令和6年度 大阪市立大学法学部・法学研究科学位記授与式 式辞(2025年3月24日)

法学部長・大学院法学研究科長 手塚 洋輔

 ただいま、大学院と学部を合わせて184名のみなさんに学位記をお渡しました。この日まで、ひとりひとり、異なる歩みがあるでしょう。しかしまずは、今日この場に立つことができた、ただそのことを、大いにたたえたいと思います。改めて、大学院の課程修了、学部の卒業、おめでとうございます。また、ご列席の、ご家族をはじめ、ご関係の皆様におかれましては、これまで長きにわたり学生を支えていただきましたことを、大学を代表して、深く御礼申し上げます。そして、学生の門出を心よりお祝い申し上げます。

 さてみなさんは、このキャンパスで法学や政治学を中心に学んできました。卒業・修了にあたり、「法学・政治学を自分のものとして得意にできた」と手応えを感じている人もいるでしょう。ただもしかすると、「よくわからなかったなぁ」とか、あるいは「大学で何をしていたんだろうか」という感慨を持っている人も少なくないと思います。
 でも、安心してください。みなさんは、すぐに就職するか、大学院に進学するかにかかわらず、そう遠くない将来、社会に参加することになるでしょう。そして、そのとき、自分が法学部・法学研究科出身なんだということを突きつけられます。この法学部・法学研究科で学んで、みなさんが当たり前だと思っていることは、決して世の中の常識ではないという事実によってです。
 例えば、決定の内容、結論ではなく、それに至る手続きも重要だとの考え方をみなさんは持っているはずです。でも、世の中には、手続きなんて二の次、三の次、だと考えている人は少なくありません。他にも、この世の中を構成する人たちは、決して画一的ではなく、利害の対立も自然だという社会観を私たちは持っています。しかし、そのような現実を認めない議論もありふれています。
 みなさんの中には、そのことに失望したり、怒りを覚えたりすることもあるでしょう。でも、失望したり怒りを覚えたりする必要なんてまったくないのです。簡単には身につかないからこそ、大学でわざわざ学んだのであり、みなさんは、そのことに胸を張ればよい。
 ただ大切なことは、そこで終わりではないことです。みなさんの役割は、少しでも良くなるように、職場のちょっとしたことでも、地域の活動でも、家の中のことでも、小さくてもいいから、仕組みを変えることです。法学・政治学の常識を使いながら、仕組みをより良く変えてください。
 大阪市立大学・大阪公立大学は、これまで長い間、大阪市民・大阪府民から大きな期待を受けて、形作られてきました。この大学の法学部・法学研究科で学んだ者は、仕組みを変える、責務があります。期待しています。

 そうはいっても、仕組みを変えるといってもそう簡単なことではありません。今、この時点で、みなさんが持っている法学や政治学の知識だけでこれから何十年も戦っていける、なんてことは、みなさんも思っていないでしょうし、私たち教職員も思っていません。 仕組みを変える力を持つためには、みなさん自身もまた、変わる、バージョンアップしていくことのできる人でなければなりません。昨日の自分と今日の自分、明日の自分は違うのだ、自分で自分自身を変えることができる、ということです。
 大学という場も、そのことが根幹にあります。なぜ大学だけは研究者と呼ばれる人たちが教育を行うのか。それは、私たち教員は、昨日と自分、今日の自分、明日の自分を自分自身で変えていくことを生業としているからです。そのとき、単にがんばるのではなく、工夫することを心がけています。したがって、大学とは言い換えれば、いろいろな工夫を試すことができる場所です。
 みなさん自身、大学に入ってから、さまざまな工夫をしてきたはずです。勉強のやり方を少し変えてみた、ゼミの発表をわかりやすくしてみた、などの経験もあるでしょう。 教室の外でも工夫はしてきているはずです。卒業生の多くを占める2021年4月に入学した学部生を例に取りましょう。この学年は、2020年に受験勉強をしました。コロナ1年目です。急に学校や予備校・塾がなくなり、オンラインになりました。きっと工夫したに違いありません。2021年に入学して最初の1年はほぼオンラインで、サークル活動なども含めて社会全体が抑制されている状態でした。それが2022年以降、この学年が2回生になると、授業も対面になり、サークル活動なども元に戻していく中で、きっといろいろな工夫をこらして、再建を担ったと思います。大学院生など他の学年の人も、それぞれの立場で同じような経験をしてきたはずです。
 さぁそう考えると、いろいろな工夫がありそうですね。この式典の時間を、工夫をもう一度思い起こす機会にしてほしいと思います。その工夫は、大学でみなさん自身が実際にやれたこと・やったことです。みなさんが持つ得意なことの芽が含まれているのではないかとも考えます。これから先、仕組みを変える力は、みなさん自身の得意なことから育っていきます。大学でやってみた工夫をみなさんの糧にして挑戦していってください。
 大学は工夫を続ける場です。何か工夫をしたくなったときに、工夫がわからなくなったときに、これからもこの大阪公立大学を使ってほしいと願います。

 最後に、今日2025年3月24日だからということで申し上げたいことがあります。周りを見てください。実は、みなさんが持っている学位記のバインダーの色には、赤と青と黒があります。赤は大阪市立大学の学部、青は市大大学院、黒は学部・大学院の別なく大阪公立大学です。人数で言えば、赤や青が圧倒的に多いですね。
 このように大阪市立大学の学生が多いのは、今日で最後になりました。来年度以降も、大阪市立大学の学生の最後の一人まできちんと学位の授与を行います。が、その人数は少なくなります。その意味では、今日は、実質的な意味で、大阪市立大学からの卒業、という日でもあるのです。
 おそらくこれから、大阪市立大学が持つイメージは徐々にではあれ薄くならざるを得ないだろうと思います。もちろん、その一方で、市大の卒業生に加えて、府大の卒業生もたくさんいますので、同窓の仲間が増えるということもあります。ただ、名前が変わるということは、いろいろなご負担をおかけするわけですから、この点、どうかよろしくお願いします。かような面倒をおかけする卒業生のみなさんに対して恥じぬよう、大阪公立大学法学部・法学研究科としても、これまで以上に、地域を支え、引っ張っていく存在になり続けることが、私たち残された教職員に課せられた責務だと考えています。

 みなさんがこれから担う仕組みを変えるという責務。そして私たち教職員がこの大学を工夫し続ける場として高めていく責務。この二つの責務を約束して、式辞としたいと思います。またいつかどこかで、この約束を果たせているか、お互いに近況報告をしあいましょう。