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2023年6月9日
- 研究
食道がん患者の術前窒素出納に関わるエネルギー摂取量、たんぱく質摂取量を検証した内容がNutrition and Healthに掲載されました。
近年、手術前の栄養状態が、手術後の様々な不利益(合併症)や生命予後に影響することが報告されており、術前の栄養管理の必要性が報告されています。我々は、食道がん患者の術前筋肉量が術後合併症や在院日数に関係することを報告し(Okada et al. Nutrition in Clinical Practice 2023)、術前の筋肉量を維持することの重要性を示しましたが、筋肉量を維持するためのエネルギー摂取量、たんぱく質摂取量の目標量については不明瞭なままでした。筋肉量を維持するためには、摂取する窒素量(たんぱく質量)と排出される窒素のバランス(窒素出納)を考慮する必要があり、窒素出納が正に保たれるように栄養管理を行うことが望ましいとされます。今回我々は、食道がん患者79名を対象とした調査において、投与エネルギー量・たんぱく質量と24時間畜尿(24時間専用の容器に貯めた尿)中の窒素排出量との関係性を解析し、窒素出納を正に保つために必要なエネルギー摂取量、たんぱく質摂取量を検証しました。その結果、体重1kgあたり、30kcal以上のエネルギー摂取量、かつ体重1kgあたり1.3g以上のたんぱく質を摂取している場合、79名全ての患者において窒素出納が正となりました。一方で、体重1kgあたり、30kcal以上のエネルギー摂取量を確保できている場合においても、体重1kgあたり1.3g未満のたんぱく質摂取量である場合は33%の患者において、窒素出納が負となりました。
今回の調査結果から、体重1kgあたり、30kcal以上のエネルギー摂取量、かつ体重1kgあたり1.3g以上のたんぱく質を摂取することが、食道がん患者の窒素出納を正に保つための目標量になる可能性があります。欧州のがん患者の栄養管理のガイドラインにおいても、今回の結果と同等量のエネルギー摂取量、たんぱく質摂取量の確保が望ましいことが報告されており、今回の結果は本ガイドラインの目標量を科学的に裏付けるものと考えられます。
一方で、今回の調査は一時点における調査結果であり、窒素出納は短期間で変化しやすいことから、結果の再現性や妥当性を検証するためには比較的長期間の調査が必要であると考えられます。また、体重1kgあたり、30kcal以上のエネルギー量、かつ体重1kgあたり1.3g以上のたんぱく質を手術前に一定期間摂取することで、筋肉量にどのような変化が現れるか、また、手術後の合併症の発生にどのような影響を与えるかを検証する必要があると考えます。
Relationship between preoperative nitrogen balance and energy and protein intake in patients with esophageal cancer
【掲載雑誌】
Nutrition and Health
【論文へのリンク】