小川亮
研究者紹介
小川亮 /教授 地方財政論
キーワード:緊縮財政、財政健全化計画、住民移動、自然実験
「地方自治体の緊縮財政が住民移動に及ぼす効果」
人口減少が進む中、地方財政の厳しさが一層増しています。自治体による緊縮財政は、財政収支を改善し、公債残高を削減して財政の持続可能性を回復することを目的としています。しかし、その一方で、住民に対して行政サービスの縮小や負担増を強いることにもつながります。その結果、住民の流出や地価の下落を招き、地方税の課税ベースが縮小し、税収の減少を通じて財政再建に副作用をもたらすリスクが生じます。このような状況下で、財政健全化と地域経済のバランスをいかに取るかが、自治体にとって喫緊の課題となっています。
図1 社会増減率とその地域間差分(泉佐野市―類似団体(大阪府南部)平均)の推移
※泉佐野市は平成21年度に財政健全化団体に指定
出所)小川・木村(2016)の図3。
財政健全化のための緊縮財政が地域経済、特に地方税の課税ベースとなる人口や地価に与える影響の有無やその程度を、データを用いて明らかにすることを目的として研究に取り組んでいます。この因果推定では、欠落変数や逆因果による内生バイアスに対応する必要があります。そのため、私の研究では平成21年度に全面施行された「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」に着目しています。この法律では、財政指標が特定の基準値を超えた自治体が「財政健全化団体」に指定され、指定解除のために財政健全化計画を作成・公表し、緊縮財政を実施することが義務づけられています。この外生的なショックによる自然実験を利用して、緊縮財政が人口変動に与える影響を分析しました。
小川・木村(2016)は、平成21年度に財政健全化団体に指定された大阪府泉佐野市を対象に、指定前後で泉佐野市と非指定団体(近隣自治体または大阪府内の同規模・産業構造を持つ自治体)との間で人口変動の差がどのように変化しているかを比較分析しています。その結果、泉佐野市では相対的な人口減少が確認されました(図1)。さらに、泉佐野市以外の指定団体にも目を向け、Kimura and Ogawa (2025) は、指定基準をわずかに超えた団体(指定団体)とわずかに超えなかった団体(非指定団体)との間で人口変動を比較する回帰不連続デザイン(RDデザイン)を用いて分析を行いました。その結果、他の指定団体を含めた場合でも、緊縮財政が人口に対して負の効果を与えていることが確認されました。また、年代による効果の異質性も見られ、副作用への対策に関する政策的示唆を与える結果が得られました。現在、人口減少に続いて地価への影響についても検証を進めています。
参考文献
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小川亮・木村真、「泉佐野市の財政健全化への取組みが人口にどのような影響を与えたのか」、『地域学研究』、Vol. 46(No. 3)、309-323頁、2016年。
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Kimura, S. and R. Ogawa, “Local Fiscal Austerity and Migration: Evidence from Japan’s Fiscal Rule Reform,” mimeo, 2025.