結晶中の欠陥

結晶中の欠陥


結晶は原子が3次元的に規則的に並んでできていますが,実際の結晶の中にはいろいろな「欠陥」が数多く存在します.図1は約5千個の直径 1 mm のステンレス鋼の球を2枚のアクリル板のあいだにはさんだもので,鋼球を原子に見立てれば,原子が正三角形状に並んでできた結晶の2次元模型と見ることができます.これを軽く揺すぶってから静止させて眺めてみると,まず全体が一つの結晶とはなっておらず,向きの異なる小さな区画に別れているのが見えます. 小さな区画それぞれを「結晶粒(りゅう)」とよびます.わたしたちが日常手にする固体はほとんどがこのような小さな結晶粒の集合体です(多結晶体といいます).結晶粒の境目は「結晶粒界」とよばれ,結晶の規則的な配列が途切れている欠陥です.結晶粒界は3次元の多結晶体では2次元,すなわち面状の欠陥になっています.

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図1. 2次元結晶モデル.微結晶の境界(結晶粒界)や空格子点が見えています.


固体材料はいったん溶解してから凝固させて作るのが普通です.溶融状態から温度が下がってきて凝固点に達すると,あちこちで小さな結晶ができ始めますが, それぞれの結晶の向きは違うので,それらが成長してできる材料は多結晶体になります.普通の金属材料では結晶粒の大きさは10ミクロンから100ミクロン (ミクロン=マイクロメートル=百万分の1メートル)程度です. どこか一点から結晶を生成させ注意深く一方向に成長させると,巨視的な大きさの固体全体が一つの結晶になることもあります.このような「単結晶」材料は育成に特殊な技術が必要でコストがかかりますが,たとえばジェットエンジンのタービンブレードにはニッケル基の超耐熱合金の単結晶が使われています.この合金はそもそも高強度で通常の金属と違い高温でもあまり強度が低下しないのですが,結晶粒界のない単結晶は多結晶材料よりもさらに高温強度に優れています. それで,メンテナンスの費用や信頼性などを総合すると高い製造コストを補って余りある単結晶材料が使われているのです.

点欠陥(準備中)
結晶転位(準備中)