浦西秀司

研究者紹介

浦西秀司  /教授   産業経済論

キーワード:公益事業、規制緩和、民営化、生産性、構造分離

「公益事業の規制政策に関する計量分析」

電気・ガス・水道・交通・通信といった財・サービスは、企業の経済活動を支える重要なインフラであるのみならず、私たちが社会的生活を営む上で必要不可欠なものです。このような財・サービスは、国の規制下にある民間企業や、国・地方公共団体によって設立された公企業によって供給されています。

わが国では、1980年代後半から民営化や規制緩和の取り組みが進められました。1985年に日本電信電話公社が民営化され、それ以降、国有鉄道、高速道路、郵便といった事業が民営化されました。また、電気・ガス・交通のように、主として民間企業によって供給されてきたものについても、従来は国の規制によって参入・退出や料金設定が厳しく制限されていましたが、1980年代以降の行政改革の取り組みを経て、インセンティブ規制の導入や需給調整規制の廃止など、規制緩和が段階的に進められてきました。

「賦金調-明治8年」(総務省統計局統計図書館蔵)

私の研究分野は、公益事業を対象に、経営形態や規制政策が産業の費用構造や事業者の生産性に与える影響を、財務・経営に関連するデータを用いた計量的手法によって分析することです。これまで、郵便局と民間宅配便事業者との競争が事業者の生産性に与える影響や、ユニバーサルサービス供給コストに関するシミュレーション、国鉄民営化が資本規模に与える影響、道路関係4公団の民営化が事業者の効率性に与える影響、OECD加盟各国の鉄道産業における構造分離政策が費用に与える影響などの分析に取り組んできました。

近年、わが国では利用者の長期的な減少傾向による地域鉄道の路線維持が大きな問題となっています。よって、現在は地域鉄道の事業形態による総費用の比較を行うとともに、現状の事業形態からの変更にともなう費用削減効果と公民連携の取り組みが輸送需要に与える影響とを組み合わせ、地域鉄道の持続可能性に関するシミュレーションに取り組んでいます。

これまでの公益事業の規制緩和や構造分離政策に関する計量分析から得られた知見をもとに、現状において県および沿線自治体による費用分担の程度を反映し選択されている地域鉄道の事業形態について、鉄道インフラの維持管理や、上下分離にともなう事業者間の取引費用だけでなく、総費用に影響を与えうる組織設計や戦略も含んだ組織統治といった視点を取り入れることができれば良いなと考えています。

「大阪商法会議所月次報告」(個人蔵)_600×400

      

参考文献