研究内容/Research

研究目標

  物質の物理的性質や化学反応は、原子・電子構造によって決定さます。物質の特徴的な原子配列と電子構造の関係を理解することは、物質特性の起源を明らかにするだけでなく、先端材料の設計・探索にも重要です。 

  私達の研究室では、空間的に局在するd電子やf電子の強い電子相関が物性に重要な役割を果たす遷移金属化合物や希土類化合物の物性(電気特性、磁気特性、光学特性、触媒特性など)を予測する新しい第一原理アプローチを確立することを目的としています。また、機械学習やデータマイニングの手法を材料設計や解析に応用についても研究を進めています。

研究テーマ

ペロブスカイト型酸化物触媒における酸素発生反応・酸素還元反応

  酸素発生反応 (Oxygen evolution reaction; OER)および酸素還元反応 (Oxygen reduction reaction) は、金属空気二次電池や再生可能エネルギーによる水分解などのエネルギー変換において重要な役割を担っています。OER/ORRの熱力学的平衡電位は、可逆性水素電極(RHE)に対して1.23Vです。しかし、実用的な速度で反応を進行させるためには、活性化障壁に相当する過剰な電位(過電圧)を印加する必要があり、大きなエネルギー損失に繋がります。そこで、OER/ORRの過電圧を下げるために、適切な触媒が必要となります。地球上に豊富に存在する元素からなる単純なペロブスカイト酸化物 ABO3 は、OER/ORR触媒の有望な候補として広く研究されています。私たちは、密度汎関数計算を用いて、バルクの電子構造とOER/ORR触媒活性の関係を調べています。また、表面スラブモデルを用いて理論過電圧の計算を行い、様々な酸化物におけるOER/ORRの反応プロセスの解析を行っています。

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四重ペロブスカイト酸化物 LaMn3Mn4O12における酸素発生反応機構。

内殻電子分光の理論解析手法の開発

  X線吸収分光法(XAS)は、物質中の量子状態間の電子遷移に伴う光子の吸収を観測するもので、元素選択的、軌道選択的な情報を得ることができるユニークな特徴があります。近年の装置開発により、これらのスペクトルを高エネルギー、高空間分解能で測定することが可能になっています。一方で、実験結果から得られる原子構造情報を利用するためには、スペクトルを定量的に再現できる信頼性の高い理論計算手法が必要不可欠です。

  私たちは、XAS解析のための第一原理電子状態計算について研究してきました。最大の成果は、量子化学的手法を用いて強相関系の遷移金属(TM)L2,3端 XAS(TM 2p-3d遷移)を世界で初めて第一原理的に再現することに成功したことです。この方法は、X線磁気円二色性(XMCD)や共鳴非弾性X線散乱(RIXS)など、他の分光法の解析にも拡張されています。

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第一原理計算によるMnOのMn L2,3端XASとRIXSの理論スペクトル