研究テーマ(中條)
代表的な研究について
台風災害の研究
台風は地球が太陽から受けるエネルギーの不均一さに由来し,赤道付近から南北方向に潜熱エネルギーを輸送するために生じる自然災害です.日本の建物の設計時には台風時の「強風」が設計外力として用いられますし,強風が引き起こす「高波」「高潮」は沿岸構造物の設計条件となっています(東北地方など津波が設計条件となっている地域もありますが,東京湾・伊勢湾・大阪湾はいずれも台風が設計条件を決めています).台風は「大雨」ももたらします.大雨は外水氾濫(洪水)や内水氾濫(下水のあふれ出し)を引き起こします.また,強風とともに大雨がやってくることで避難は困難になります.
気象の観測技術と予測モデルの発展により,台風はいつ来るかわからない天変地異ではなく,「数日後にはやってくる」のがわかるようになっています.しかし,それでも事前避難への取り組みは十分ではなく,逃げ遅れや事前ダム操作,計画運休などの問題があります.また公助として高潮や洪水に備える防潮堤や堤防といった構造物の建設により広域水害を防ぐことも必要です.しかし,「100年や200年に1度の災害に備えるためにはどのくらいの災害規模を想定すべきであるのか」,「将来の気候変動の影響を考えるにはどの程度の不確実性を考慮しなくてはいけないのか」という事に答えるのは簡単ではありません.本研究室ではこうした台風災害の課題解決に取り組んでいます.
将来(2100年頃)の台風頻度の変化量予測(#/year)
将来(2100年頃)の100年確率中心気圧の変化量予測(hPa)
- 台風災害
- 不足する台風資料
- 予測の不確実性について
- 高潮と高波
- 防災教材
気象津波の研究
台風のように天気図でも確認できる大規模な気象現象と異なり,数値予報情報や気圧計を使っても検出が難しい微気圧波が引き起こす災害もあります.「気象津波」と呼ばれる現象は,高速で移動する微気圧波が,海洋長波と同じ程度の速度で移動することによって,通常のサクション効果よりも大きな水位変動を発生させます(Proudman共鳴).洋上で増幅した気象津波は湾内に侵入すると,湾や港の固有周期で増幅されてさらに顕著な振動を発生させて(副振動),船舶などの係留物に被害を与えたり,浸水被害をもたらすこともあります.2022年1月にトンガの海底火山噴火で発生した気圧波が世界中を巡ってもたらした「予期せぬ津波」も,この気象津波とよく似たメカニズムで生じたものと考えられています.
本研究室では高精度気圧計や水位計によるモニタリングと,領域気象モデルWRF,非線形長波方程式の数値解析などを通じて気象津波のメカニズムについての研究を進めています.事前予報が困難な気象津波に対し,ニューラルネットワークなどの方法を用いて限られた情報から事前予測する方法についても検討しています.
砂浜のモニタリングの研究
気候変動によって海水温が上昇することによる熱膨張と南極やグリーンランドの氷や氷河が溶けだすことによって,世界中の海水面は上昇を続けています.海水面上昇の速度は今後の気候変動研究によって明らかになっていきますが,遅かれ早かれ海水面が上昇することは間違いありません(場所によっては地殻変動による隆起や,氷床の融解による加圧が解放され,相対的に海水面が低下することはあります).海水面が上昇することによって,世界中の沿岸都市では洪水リスクが高まることから設計条件の見直しが必要になります.自然海岸の一形態である砂浜は,安らぎや恵みを与え,レジャー空間としても世界中で親しまれていますが,海面上昇や将来の波浪変化によって失われる可能性が高いとされています(背後地が自然侵食されるのであればいずれ新たな砂浜が形成されますが,背後地が開発されていれば侵食される土地が無く砂浜だけが失われます.また,国土が喪失するという問題は回避できません).
全国には1 km延長以上の砂浜海岸だけでも800以上,小さなポケットビーチであればそれ以上の砂浜海岸が存在します.それらの海岸がどの程度将来失われるかという評価には,砂浜の幅や奥行きといったマクロスケールの情報だけでなく,砂浜を形成している砂粒の大きさ(粒径)や密度といったミクロスケールの情報が重要になります.マクロスケールの情報は衛星画像などから評価することも可能ですが,ミクロスケールの情報は現地調査が必要です.しかし,全国の砂浜の粒径をモニタリング(変化が無いか継続的な観測)をすることは大変な労力がかかります.また,例えば海外の砂浜を調査する場合にサンプルを持ち帰ることは検疫上の課題があります.このような背景から,砂浜の粒度分布を現地で撮影した画像から分析する手法の開発などに取り組んでいます.
構造物内部およびその周辺の波と流れの研究
間隙をたくさん有する多孔質構造物は,広い接触面積を有するので,礫間接触酸化と呼ばれる微生物作用によって水質浄化性能を有しています.また,固体表面で粘性作用によって流れのエネルギーを消失させることができるため,波浪の減衰,特に長周期波浪の低減に効果が期待されています.こうした多孔質構造物の内部や周りの流れの実態を知ることで,環境や防災性能の高い構造物の設計や配置を検討できますが,そうした内部流れの計測はもちろん,数値解析も簡単ではありません.多孔質体を通過する流れは通過にともなう圧力低下の知見からモデル化が行われてきましたが,そうした巨視的モデルを「多孔質体の流入部」「多孔質体の流出部」「内部で間隙構造が遷移する場合」などに適用することの妥当性は明らかではありません.
本研究室では複雑形状を有する構造物の内部からその周辺におよぶ「多孔質体流れとその遷移域」を対象に研究しています.流れの計測には「屈折率整合法」による画像解析手法を,数値解析には任意の固体壁面形状の取り込みが容易なImmersed Boundary法を主に用いながら研究を進めています.