粗面・透過性壁面乱流に関する研究

はじめに

自然界や工業製品に見られる壁面の多くは流体力学的な滑面とはみなせないことが多く,壁面には透過性や粗さを有しており,その影響を無視することができない.例えば,工業製品では製造過程の表面処理に応じて様々な形状の粗さが生じる他,実際の運転条件下のガスタービンや内燃機関では不燃物質の不着や衝突によって粗さが生じる.また,燃料電池ガス拡散層や自動車の触媒反応体などの多孔体も透過壁面と言える.さらに,自然界において,河川の川底,ビルの立ち並んだ都市のビル群や森林においてもマクロな視点で見ると粗さ壁面や透過性壁面とみなすことができる.粗さ壁面や透過性壁面に接する乱流を理解することは,機械工学以外に限らず,化学工学,都市工学,環境工学,医用工学など様々な工学分野で極めて重要である.本研究グループでは,粒子画像流速測定法による流速計測実験,感温性塗料による熱伝達計測実験,格子ボルツマン法による直接数値シミュレーションを実施し,粗さ壁面・透過性壁面に接する乱流を理解・予測し,これらを用いた熱流動制御を行うことを1つの目標として研究を行っている.ここではいくつかの研究テーマに関する説明を行う.

粗さ壁面の乱流熱流動場の現象解明

壁面に設置された粗さは運動量や熱輸送を増大させることが知られており,ガスタービン内部の冷却流路や太陽熱発電システム等の熱交換器の性能向上のために用いられている.しかし,壁面粗さは熱輸送を増大させるのみならず,運動量輸送を増大させるために,熱交換性能の向上と引き換えに,流動抵抗の増大を引き起こすことが知られている.これらの熱輸送・運動量輸送の増大量は粗さの幾何的な形状に大きく依存し,熱交換器の性能向上の為には,少ない流動抵抗で高い伝熱性能を持つ粗さ形状を設計することが求められる.しかし,粗さの幾何構造が熱輸送に与える影響については未だに理解が十分ではない.本研究グループでは,粗さの幾何パラメータを系統的に変更した粗面を用いた数値シミュレーションや感温性塗料を用いた伝熱実験を行い,粗さ形状が運動量・熱輸送に与える影響の解明に取り組んでいます.

半球状粗さ群が瞬時速度場(上図),温度場(下図)に与える影響の可視数(R Nagura, K Suga, Y Kuwata, Results in Engineering 24, 103284)

3次元波状粗面上の乱流熱流動の可視化 .コンターは瞬時の変動温度を表し,水色の等値面は乱流渦を可視化している(Y Kuwata, W Yagasaki, K Suga, International Journal of Heat and Fluid Flow 109, 109537)

感温性塗料を用いた3次元波状粗面のヌセルト数分布の計測例

研究成果:

  • Y Kuwata, W Yagasaki, K Suga, "Effects of steepness on turbulent heat transfer over sinusoidal rough surfaces", International Journal of Heat and Fluid Flow 109, 109537
  • R Nagura, K Suga, Y Kuwata, "Direct numerical simulation of turbulent heat transfer over surfaces with hemisphere protrusions", Results in Engineering 24, 103284
  • Y Kuwata, "Reynolds number dependence of turbulent heat transfer over irregular rough surfaces
    Physics of Fluids 34 (4)

粗さ壁面に接する乱流予測モデルの構築

粗さ構造は3次元的で非常に複雑である為,粗さ壁面に接する乱流の数値シミュレーションを実施することは非常に困難である.特に,粗さ構造を計算格子で正確に解像して再現することは,格子生成の観点でも非常に困難である.さらに,計算格子数も膨大になる為に,数値シミュレーションには多大な計算コストを必要とする.本研究グループでは,複雑な粗さをマクロに取り扱う数学モデルを開発し,設計現場などで汎用的に使用できる粗面モデルの開発を進めている.

