サイト内検索
2025年3月21日
【テーマ】 合理的配慮とは? ―もっと公正な社会に変えていくためにー講 師 :松波 めぐみ氏 (大阪公立大学アクセシビリティセンター特任准教授)日 時 : 2024年12月6日(金)10:45~12:15会 場 : Zoom(オンライン講演)司 会 ・ 報告者 : 平岡 浩一(リハビリテーション学研究科 准教授)
2024年度の人権週間特別講演会は、「合理的配慮」というテーマを設定し、大阪公立大学アクセシビリティセンター特任准教授の松波めぐみ氏を講演者に迎えて行われた。学生・教員合わせて定員を超過する聴講希望者があり、この問題に対する関心の高さをうかがわせた。 講演では最初に講演者自身による自己紹介が行われた。松波氏は1999年に大学院で「障害の社会モデル」の考え方を知り、その後自立生活センターで介助をはじめた。2006年には障害者権利条約のアドホック委員会を傍聴した。2008年には京都で障害者差別解条例制定の運動に参画、2024年より大阪公立大学アクセシビリティセンター特任准教授に就任した。 本編では、まず合理的配慮を理解するには障害の社会モデルを理解することが必要であることが提起された。合理的配慮は社会モデルの視点がないと単なる「助けてあげる」行為になってしまう。この社会モデルの理解を促すためにまず障害の社会モデルの起源を検証した。1970年代のイギリスの重度障害者は、我々を考慮しない社会構造が自分たちを「できなく」させているのではないかと考えた。つまり、環境が変わればできるようになるのではないかということを障害者自身が社会に提起したのである。従来の障害の個人・医学モデルでは身体機能の欠損が困難の原因と考え、障害を克服するのは本人や家族の責任とされた。これに対して彼らは、健常者にあわせてつくられてきた社会の在り方こそ問題とし、変わるべきは社会の方であると訴えた。障害者の生活に制限があるのは個人の機能障害ではなくて社会障壁のためだと考察した。これは障害者観が「保護の対象」から「権利の対象」へパラダイムシフトする端緒となるものであった。 このパラダイムシフトに基づいた新しい社会モデルをベースに、国内外で新しいルールが制定された。特筆すべきは障害者権利条約の採択と障害者差別解消法の制定である。障害者権利条約の採択は1980年代に一度頓挫したが、2006年に国連で採択された。理念はインクルージョン、自己決定、多様性尊重、地域で質の高い教育を受ける権利、情報・コミュニケーション・公共交通機関へのアクセス、障害を理由とした差別の禁止を謳った。2011年には障害者基本法が改正され、障害の定義に「社会的障壁」という文言が入った。「社会的障壁」は社会生活を営む上で障害となる事物・制度・慣行・観念等を含む概念であると定義された。2013年には社会的障壁を除去して共生社会を作ることを目的に障害者差別解消法が制定された。この法制では国・自治体・事業者の「合理的配慮」、つまり障壁を取り除く環境調整が義務付けら、差別的な扱いや合理的配慮の不提供が禁止された。 次に合理的配慮について概説された。まず合理的配慮をバリアを取り除くための個々の調整と定義した。同時に、障害者が障壁に直面した時に意思表明をきっかけとして必要な社会環境の調整をすることでもあると換言された。この合理的配慮が知られだしたのは2015年からであはるが、それ以前も日本では実質的な合理的配慮は行われてきた。それが法律で義務化されたのが最近の状況である。合理的配慮の具体例として、エレベータや点字ブロック設置などのあらかじめ障壁除去、個別具体的な配慮が求められた。これにより合理的配慮が法制され、障害者が障壁の除去を主張しやすくなったと言われている。 さいごに大学における合理的配慮が議論された。障害者差別解消法では公的機関や事業者に差別の禁止と合理的配慮の提供を義務付けている。大学も公的機関なのでこの法の対象であり、すべての学生に平等な修学機会を保障する義務がある。実例として、使いやすい机、段差解消、授業データ事前提供、視覚情報を補う支援、移動支援、ノートテイク、ロジャーマイクの使用、広範な範囲での課題、提出物の締切延長などが提起された。 この講演を通して、社会モデルのパラダイムシフトとその重要性、社会モデルの理解に基づいた合理的配慮を行う事の必要性を理解することができた。聴講者にはこの講演の内容を単なる知識として吸収するのみではなく、その意図するところを実践することが求められる。
当サイトではサイトの利用状況を把握するためにGoogle Analyticsを利用しています。Google Analyticsは、クッキーを利用して利用者の情報を収集します。クッキーポリシーを確認