文化構想学専攻

文化構想学専攻について

文化は創造力や感性を育むことで豊かな人間性を涵養するとともに、来たるべき社会の新たな価値を創出し、他者との共感を通した相互理解を促進することで、共生的社会の基礎を形作ります。文化構想学専攻に属する三つの専修は、それぞれの専修の特色にふさわしい仕方で、従来の学問分野からこぼれ落ちてしまいがちな文化的事象をも積極的に研究対象とすることで、現代社会で必要とされる文化への深い理解と分析力を養います。また、狭義の学術研究の推進とその担い手の養成だけでなく、文化への深い知見に根ざしつつ、多様な文化的事象を社会のなかで積極的に活用することで、現代社会が抱える諸問題の解決に取り組み、21世紀型成熟社会を文化の面から担うことのできる人材を養成します。文化構想学専攻は、新たな文化表現の創出、グローバル化時代における共生的な文化の構築、経済発展を牽引する文化資源の活用を教育研究の主要三課題として設定し、これらに関する教育研究を通して、21世紀型成熟社会における文化を構想することを目指します。専攻内には、表現文化学、アジア文化学、文化資源学の各専門分野を設けます。

専修紹介

 

表現文化学専修について

表現文化学専修について

「表現文化学」は、その名称にあるように「文化」を対象とする研究のセクションまたアプローチです。もちろん、あらゆる人文学の研究領域は何らかのかたちで人間の作り出した「文化」を研究対象としているわけですが、「表現文化学」は次のようないくつかの特徴において従来の文化研究とは異なるスタンスをとることになります。

1.トランスナショナルな文化のダイナミズムへの視点

従来の伝統的な人文学、たとえば、英文学・独文学・仏文学・中国文学・国文学などの学問分野では、なによりも「言語圏」、そしてそれに依拠することになる「文化圏」が研究領域を区切る枠組みとなっていました。こうした「国語」を基礎にした文化研究は、近代の「国民国家」の枠組みを暗黙の前提としており、国民文化のカノンあるいは古典と結びついた規範的な文化概念に依拠してきました。しかし、今日のグローバル化の進展は、文化の担い手たる個人や集団のモビリティの上昇をもたらし、従来の国民国家の枠組みには回収しえない文化生産のダイナミズムを生み出しています。「表現文化学」は、特定の言語圏・文化圏の内部に限られた文化現象の研究を排除するものでは決してありませんが、複数言語圏や複数の文化圏を横断しつつ研究する視点をもちうるという重要な特徴を持っています。こういった立場は、これまで「比較文化研究」や「比較文学研究」などのかたちで行われている研究を継承するものですが、トランスナショナルな文化の力学を考察する諸理論を積極的に吸収しながら、それら先行する研究分野を更新・発展させることを目指しています。

2.さまざまな〈表象〉の形式への視点

伝統的な人文学の諸領域においては、「言語」によって形作られた文化的営為が「テクスト」として研究の中心的対象となってきました。それに対して、「表現文化学」では、言語にもとづく文化的表現だけでなく、映像、音響、身体表現などあらゆるメディウムに依拠する文化現象が分析の対象となりえます。ただし、そのことは文字による表現形式を研究の中心的な対象としないという意味ではありません。近年ますます広く用いられるようになっている「表象文化」という言葉によって意図されていることが、ここでは重なり合ってきます。またそうした多様な表象形式への視点は、それらの異なる表象形式の間の比較という観点をも含んでいます。たとえば、小説とゲーム、演劇と映画の間の表現形式・知覚形式の比較考察も表現文化学のアプローチのひとつです。

3.ポピュラーな文化現象への視点

すでに述べたように、従来の文化研究においては、国民国家とならんで規範的な文化概念(国民文化のカノンまたは古典)が前提されていました。したがって、従来の人文学では、基本的に「高級文化」や「芸術」と見なされているものがその特権的な対象となってきました。この点についても、「表現文化学」は対象領域と研究アプローチの拡張をもたらします。「表現文化学」では、伝統的な人文学において文化的対象として十分に取り上げられることがなかったサブカルチャー、ポップカルチャー、モード、広告、身体表現などをも重要な研究対象とするということです。また、そうした対象を考察するのにふさわしい方法論を探求します。この点で表現文化学は「カルチュラル・スタディーズ」として知られる立場とも深く関わります。ただし、このことは「表現」を切り口としていわゆる「高級文化」と見なされているものを研究することを排除するものではありません。

4.現代的・理論的視点

「表現文化学」のもう一つの重要な特徴は、たとえある程度過去にさかのぼる文化現象を対象とするにせよ、その対象を単に過去のものとして研究するのではなく、現代におけるアクチュアリティに結びつけていく視点から取り上げるということです。その意味で、現代の批評理論・文化理論そのものも、研究上の立場としてつねに立ち返るべきものとして考察されるだけでなく、理論自体も研究の対象となります。

5.表現文化学専修の授業

表現文化学専修に所属する博士前期課程(修士)の院生は、各専任教員が担当する「表現文化学研究」および「表現文化学研究演習」を履修します。これらの授業では、各教員の専門分野にもとづいて、作品や理論の講読や議論が行われます。修士課程の院生は他専修の授業も履修しながら、みずからの修士論文に必要な知見を学んでいきます。加えて、教員のカバーできない分野については、非常勤講師の先生による講義科目も開講されています。博士後期課程の院生は、主に教員の指導を受けながら、みずからの研究を進めます。基本的には学会発表と学術誌への論文の執筆を経て、博士論文を仕上げることを目指します。なお大学院生全員が参加し、それぞれの研究テーマについて報告を行う科目として、「表現文化総合研究」が設定されています。この授業には全教員が参加し各院生の研究に助言することで、複数指導体制が確保されています。

