研 究

新規な有機・高分子材料の創生やその化学反応メカニズムの解明を目指し、多成分系高分子の相溶性と結晶構造解析、フィラー分散高分子の導電性評価、感光性高分子の開発、活性種と有機化合物との化学反応性解析に取り組んでいます。

1-1. フィラー分散高分子の温度-電気特性

ポリマーに導電粒子を高充填化させると、温度上昇とともに電気抵抗が増大します。本材料は、常温では低い抵抗を示しますが、高温になると樹脂が体積膨張し、導電粒子の距離が増大し抵抗が増加します。回路の上段に本素子を設置すると、回路に過電流が流れると本素子はジュール熱で温度が上昇し抵抗が増加するため下段回路には電流が流れなくなります。異常が収まると温度が下がるため抵抗は低下し再び回路に電流が流れます。よって、交換不要な永久ヒューズとして使用可能です。本素子をリチウムイオン電池等の電池全般に適用することで電池の安全性及び信頼性を向上させ、ひいてはエネルギー貯蔵・変換の観点で大きく貢献できる技術だと考えています。基礎研究としては、ポリマー中の導電粒子の分散状態や転移温度の相違、電気抵抗について解析を行うとともに新規材料を開発しています。


  図1-1.PVDF/Ni複合材料のPTC特性  図1-2 PVDF/CB複合材料のPTC特性

1-2 .PVDFの結晶構造制御

フッ素樹脂の1つであるポリビニリデンフルオライド(PVDF)は、3つの結晶構造(コンフォメーション)を有します。その内Ⅰ型結晶(β晶)のみが圧電性、焦電性の性質を持ちますが、エネルギー的には準安定状態で不安定です。Ⅰ型(β晶)のPVDFを簡便に作製できれば、圧電性を有するため自然界に無限に存在する振動エネルギーをその場で電気エネルギーに変換するエネルギーハーベスティング技術になりうると言えます。また、この結晶構造を決める高分子の子分子物性についても追及しています。具体的には、PVDF/PMMAポリマーアロイやPVDF溶液からPVDFの結晶構造の制御に取り組んでいます。


   図2. PVDFの結晶構造

1-3.新規リソグラフィー技術の開発

半導体、液晶デバイスの高密度化は著しい速度で進んでおり、より微細なパターンを短時間で加工するには、高解像度・高感度のフォトポリマー(レジスト)の開発が重要です。具体的には,EUV用・i線用化学増幅型3成分レジスト(ベース樹脂、溶解抑制剤、酸発生剤)の開発を化学構造やプロセスの観点から行っています。大学に異動する前に勤務した電機メーカで、64MDRAM用の化学増幅型レジストの材料・プロセス開発に携わりました。


図3. 新規リソグラフィー技術の開発

1-4.オゾン、水素ラジカル、バブルなどにより発生した活性種と有機物との化学反応性
  (環境に優しいレジスト除去)

 デバイス製造では、レジスト除去工程に有害な薬液が大量に使用されています。これを酸化力の強いオゾンや還元力の強い水素ラジカルに置き換えることにより、環境にやさしい安全で安心なレジスト(ポリマー)分解プロセスが達成できます。基礎的には、気相(オゾン/水素ラジカル)-固相(ポリマー)との非平衡反応の解析も重要な開発要素です。


 図4. 水素ラジカル発生チャンバー