近藤真司
研究者紹介
近藤真司 /教授 経済学説史
キーワード:ケンブリッジ大学,経済学教育,レイトン,物価指数,『エコノミスト』紙
「アルフレッド・マーシャルを中心とするケンブリッジ学派の研究」
日本の大学では経済学を専攻している学生が一番多いと思われる。経済学という学問の歴史を辿ると,アダム・スミスの『国富論』(1776年)からわずか250年余であり,数学や天文学,医学などの学問は紀元前から存在し,経済学はそれらと比較すると新しい学問である。
20世紀初頭までケンブリッジ大学では経済学を学ぶことはできても,経済学の学位を取得することはできなかった。ケンブリッジ学派の創始者であるアルフレッド・マーシャル(1842-1924)によって,1903年に経済学の卒業試験(トライポス)がつくられたことにより学位が取得できるようになった。彼はケンブリッジで数学を専攻し,その後心理学研究を経て経済学研究を行った。マーシャルの現代経済学の貢献は,われわれが使っている経済学の分析道具の基礎を作ったことでもある。また,マーシャルの下で教育を受けた学生たちが後にケンブリッジ大学の経済学部のスタッフとして活躍する。
アルフレッドと妻のメアリー
(Pigou, A. C. ed.1925. Memorials of Alfred Marshall, Macmillan.)
マーシャルの下で教育を受けた人物としては,20世紀を代表する経済学者ケインズや厚生経済学の先駆者ピグーが存在する。彼らの下で形成されたケンブリッジ学派は世界を代表する学派の一つになった。妻のメアリーもマーシャルのもとで教育を受けたケンブリッジ大学の最初の女子学生で,大学で初めて経済学を教えた女性でもある。日本人でアルフレッドの下で学んだ人物として正式に確認できる人物として真中直道(慶応義塾大学教授),添田壽一(日本興業銀行総裁など), 左右田喜一郎(京都帝国大学講師)たちがいる。彼ら以外にもアルフレッドの在職中に,ケンブリッジ大学に在籍した日本人の中には三菱財閥の総裁を務めた岩崎小弥太がいる。
マーシャルの下で教育を受け,第1回目の経済学卒業試験で第1優等生の学位を取得した人物として,ウォルター・レイトン(1884-1966)がいる。彼は,ケインズとともに講師として「産業経済学」分野の講義を担い,実務的な教育を行った。彼は政府の要職に就くように要請され,その後国際連盟事務局の仕事も行い,『エコノミスト』紙の編集長として活躍した。ケンブリッジ大学は経済学者だけでなく,レイトンのような経済参謀として政府機関で活躍する人材も多数輩出した。彼の業績としては『物価研究入門』があり,当時整備されていなかった物価指数を現した。
そこで,ケンブリッジ大学での教育課程とレイトンをはじめ学外で活躍した経済学者を理論・政策・思想の側面から研究を行っている。
ケインズは次のような言葉を残している。「マーシャルが今日イギリスで見られるような経済学の父であるのは,彼の著作による以上に,彼の教え子によってである。」

ケンブリッジ大学
参考文献
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近藤真司(2023)「マーシャルの生活基準への途」, 『愉楽の標準の経済学』, 昭和堂.
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M.Kondo (2023) James Mill, John Stuart Mill, and the History of Economic Thought, Routledge.
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M.Kondo (2011) Marshall, Marshallians and Industrial Economics, Routledge.