岡澤亮介

研究者紹介

岡澤亮介  /准教授   マクロ経済学, 政治経済学, 経済成長論

キーワード:制度,公共選択,経済成長, 不平等

「制度と国家能力は経済発展にどのような影響を与えるのか?」

2024年のノーベル経済学賞は経済成長と制度の関係を分析した研究者たちに与えられました。経済成長に関する最新の研究では、民主的な制度を通じて国家権力に対して制約を課すことが経済の長期的発展にとって重要であることが明らかにされています。

しかし、世界の最貧国の実情を考えると「国家の権限をいかに制限するか?」という問題よりもそもそも「基本的な公共サービスすら提供できない脆弱な国家をいかに機能させるか?」という問題の方が深刻に思えます。

私は主にこのような「制度」、「国家の行政能力(state capacity)」、と「経済成長」の複雑な関係について社会の経済環境だけでなく政治的な側面にも注目して研究しています。

 

「賦金調-明治8年」(総務省統計局統計図書館蔵)

 

図1:国家の脆弱性の指標(2016)

官僚制度の変遷 最近の研究では国家能力に大きな影響を与える「官僚制度」の質に注目し、その歴史的な変遷を理論的に分析しました (Mizuno and Okazawa 2025)。分析の結果、官僚制度が未成熟である場合には、政府部門は多くの国民が享受する公共サービスを提供するという本来の役割よりも、政治家が自身への投票と引き換えに支持者に公職を提供するという形の恩顧主義 (クライエンティズム) の手段として利用されやすくなり、腐敗した政府のもとでは制度の質がさらに劣化するため、社会が「脆弱国家の罠(weak-state trap)」と呼ばれる悪循環に陥る危険性があることを示しました。

また、選挙権の拡大は政治家の票の買収を促進してしまうため、政府機能が未成熟な段階における民主化は制度の発展を妨げる可能性があることを示しました。この結果は経済の発展にとって「国家建設」と「民主化」という2つの重要な目標を考える際にその順番が重要であることを示唆しています。

 

歴史・文化との関係について

制度や国家能力はそれぞれの国の歴史的事象や文化的要因の影響を受けて長い時間をかけて形成されたものです。市民の所得情報を把握し、適切な徴税を行いながら、教育や医療・インフラなど必要な公共サービスを効率的に提供できる民主的な政府を実現することは決して容易ではありません。

また、形のない制度がうまく機能するためには、人々がその理念や目的を正しく理解した上で、社会の中で広く受け入れられなければなりません。そのため、国の慣習や規範、宗教などの社会的要因と制度の関係も無視することはできません。

制度と経済発展の関係をより深く理解するために、今後は従来の経済学ではあまり重視されていなかった歴史や文化などの要因の果たす役割についても研究してみたいと考えています。

「大阪商法会議所月次報告」(個人蔵)_600×400

図2:検地の様子

(検地は当時の国家の徴税能力を高める重要な手段です。)

出典:安藤博 編『徳川幕府県治要略』,赤城書店,大正4. 国立国会図書館デジタルコレクション

参考文献