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2025年に大学へ入学する人たちは、私たちの社会はジェンダー平等が実現されていると思うのだろうか?大学での学びを経て社会へ出ていくとき、労働の場でジェンダーゆえにしんどい思いをするなど考えてもいないのだろうか? 残念ながら、日本の現状において労働分野でのジェンダー格差は極めて大きいといわざるを得ない。
ジェンダーギャップ指数
2006年以来毎年世界経済フォーラムが発表しているジェンダー・ギャップ指数をみてみれば、2024年では世界118位となっており、とくに政治参画・経済参画に課題があることははっきりしている。
本稿のテーマである「労働」に関しては「経済参画」の部分が該当するが、労働参加率の男女比、同一労働における賃金の男女 格差、推定勤労所得の男女比、管理的職業従事者の男女比、専門・技術者の男女比を元に指数化されているものである。 このうち何が大きな格差を引き起こしているのか、中身について検討する際には女性差別撤廃委員会の報告が参考になるだ ろう。
女性差別撤廃委員会日本審査結果
2024年10月に、女性差別撤廃委員会の日本審査が行われた。 日本は1985年に女性差別撤廃条約を批准しているが、批准している国は原則的に4年に一度、国連女性差別撤委員会に対し、女性差別の状況を改善するために国として何をしたか報告する義務がある。政府による公式レポートとNGOのカウンターターレポートをふまえて、女性差別撤廃委員会は対面審査を行い、その結果、女性差別撤廃委員会からは「最終見解」が出される。その「最終見解」を読むと国際的に日本のジェンダーの現状がどうとらえられているのかがよくわかる。 前の報告は2016年なので、8年ぶりの審査を経ての女性差別撤廃委員会からの「最終見解」のうち、特に「労働」をめぐってどのように評価されたのかをみてみよう。 日本の現状としては、男女間の賃金格差が大きいままであること、労働市場におけるジェンダーに基づく分離が継続していること、管理職の女性割合が15%と低水準であること、低賃金に女性が集中しておりその影響は年金額にも及んでいること、間接差別に対する法整備が進んでいないこと、などなどが指摘されている。 そしてそれらの問題を解決するために、女性割合が最も低い技術分野や医療・法律専門職において暫定的特別措置を講じるとともに、ジェンダーバイアスや多様性についての研修を進めること、管理職に占める女性割合目標を50%にし、上級職に多くの女性を登用するインセンティブを創出すること、女性が正規雇用に就くための機会をより多く企業が提供することや、非正規雇用労働者の手当を拡大することなどが勧告されているのである。
労働におけるジェンダー格差とは
日本では、労働の場でのジェンダー平等をめざして1985年に男女雇用機会均等法が制定されてから40年になろうとしており、2015年により実効性の高い女性活躍推進法が施行されてからも10年になろうとしている。その間、女性たちの生産年齢(15~64歳)における労働力率は上昇しており、2023年では女性の労働力人口は 2,741 万人(前年差 23 万人増)、労働力率は 75.2%となっており、 OECD 平均を大幅に 上回る水準まで達している。 また、大学卒業時の就職率も男女で大きな違いはなくなっている。文部科学省による「令和5年度大学等卒業者の就職状況調査(4月1日現在)」をみてみれば、 男子大学生の就職率は、97.9%(前年同期比0.6ポイント上昇)(調査開始以降、過去最高)、女子は98.3%(同1.0ポイント上昇)となっており、大学卒業時における就職率は女子の方が高いくらいなのである。 女性の労働力率は上昇しているにもかかわらず、労働の場でのジェンダー平等が実現していないと評価されるのは、「ジェンダーギャップ指数」においても「女性差別撤廃委員会最終報告」においても指摘されているように、専門職や上級職・管理職に従事する女性たちが少なくジェンダー格差が大きいことや、女性の就業形態に非正規が多く賃金水準格差が大きいことなどによる。就業形態や職種・職階・産業においてジェンダーによる分離があるのだ。
コロナ禍で可視化された労働市場におけるジェンダー分離
2019年末に始まった新型コロナの流行は、労働のあり方のジェンダー差を可視化させた。2020年3月に始まった学校閉鎖により、児童生徒の保護者達は突然自宅で子どもたちのケアをせざるを得なくなった。そのとき各家庭で行われた「選択」の結果、多くの女性が職を辞して子どもたちのケアを担当することなったのである。そこには獲得賃金が低い方が離職をする方が家計にとって有利だという経済的判断もあっただろうし、あるいは子どもの世話は女性の仕事だとするジェンダー役割意識に基づく判断もあっただろう。その結果、学校閉鎖による労働市場から離脱するのは男性よりも女性の方が多かったのである。 また、長引くコロナ禍において最も影響を受けやすかった産業としては、宿泊や飲食関係のサービス業があったが、その産業には非正規で多くの女性たちが働いていたのであり、その結果多くの女性たちが失業することになった。他の産業でも非正規労働者として働いていた女性たちが真っ先に失業することになった。このように女性労働に対してこそコロナ禍の影響は大きかったのである。
ジェンダー格差縮小の方法としての積極的格差是正策
このようなジェンダーによる労働分離の背景には、家事育児・介護といったケア労働負担のジェンダー・アンバランスと、従来からのジェンダー役割意識がある。 最新データを見ても、女性の年齢階級別労働力率のグラフでは出産・育児期の女性の労働力率が下がる傾向がみられる。M字型と評されてきたこの特徴はこの半世紀でM字の底はかさ上げされてきているが、完全になくなっているわけではない。 今日でも乳幼児を抱えてフルタイムで働くことは、保育園が整備され利用できていてすら綱渡り状態の生活を強いられることになる。子どもは突然熱を出したりケガをしたりする。そのたびに子どものケアが各家庭にだけ期待されている社会のなかでは、親が仕事を休まざるを得なくなるのであり、育児休業制度が整う方向にあるとはいえ、突然の休業という「危機」を乗り越えていかざるを得ない。 子どもをもち育てることが個人の「選択」としてのみ理解され、「子育て罰」とまで言われるほどに子育て負担が家庭=両親にのみ偏重している中で、そして、従来のジェンダー規範である「育児は女性の仕事」から人々が自由になれていないとき、繰り返される「危機」を前に、労働市場からの撤退を余儀なくされる女性たちが多くなるわけだ。 このようなケアをめぐる環境にもかかわらず、より高度な知識を必要とする、より責任の重い、より裁量権のある、いわゆる上級職・専門職・技術職に就くかつかないか、働き続けるかどうかもまた、個人の「選択」の問題であるかのようにみなされてきた。その結果として、労働分野におけるジェンダー格差が縮小せずに残っているのである。 このような現状をいかにして変革するのか。女性差別撤廃委員会は暫定的特別措置の実施を勧告している。専門職等における数の不均衡を解決するために、女性割合を高めるという方法をとるべきだと。まず女性の上級職数を増やすことを実現しそれが継続できる環境を整えるというジェンダー平等への方策を提案しているといえる。 実態を先に変革することにより、ジェンダー役割意識やケアの社会化を実現すること、ケア責任負担を個人の問題とのみみなさないような意識変革がおこっていくことを世界基準の人権施策は求めているのだ。
参考文献:
上野千鶴子・江原由美子編『挑戦するフェミニズム ネオリベラリズムとグローバリゼーションを超えて』有斐閣、2024末冨芳・桜井啓太『 子育て罰 「親子に冷たい日本」を変えるには』光文社、2021竹信三恵子『女性不況サバイバル』岩波書店、2023
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