ナノマイクロバブルの力学
- ナノマイクロバブルの力学に関する研究
超音波医療の分野では,直径10ミクロン以下のマイクロバブルを,超音波診断の際の造影剤や遺伝子治療における遺伝子の「運び屋」として利用する試みがある.マイクロバブルは,その小ささゆえに,体内の微細部分にも進入可能であるなどの利点を持っており,その利用価値は大きいが,逆にその小ささゆえに,個々の気泡の力学には不明な点が多い.また,界面活性剤が付着したマイクロバブルの運動は,人体の肺胞の運動とも類似点が多い.本テーマでは,マイクロバブルの力学を理論・実験の両面から解明する.
-
- マイクロバブルのレーザトラップ
粒子にレーザ光を照射すると,光の運動量変化に相当する光学力が粒子に作用する.この力は,周囲媒体と捕捉物体の屈折率に依存し,周囲媒体の屈折率が捕捉物体よりも小さい場合には,集束させたレーザ光を捕捉物体に照射させることにより物体を捕捉できる.しかし,周囲媒体が水で,捕捉物体が気泡の場合には,光学力は気泡をレーザ光から引き離す方向に作用するため,単純に集束光を照射するだけでは気泡を捕捉できない.そのため,中空円錐状のレーザのカーテンを利用する(Fig. 1).気泡は円錐状のレーザのカーテンに沿うように浮上し,集束点直下の浮力と光学力が釣り合う位置で捕捉される(Fig. 2).
Fig. 1 Schematic of laser trap Fig. 2 Laser trap of a microbubble
-
- 界面活性剤が付着した気泡の力学
肺サーファクタントにおいて観測されるように,界面活性剤が界面に吸着した気泡では,界面活性剤の吸着状態が,気泡の膨張時と収縮時で異なることから,収縮時(表面積が減少する時)と膨張時(表面積が増加する時)とで表面張力のヒステリシスが存在する.このような動的な表面張力の変化をおよび界面での拡散抵抗を考慮したマイクロバブルの力学モデルを構築する.
音響性リポソームの力学
医療応用で用いられるマイクロバブルは,安定化のために膜や殻で覆われた構造をしている.その一つである音響性リポソーム(ALs)は,生体膜と同様の脂質膜で覆われた気泡であり,ドラッグデリバーリーシステムなどでの利用が期待されている.ALsの特徴のひとつは,気泡の収縮時に脂質膜が折りたたまれることにより,気泡表面に凹凸が形成される(Backling).これは,収縮により気泡の表面積が減少することで,気泡表面のリン脂質膜が過圧縮されることにより,余分なリン脂質膜が多重層を形成しているためと考えられる.そのまま収縮が進むと,凹凸は気泡表面から瞬間的に消滅し,気泡表面は滑らかになる.また,音場中に置かれたAlsは,パラメータ励振の機構により,表面振動が生じる.
Fig. 3 Backling Fig. 4 Surface oscillation