内藤克幸

研究者紹介

内藤克幸  /准教授   マクロ経済学、公共経済学

キーワード:経済成長、投票

「経済政策と経済成長:政治経済学アプローチ」

政府は様々な経済政策を実施していますが、経済政策は経済成長や所得格差に対して重大な影響を及ぼしています。例えば、公的教育の拡充や公共投資は経済成長を促進させ、また、累進所得税制は富裕層から貧困層に所得を再分配し、所得格差を是正することが期待されます。

経済政策は異なる所得階層や異なる世代に対して相反する影響を及ぼすため、政策を巡る市民間での利害対立が発生します。市民間の利害対立は投票等の政治過程を通じて調整され、経済政策の規模等が決定されると考えられます。経済政策が政治過程を通じて決定されるような理論モデル(政治経済モデル)を構築し、どのような要因が経済政策、経済成長、所得格差に対してどのような影響を及ぼすのかを明らかにすることは、現実の経済政策を議論する上での重要な研究課題となります。私はこれまでに政治経済学的アプローチによる研究を進めてきましたが、以下で私の主要業績と現在進行中の研究プロジェクトを紹介します。

「賦金調-明治8年」(総務省統計局統計図書館蔵)

OECD加盟国における一般政府債務残高/GDP比率の平均と平均経済成長率(2007-2022年)

出所:OECD. Stat

主要業績であるArai, Naito and Ono (2018) は公債発行を巡る世代間利害対立に注目した研究です。税収が不足する場合、政府は公債を発行することで政府支出の財源を賄いますが、公債発行は経済成長を停滞させるとともに将来世代から現在世代への所得再分配を引き起こすと考えられています。本研究では、公債発行量や所得税率等の経済政策が投票過程で決定される理論モデルを構築し、政治的に決定される経済政策や経済成長パターンはどのような特徴を持っているのか、また、公債発行量に上限を設けるような財政ルール(マーストリヒト協定等)は経済成長や経済厚生に対してどのような影響を及ぼすのかという問題を分析しました。

 

最後に、現在進行中の研究プロジェクトを紹介します。現在、私は公共投資の役割に注目して研究を進めています。政府支出は政府消費(行政サービスの提供等)と公共投資(公共インフラの整備等)に大別されます。政府消費は現在世代のみに便益を及ぼす一方で、公共投資は将来世代に対しても便益を及ぼすため、公共投資の財源を公債によって賄うことには一定の合理性があると考えられます。本プロジェクトでは、様々な財政ルール(例えば、公共投資の財源としてのみ公債を発行できるような財政ルールや公債残高/GDP比率に上限を設けるような財政ルール等)が経済成長や経済厚生に及ぼす影響を政治経済学的なアプローチに基づいて解明することを目標としています。

参考文献