杉田菜穂

研究者紹介

杉田菜穂  /教授   社会政策・人口論

キーワード:社会保障、福祉国家、優生・優境、性と生殖、詩歌

「社会政策・人口論の歴史研究」

私は、よりよい社会になるためにはどうすればよいのかを人口問題と社会政策の関係性、その史的経緯のなかに探ろうとしてきました。

社会政策・人口論の歴史を語る上で欠かせないのが、マルサスの『人口論』(初版、1798年)です。マルサスは人類が深刻な食糧難や貧困問題に直面するという悲観的な未来を描いたことでよく知られていると思いますが、私はマルサスが<よりよい社会を目指す>視点を持っていたことに注目しています。『人口論』の初版のタイトルには社会の将来の改善(future improvement of society)、第二版以降のタイトルには人類の幸福(human happiness)という副題が入っており、特に『人口論』の第二版以降では社会の進歩や幸福に関する問題にも重点をおいて論じられています。 

このようなことを手がかりに、よりよい社会になるために今できることについて歴史から学ぶことを大切にしています。

「賦金調-明治8年」(総務省統計局統計図書館蔵)

マルサス『人口論』

大阪公立大学図書館所蔵

特に関心を持っているのは、人口政策と人権保障の接点です。人口と開発をめぐる国際的な議論の史的経緯を振り返ってみると、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)が提唱された1994年の国際人口・開発会議(エジプト、カイロ)とその翌年に開催された世界女性会議(中国、北京)は、人口政策と人権保障の関係性という論点をめぐる重要な転機になりました。

 

性や生殖といった究極的な私事について理解を深めることは、自分を大切にすること、自分らしく生きることにもつながるように思います。人口の問題は人権の問題でもあるという観点からの問題提起を通して、性別などの属性にかかわらず個人の自由や権利をお互いに尊重し合うことの大切さ、健康や幸福についての理解が進んでいくといいなと思っています。

参考文献