Human人権問題NEWS

2025年2月21日

報告 2024年度 後期委員研修

【テーマ】 トラウマインフォームドケアの視点から考える健康的なチーム・組織づくり
講 師 : 坂東 希 氏
    (人権問題研究センター ハラスメント相談室長)
司 会 : 勝間 亮(情報学研究科 講師)
日 時 : 2024年11月21日(木)13:15~14:45
会 場 : Zoom(オンライン講演)
報告者 : 谷口 与史也(工学研究 教授) 

 

 

 

 様々なハラスメントが表出している現代において、健全な組織づくりは我々の大きな目標となりうることでしょう。今回は「トラウマインフォームドケアの視点から考える健康的なチーム・組織づくり」という表題で、本学ハラスメント相談室長・坂東希先生にとても有意義なご講演をいただきました。自身の覚書を報告に代えさせていただきます。
 坂東先生は、大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程を修了され、博士(人間科学)、また公認心理師でもあられます。専門・関心領域は、非行・犯罪臨床、トラウマからの回復、集団・組織・コミュニティづくり。非行や犯罪行動を有する少年・成人を対象とした教育プログラムの実践と研究に携わっておられ、2024年より本学人権問題研究センター、国際基幹教育機構/現代システム科学研究科准教授、そしてハラスメント相談室長に着任されておられます。共著に『加害者臨床とアディクション』などを執筆されておられます。

1. トラウマインフォームドケア(TIC)とは?
 
Trauma-Informed Care(TIC)は、支援に関わる人々がトラウマへの知識と対応方法を身につけ、支援対象者がトラウマを抱えている可能性を考慮して接することを重視する支援の枠組みです。この考え方では、支援する人々に「トラウマの存在を認識し、その影響を考慮する」という視点が求められます。
 トラウマという言葉には、いくつかの意味があります。狭義のトラウマとは、生命の危険に直面したり、重大な怪我をしたり、性的暴力を受けたりするような深刻な出来事をさします。例えば、災害や暴力被害、身体的・性的虐待の経験、それらを直接目の当たりにすることなどが含まれます。広義のトラウマは、個人にとって身体的あるいは感情的に有害で長期的な影響を及ぼす体験も含みます。例えば、子ども時代の両親の別居、家族の精神疾患、家族の自殺、貧困、いじめなどです。広い意味でのトラウマは、人によってその影響が異なるため、より多様な体験を包括する概念と言えます。米国精神医学会の診断基準による心的外傷後ストレス障害(PTSD)の診断では、この狭義のトラウマを経験していることが一つの条件です。

2. 逆境体験やトラウマの影響
 PTSDの主な症状は、侵入症状(いわゆるフラッシュバック)、回避症状(連想させる物事を避ける)、認知と気分の陰性の変化(興味や関心の喪失)、覚醒度と反応性の著しい変化(いらいら感、過剰な反応)の4つですが、これらの症状が1ヶ月以上持続して社会生活や日常生活に支障をきたしている場合に医学的にPTSDと判断されます。従って潜在的にトラウマ体験を有している(影響を受けている)人はもっと多い可能性があると考えられます。典型的な関連事例としては、対人支援現場でのクレーマー、逆に自分は大丈夫と主張する人、教育現場ではボーッとしている人などです。
 トラウマと関連して逆境的小児期体験(ACEs)研究が米国疾病予防管理センターCDCにより実際されており、その結果から米国の成人では67%が少なくとも1つ以上、40%が2つ以上を体験していおり、日本では32%が少なくともひとつ以上経験していることが分かっています。

ACE10項目:虐待(1身体的、2心理的)、ネグレクト(4身体的、5情緒的)、家族機能不全
 (6親との離別、7母へのDV目撃、8家族の精神疾患、9家族の依存症、10家族の服役)

 この逆境的小児期体験によって、自身の反応を制御できないことに加えて、薬物で制御できたと錯覚することが起こりえます。身近には、愛着の形成に問題が生じ、快・不快の認識が欠落し、SOSの出し方が上手くできないなどに繋がります。またACEを集団で、迫害などを受けると世代間で引き継がれると言われています。

3.健康的な組織づくりをTICの視点から考える
 トラウマは、トラウマを受けた本人だけでなく、支援者にも、組織にも影響します。結果として問題に対して無関心になり、同じ過ちを繰り返すことになります。先ずは、あらゆる人をトラウマに関する基礎知識を持って見ることです。例えば、
   ・何が言いたいのだろうか? ・今、どんな状態なのか? ・どういう場面で起きた?
   ・これまでに同じ反応があった? ・ここで何をしたら良いのだろう?
   ・どういう伝え方をすればよい?

 また見過ごされやすいトラウマ症状には次のような項目が挙げられます。
    ・ボーッとしている、あくび、神妙な態度【解離】
            ・淡々としている、平然とした様子【感情麻痺】
            ・突然キレる、脈略のない反応【フラッシュバック】
            ・元気そう、落ち着きがない(多動)【過覚醒】
            ・話をそらす、雑談(多弁)【回避】
            ・がんばり屋、いつもポジティブ【過剰反応】

 トラウマインフォームドケアのアプローチには、次の4つのRがあります。
    ・Realize:トラウマについての知識を持つ
         ・Recognize:どんな影響を受けているか認識する
         ・Respond:適切 な対応をする
         ・Resist re-traumatize:再トラウマの予防。

4.研修を終えて
 今回はトラウマケアと健康的な組織づくりというテーマでご講演をいただきました。日頃、経験している一部の学生達の感情麻痺と思われる反応について、とても貴重な気づきを得ることができました。学生も含めた健康的な組織づくりを目指したいと思います。
 お忙しいところ、研修に時間を割いていただいた坂東希先生、ご参加いただいた皆様に、厚く御礼申し上げます。