佐藤健治
研究者紹介
佐藤健治 /准教授 マクロ経済学
キーワード:経済成長、内生的景気循環、複雑性
「経済の成長と循環」
一国経済の物質的な豊かさは、平均的には年々向上しています。これは、資本の蓄積や技術の進歩などに伴って起こる経済成長です。一方、数年の単位で見ると、景気の浮き沈みを経験しています(図1)。景気循環とか経済変動と呼ばれる現象です。私は、このような、経済の「成長」と「循環」に関する研究に取り組んでいます。特に、循環を伴う経済成長が出現するメカニズムに関する理論研究に取り組んでいます。
図1:日本の実質GDP
(出所: 内閣府「国民経済計算」)
新規性追求傾向に関する応用理論研究
Furukawa, Lai and Sato (2020, 2024) では、経済主体の新発明に対する「新規性追求傾向(love of novelty)」が経済成長に与える効果を検証しました。ここでは、新しく発明されたばかりの財を好んで使いたがる傾向を新規性追求傾向と呼んでいます。技術や財が新たに発明されることが経済成長の重要な源泉なので、新規性追求傾向が弱い社会では、経済成長が起こりにくいと考えられますが、Furukawa, Lai and Sato (2024) では、新規性追求傾向が弱すぎる社会だけでなく、新規性追求傾向が強すぎる社会でも経済停滞が起こるメカニズムを報告しました。つまり、新規性追求傾向と経済成長の間には逆U字効果があることがわかりました。さらに、中間的な新規制追求傾向をもつ経済では循環を伴った経済成長が起こることも確認できました。
複雑な景気循環
近年のマクロ経済モデルの多くは最適成長モデルと呼ばれるモデルを基礎に構築されています。最適成長モデルをシミュレーションすると多くのケースで長期的に安定な状態「定常状態」に落ち着く様子を見せるのですが、ときどき景気循環を生じさせる場合があります。「内生的景気循環」と呼ばれる現象で、経済には循環的な性質が備わっている可能性を示唆しています。現実の景気循環は予測不可能な事象によって生じているだけでなく、経済に本質的に備わった性質に起因して生じている可能性があるということです。さらに、この景気循環が「カオス」と呼ばれる複雑性を示すケースがあり、経済学的にも数学的にも興味深い分野です。この分野での研究として、Yano and Sato (2019) などがあります。
参考文献
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Y. Furukawa, T. Lai, K. Sato "Love of novelty: a source of innovation-based growth… or underdevelopment traps?" Macroeconomic Dynamics 28, 647-674, 2024.
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Y. Furukawa, T. Lai, K. Sato "Novelty-Seeking Traits and Applied Research Activities," Applied Economics Letters 27, 945-950, 2020.
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M. Yano, K. Sato "Ergodic Chaos for Non-expansive Economic Models," International Journal of Economic Theory 15, 311-320, 2019.