複雑熱流動に適用可能な壁モデルの開発

はじめに

様々な流体機械に関連する流れをはじめとして,我々の身の回りでみられる流れの多くは乱流化している.特に壁面に発達する乱流境界層において,壁面のごく近傍では非常に微細な乱流渦が発達し,平均流速や乱流量が急激に変化する.これらの流れをシミュレーションするためには,壁面近傍に非常に細かな計算格子が必要となる.特にレイノルズ数の高い流動場においては,壁面近傍の乱流渦はますます微細化する為,正確なシミュレーションを行う為には膨大な計算格子が必要となる.その為,乱流の数値シミュレーションにおいて,解析に必要なリソースの大部分が壁面近傍に費やされているといっても過言ではない.この問題を解決するために,壁面近傍の乱流をモデル化し,計算コストを大幅に減らす壁モデルを用いたシミュレーションが行われている.本研究グループでは,英国UMISTで開発された解析的壁関数をもとに,様々な乱流場において適用しうる壁モデルの開発を行っている.

高温(下)・低温(上)壁の平行平板間乱流の瞬時温度の可視化.壁面近傍で温度が急激に変化し,微細な乱流渦構造が観察できる.

低温壁面近傍の瞬時温度の可視化.流体は手前から奥に流れており,壁面近傍に複雑かつ微細な乱流渦構造が観察できる.

粘性係数の温度依存性を考慮した壁モデルの開発

流体の粘性係数は温度に応じて変化し,特に液体の粘性係数は温度依存性が大きい.本研究グループでは,水流を対象として,粘性係数の温度依存性を考慮した直接数値解析を行った.得られた結果をもとに,粘性係数が変化する乱流熱流動のスケーリングについて議論を行い,既存の壁モデルを改良したモデルを提案した.

研究成果: Y Kuwata, K Suga, "Direct numerical simulation study on wall-modeling of turbulent water channel flows with temperature-dependent viscosity", International Journal of Heat and Fluid Flow 109, 109536

Large Eddy Simulationに適用する解析的壁モデルの開発

近年の計算機技術の飛躍的な発展に伴って,産業界における数値流体解析手法としてLarge Eddy Simulation(LES)という手法が関心を集めています.LESは非定常的な乱流変動を直接扱う為,従来のレイノルズ平均モデル(RANS)よりも高い精度で乱流熱流動を解析することが可能となる.解析的壁関数は,RANSの適用を前提として開発されたが,本研究グループではLESに適用するために,モデルの拡張を行った.

研究成果: K Suga, T Sakamoto, Y Kuwata, "Algebraic non-equilibrium wall-stress modeling for large eddy simulation based on analytical integration of the thin boundary-layer equation", Physics of Fluids 31 (7)

複雑熱流動場に適用する解析的壁モデルの開発

衝突流れのよどみ点,剥離流れの再付着点近傍では熱伝達が増加することが知られているが,レイノルズ平均モデル(RANS)では衝突・剥離を含む熱流動場を正確に予測することは容易ではない.特に,このような熱流動場においては,対数速度分布を基本とした標準壁関数モデルと比べて,解析的壁関数モデルは原理的に高い予測精度が期待される.本研究グループでは,解析的壁関数モデルを改良することで,衝突や剥離を含む複雑な流れ場において高い予測精度を有する壁モデルの開発を行った.

研究成果: K Suga, Y Ishibashi, Y Kuwata, "An analytical wall-function for recirculating and impinging turbulent heat transfer", International journal of heat and fluid flow 41, 45-54