粗さの幾何的な構造を格子解像した数値シミュレーション.粗さ構造を正確に再現する為に膨大な格子点数が必要となる.

粗さ領域に数学モデルを用いることで,粗さの構造を直接解くことなく粗さ効果を再現した数値シミュレーション.

粗さ構造を解かないので,少ない計算格子数で低コストなシミュレーションが可能.

研究成果: 

  • Y Kuwata, K Suga, "An extension of the second moment closure model for turbulent flows over macro rough walls", International Journal of Heat and Fluid Flow 77, 186-201
  • Y Kuwata, Y Kawaguchi, "Direct numerical simulation of turbulence over resolved and modeled rough walls with irregularly distributed roughness" International Journal of Heat and Fluid Flow 77, 1-18

透過性壁面に接する乱流現象の理解

透過性壁面(多孔体壁面)に接する流れでは,透過性壁面近傍に生じるケルビンヘルムホルツ不安定性に伴った大スケールの乱流渦構造が発達し,粗面に接する流れとは異なる特性を持つことが知られている.透過性壁面上では,流れと垂直のスパン方向に軸を持つロール渦構造が発達し,運動量輸送を増大させる.本研究グループでは,粒子画像流速測定法や直接数値シミュレーションを通じて,これらのロール渦の発生条件や構造に関する議論,透過性壁面上の速度場のスケーリング,透過性壁界面の運動量・乱流輸送を明らかにした.

発泡多孔体を模擬した多孔体上の乱流渦構造の可視化 (Y Kuwata, K Suga,  Journal of Fluid Mechanics 981, A3)

粒子画像流速測定法によるリブ付き発泡多孔体上の乱流の可視化

研究成果: 

  • Y Kuwata, K Suga, "Reynolds number dependence of turbulent flows over a highly permeable wall",  Journal of Fluid Mechanics 981, A3
  • Y Kuwata, "Role of spanwise rollers by Kelvin–Helmholtz instability in turbulence over a permeable porous wall",  Physical Review Fluids 7 (8), 084606
  • Y Kuwata, K Suga, "Lattice Boltzmann direct numerical simulation of interface turbulence over porous and rough walls", International Journal of Heat and Fluid Flow 61, 145-157
  • K Suga, Y Matsumura, Y Ashitaka, S Tominaga, M Kaneda, "Effects of wall permeability on turbulence", International Journal of Heat and Fluid Flow 31 (6), 974-984
  • K Suga, Y Nakagawa, M Kaneda, "Spanwise turbulence structure over permeable walls",Journal of Fluid Mechanics 822, 186-201

テイラークエット流れの数値解析

近年,CO2排出抑制などの環境問題により自動車の電動化が注目されている.その中で,電気自動車用に用いられるモータは小型化,高効率化が進んでおり,それに伴い発熱密度が増加する為,これらの冷却が重要となっている.冷却方式の一つとして,モータ内部に絶縁性の油を通流し発熱部位を直接冷却する油冷方式は高い冷却効果を得ることができる.モータ内部は内側で回転するロータと外側で固定されるステータコイルで構成されており,油冷モータの場合は,その間を空気と油で満たしている.その際,ロータ・ステータがそれぞれ有する溝はロータを駆動するために必要な一方で,熱だまりの発生や摩擦抵抗の増大の原因になり得る.本研究グループでは,ロータ・ステータ溝が伝熱特性に及ぼす影響を明らかにするために,スーパーコンピュータを用いた大規模な直接数値シミュレーションを行っています.

溝付きテイラークエット乱流熱流動の可視化.上は乱流渦構造を可視化しており,下は瞬時温度を可視化している.

研究成果 : K Suga, K Takeda, Y Amano, Y Kuwata, M Kaneda,"Torque and heat transfer characteristics in Taylor–Couette turbulence with an axially grooved cylinder", International Journal of Heat and Fluid Flow 110, 109586