Chaper7 メディアと人権

インターネットメディアと付き合うための心構え

辻岡 哲夫(大阪公立大学工学研究科准教授)
はじめに

 インターネットは、いまや我々の生活に必要不可欠なものとなっています。当初は一部の限られた研究者らの間での通信手段として使われていましたが、商用プロバイダの発足、OSへのWebブラウザの搭載、スマートフォンの普及によってそのハードルは大きく下がりました。現在では、企業の情報発信、電子商取引(通販)での利用(サーバと人の通信)に加えて、ブログ、TwitterFacebook、チャット(LINE)など、個人の情報発信や個人間での情報交換の場においても広く活用されています。このようなネットワーク社会で生活をする上で、インターネットというメディアを介して、無意識のうちに他人の人権を侵害してしまう危険性が高まっています。

インターネットの特性

 アプリやWebサービスの普及によって、特別な技術を必要とせずに、個人が自由かつ気軽にインターネット上に情報を発信できるようになっています。反面、その気軽さがゆえに、利用においては十分な注意が必要となっています。まず、インターネットの特性を十分に理解することから始めましょう。インターネット上の情報の特性というのは次の通りです。
 1. 不特定多数の人に閲覧されること
 2. スピード性があること
 3. 不正確かもしれないこと
 4. 個人が気軽に情報発信ができ、匿名性があること
 5. 現実世界では届かなかった発言も相手に届いてしまうこと
 6. 情報を消せないこと(消しにくいこと)
この中で、「情報を消せない」特性については、特に留意しなければなりません。一旦、情報発信をしてしまうと、第三者によって転載されたり、サーバのキャッシュに残るなどして、自分の手の届かないところを情報がさまようことになります。また、たとえ完全にインターネット上の情報を消せたとしても、それを閲覧した人の心にはずっと情報は残ってしまうのです。

インターネットメディアの危険性

 最近は、ブログ、SNSなどの利用が活発で、個人が情報発信をする機会が増えています。人は、周囲の人々から注目され認められたい、社会の役に立ちたいという自己顕示欲を備えています。ブログのランキングを上げたり、フォロワーの数を増やしたいがために、情報発信を活発に行ったり、レアな情報の発信に努めたがるものです。それゆえに、世の中に知られていない「ネタ」(情報量の大きい情報)を求め、後先のことを考えずにそれらを発信してしまう傾向があります。
 情報には必ず発信源(情報源)があります。それが自分である場合は何ら問題ありませんが、他人から得た情報については、守秘義務がある場合が多いのです。
 例えば、Aさんがあなたのことを思って、厚意で大切にしている情報を教えてくれたとします。もしそれを安易にブログに書いてインターネットメディアを介して広めてしまったらどうなるでしょうか。Aさんがその情報で生計を立てていた場合、Bさんに大きな不利益を与えることになり、Aさんの幸せに生きるための権利(人権)を侵害してしまうことになります。
 また、例えば、Bさんをひぼうするようなことをネットに書き込んだとするとどうなるでしょうか?その情報発信によってあなたの心は晴れるかもしれませんが、その情報が急速に広まり消せなくなることで、Bさんが病気になったり、職を失ったりする可能性があります。また、情報発信源の追跡によって、あなたの人権も侵されるかもしれません。
 このように、インターネットは、その利用の仕方によっては、簡単に他人に不利益を与えてしまう特性を持っています。しかも、その効果は長く続いてしまうのです。

つぶやきが相手に届いてしまう可能性

 2024年のオリンピック・パラリンピックでは,選手や審判への心ないひぼう中傷が相次ぎ,大きな問題となりました。現実世界では近距離にしか届かなかった野次も,インターネットを介すると相手に届いてしまうことが原因です。ひぼうと批判は違います。インターネットメディアでは、つぶやきですら、これまでにない注意が求められるのです。

インターネットと付き合うための心構え

 一旦情報を発信してしまうと、その情報を消すことはできません。場合によっては何十年も残り続けます。では、何に気を付ければよいのでしょうか。情報を発信する前の段階で、よく考えて欲しいことを挙げておきます。

        • 発信した情報が相手に届いたときのことを考えましょう。もし自分が相手の立場だったらこういうことを言われたときにどう思うのかを想像するといいでしょう。
        • 発信した情報のプラス面とマイナス面の両方を考えましょう。マイナス面があるのに、わざわざ情報発信が必要なのかをよく考えてください。
        • 他人から得た情報には守秘義務があることを前提に考えましょう。たとえ他言無用の約束をしていなくともです。その貴重な情報を広めると、情報源の人に不利益を与えないか、よく考えましょう。
        • ブログやSNSに投稿する場合は、送信ボタンを押す前に読み返して数分考えましょう。できれば投稿前に下書きをして1日程度情報を寝かせましょう。きっと、翌日、言い回しを変えたり、発信を思い留まったりしたくなるはずです。
        • 10年後まで投稿内容が残ったときのことを考えて書きましょう。10年後、恐らくあなたはそれなりの社会的地位を得ていることと思います。そのときに、恥ずかしくない内容となっているかどうかを確認しましょう。
        • 他人を幸せにする情報発信に努めましょう。単なるつぶやきや自慢話ではなく、その中に、他人への推奨や警鐘など、できるだけ質の高い内容を含められるように心掛けましょう。
        • インターネットとは距離を置いて付き合いましょう。客観的な目線を持ちましょう。その投稿内容を読んだ人がどのように思うか、ということを常に意識して考えると、正しい付き合い方が身につくと思います。

    このように、人権を守ってインターネットと付き合うためには、様々な配慮が必要なのです。

もし間違えてしまった場合は

 注意をしていても間違いは起こり得ます。もし、他人を傷つけてしまった場合は、スピーディーな対応をとることが重要です。直ぐに潔く謝ることが大切です。また、間違ったメディアの使い方をしている人を見つけた場合は、注意してあげる勇気も必要です。みんなで互いに気を付け合うことで、お互いの人権が守られることになります。

おわりに

 インターネットというメディアを利用する上では、その特性をよく理解し、情報発信の前段階で、誰かの不利益とならないか、他人の人権を侵さないか、他人を無意識のうちに傷つけないか、ということに注意しなければならないことに触れました。
 インターネットメディアはその特性から管理が難しく、これまで個人のマナーや紳士協定が守られることを前提として、利用されてきました。インターネットの発展により利便性が高まるにつれて流れる情報量が増え、他人を傷つけてしまう機会も増えています。これを減らすには、また、自分の人権が侵されないようにするには、利用者全員が心構えをもってインターネットと付き合わないといけないのです。