6.修了後の進路

博士前期課程(修士)では一般企業、教員、公官庁などに就職する場合が多いですが、博士後期課程に進学する院生も一定数います。博士後期課程を修了した院生は、研究職への就職を目指してポスドクのポジションに就いたり、NPOなどの団体職員に就職したりしています。
大学院進学をご検討の方は、お気軽に教員スタッフにメールでお問い合わせください。

表現文化学教室の刊行物

『表現文化』

表現文化学専修・表現文化コースでは、教員や大学院生からなる表現文化学研究成果を発表する学術誌として査読誌『表現文化』を刊行しています。『表現文化』は機関リポジトリで公開されています。

表現文化学専修の関連リンク

 

アジア文化学専修

アジア文化学専修について

アジア文化学専修は、比較文化的な視点のもとで、日本を含めたアジア地域における実践的・ 課題解決的な文化活用の現状と課題、さらには地域に根ざした文化活用の具体的方策や理論化などについての教育、研究をおこないます。同時に文化活用のための基本的な前提となるアジア各地域の文化にたいする理解や地域文化研究、比較文化研究のための方法についても学んでいきます。

そのための柱として、本専修では「地域」「共生」「比較」という三つのコンセプトを掲げています。 「地域」とは、多様な文化を生み出した地域的特性であったり、いままさに文化の新たな活用がなされていたりする現場です。文化を理解するためには、文化だけを切り取って考えるのではなく、文化や文化現象の母体である「地域」についての理解が必要です。 「共生」とは、多様な文化が文字通り共生を果たしている状態であり、またそのような状態へ向かおうとする価値のことです。文化間の共生、伝統と現代性との共生など、アジア地域では文化の「共生」が大きな課題として存在しています。ある文化に固執すれば、それは文化の対立や衝突しか生み出しません。いかに共生的な文化を構築していくのか。アジアへのアプローチには、「共生」への志向が欠かせません。 「比較」とは、アジア文化を理解する上での大切な視点です。文化をひとつの視点から理解しようとするだけでは、ときとして一面的な見方にとどまってしまいます。地域間の比較はもちろんのこと、過去と現在との比較、研究対象とする文化コンテンツ同士の比較など、さまざまな「比較」をとおして、物事を相対化してとらえなければなりません。

本専修では、これら三つのコンセプトをもとにしながら、それぞれの地域や社会の特性に応じた文化の活用を考えていきます。ビジネスの素材や集客のための訴求力として、対外的なソフトパワーとして、共生的社会実現のための土台としてなど、現代アジアで文化が活用される場は多岐にわたっています。地域の特性を踏まえた文化の活用は、アジア地域にとどまらず現代社会に通底する重要な課題であり、本専修の教育、研究は、現代社会の課題解決にも大きく寄与するものとなるはずです。

アジア文化学専修の関連リンク

 

文化資源学専修について

文化資源学専修について

専修名の「文化資源学」は21世紀に入ってから本格的に注目されるようになった新しい領域の学問です。一般に文化的な所産というと、国宝や重要文化財に象徴されるような文化遺産をはじめとした遺跡・史跡や著名な芸術作品などがイメージされがちです。実際に類似の専修名を冠した他の大学院では、こうした所産の資料化や保存のあり方を教育・研究の中心としていますが、本専修ではそれよりも遥かに広い範囲の「文化」的な所産に「資源」としての価値を見出し、文化を社会の中で積極的に活用するための理論や実践について検討します。

文化資源学専修が研究対象とする「文化資源」は多岐に渡ります。先に挙げた文化遺産等の歴史・芸術的所産はもちろんのこと、これに加えて現在進行形で生み出されていく最新の文化的所産までをも視野に収めます。また絵画や彫刻、建築といった美術史学が対象としてきた範囲、歴史的な街並みなど、地理学や都市計画学が対象としてきた範囲の、いわゆる「モノ」としての文化事象を研究対象とするだけでなく、東西の演劇、戯曲の上演や、アートプロジェクト、ワークショップ、観光ガイド・ツアーなどの「コト」としての文化事象にも着目します。具体的には、アー ト(特に美術・音楽・演劇)とツーリズム(観光・地域創造)に関連する文化資源のあり方を捉え、これを中心に研究していくことになります。さらにそれだけでなく、そうした文化の社会的な活用のための企画や実践についても研究対象とします。

本専攻の主たる授業科目の概要は以下の通りです。博士前期課程では、文化構想学専攻の共通科目「文化構想学研究C」によって、本専修の研究領域や研究手法に関する基礎的な知識を講義します。さらに専修の専門科目である「国際文化資源学研究」「芸術文化資源学研究」「観光文化資源学研究」「社会実践文化資源学研究」などの講義・演習科目によって、文化資源のあり方やその活用に関して幅広い知見とそれらを取り扱う手法を指導します。博士後期課程では、「文化資源学特殊研究」「文化資源学論文指導」を中心に、博士論文の執筆に向けた研究活動をサポートします。

教員スタッフの専門は、演劇学、表象文化論、美術史学、博物館学、観光学、社会学、芸術療法、アートマネジメントとさまざまです。また所属する院生の背景や研究テーマも多様で、社会人院生も多く在籍しています。これまでの伝統的な学問分野を基礎としつつも、文化資源という共通のキーワードのもと、領域横断的かつ情報交流的な教育研究環境が整っていることが大きな特徴です。

文化資源学専修の関連リンク