おそらく図1と異なる数字が並び、そこから推定される訓練の年収効果も変わるでしょう。この例に限らず、データ分析の結果は一般に、データの偶然性に起因する推定誤差を伴います。例えば訓練の年収効果が5%の上昇と推定されたとしても、その推定値が-10%から+10%の幅で振れるならば、この結果は信頼できません。そのため、推定誤差の正確な評価は、大変重要な作業です。一方で、データが持っている特性をうまく取り入れれば、より小さな誤差で分析ができる可能性もあります。誤差が理論上最小となる推定法を、有効推定量(efficient estimator)と呼びます。

 

パネルデータ分析でも、(1)正しい誤差の計算と(2)誤差の最小化は、重要な研究課題です。まず、パネルデータはいくつかの特徴があり、これらに注意しないと、誤差が正しく計算されません。また、これらパネルデータの特徴を分析に織り込むことで、誤差を削減できる道筋もあります。しかしながら、私たちがデータの特性を誤って認識し、そのもとで分析を進めたら、正しい誤差も得られませんし、誤差が改善される保証もありません。この分析者の「見当違い」を一般に、定式化の誤り(mis-specification)と呼びます。私の研究課題のひとつは、データから定式化の誤りを検出する、定式化の仮説検定の開発です。その成果の一部は、鹿野・高木・村澤 (2011) に公開済みです。近年は、パネルデータ回帰モデルの誤差項の系列相関に関する検定の研究に取り組んでおります。

       

参考文献