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2024年6月5日

  • 研究
  • 国際

金 東浩 准教授 研究グループ:ビスフェノールAがヒト膀胱細胞に細胞毒性を誘導する根本的な分子メカニズムを解明

国際共同研究

本研究は,「食栄養学分野 生体機能学研究室」と韓国の「中央大学校 生命工学大学」,「東義大学校 韓医科大学」,「忠北大学校 医科大学」との国際共同研究の成果として「J Biochem Molecular Toxicology」誌に掲載されました。

 

アピールポイント

ビスフェノールABPA)は,細胞死の一種であるアポトーシス1と細胞周期2の停止を誘導することによりヒト膀胱細胞の増殖を阻害し,AP-1およびNF-κB転写活性を阻害することにより細胞の遊走および浸潤3を阻害した。ヒト膀胱細胞に対するBPAの有害作用には,MAPKのリン酸化が関与していることを明らかにした。

本研究で得られた知見は,BPAがヒト膀胱細胞に毒性を引き起こす分子メカニズムについての理解を深めるものである。本研究は、BPAが膀胱内分泌機能障害および細胞毒性にどのように関与しているかについて包括的な見解を提供する。これらの知見は,BPA曝露に伴う健康への悪影響に対抗する戦略を開発する上で極めて重要である。


16_金先生論文掲載_BPA図

研究の概要

BPAは,ポリカーボネート樹脂やエポキシ樹脂の原材料として食品や飲料容器,歯科製品,医療機器などに広く使用されています。近年,ごく微量のBPA暴露が,ヒトの思春期早発や遅発,神経学的・行動学的影響,乳腺・前立腺への影響を引き起こすことが報告されており,外因性内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)として知られています。特に,尿中BPAは膀胱の内分泌機能障害を引き起こす可能性が示唆されていますが,その詳細な機序は解明されていません。本研究では,ヒト膀胱BdFC細胞およびT24細胞におけるBPAの有害作用の分子機構を探索しました。BPAは,外因性(ATM-CHK1シグナル)および内因性(CHK2-CDC25c-CDC2シグナル)のアポトーシスと,G2/M細胞周期の停止を誘導し,最終的にヒト膀胱細胞の増殖を阻害しました。また,BPAAP-1およびNF-κB転写因子の結合活性を低下させ,MMP2および9を不活性化することによりヒト膀胱細胞の遊走および浸潤を阻害しました。最後にヒト膀胱細胞に対するBPAの有害作用には,MAPKのリン酸化が関与していることも明らかにしました。本研究により,BPAがヒト膀胱細胞に細胞毒性を誘導する根本的な分子メカニズムが明らかになり,BPAによる膀胱の内分泌機能障害の制御に関する基礎的な知見が得られました。

 

掲載情報
  • 雑誌名

J Biochem Molecular Toxicology

  • 論文名

Bisphenol A regulates bladder cells responses via control of G2/M-phase cell cycle, apoptotic signaling, MAPK pathway, and transcription factor-associated MMP modulation

  • 著者名

Jun-Hui Song1, Byungdoo Hwang1, Solbi Park1, Soobin Kim1, Dong-Ho Kim2, Yung Hyun Choi3, Wun-Jae Kim4, Sung-Kwon Moon1

  • 著者所属

1Department of Food and Nutrition, Chung‐Ang University, Anseong, Republic of Korea

2Department of Nutrition, School of Human Life and Ecology, Osaka Metropolitan University, Osaka, Japan 

3Department of Biochemistry, College of Oriental Medicine, Dongeui University, Busan, Republic of Korea

4Department of Urology, Chungbuk National University, Cheongju, Chungbuk, Republic of Korea

  • 掲載URL

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jbt.23662

 

用語解

1 アポトーシス(apoptosis):多細胞生物の細胞死の一種で,個体をより良い状態に保つために積極的に引き起こされます。プログラムされた細胞死(programmed cell death)とも呼ばれ,様々な物理的,化学的,および生物学的因子を介して誘発され,アポトーシスにおける細胞応答は厳密に調節されています。外部からの刺激で誘導される外因性アポトーシス(extrinsic apoptosis)とミトコンドリア関連タンパク質で誘導される内因性アポトーシス(intrinsic apoptosis)に大別されます。

2 細胞周期(cell cycle):細胞が増えるとき,細胞分裂が生じ,細胞分裂で生じた細胞(娘細胞)が再び細胞分裂を行う細胞(母細胞)となって新しい娘細胞を生み出す過程のことです。細胞はG1, S, G2, M期という過程を経て増殖します。G1期はDNA合成準備期とも呼ばれG1チェックポイント等の機構によって細胞分裂を進行するかを判断し,S期ではDNAの複製が行われます。G2期では細胞が分裂するための準備が行われ,M期で細胞が分裂を開始します。これらの一連の流れを細胞周期といいます。

3 細胞の遊走(migration)および浸潤(invasion):細胞の遊走とは細胞が生体内のある場所から別の場所に移動することをいいます。細胞の浸潤とは炎症が起こっている部位に細胞が集まってくる状態をいいます。リンパ球がいろいろな臓器に入り込んでいる(浸潤している)状態をリンパ球浸潤といい,がん細胞が周囲の組織に滲みこむよう広がる際にも浸潤といいます。

 

国際共同研究先URL