研究室だより2017年度

研究室だより2017年度

『市大日本史』第21号(2018年5月)から転載します。

17年度、大阪市立大学文学研究科は、仁木宏研究科長(日本史学教室)、小林直樹副研究科長(国語国文学教室)、多和田裕司教育研究評議員(アジア都市文化学教室)体制の1年目でした。

1.17年度の構成員

教員は5名で、教室代表は塚田孝氏がつとめました(佐賀朝氏が代理として分担)。都市文化研究センター(UCRC)研究員6名(川元奈々・島崎未央・濱道孝尚・山下聡一・吉元加奈美・渡部陽子)、都市研究プラザ(URP)の博士研究員1名(吉元)、大学院後期博士課程5名(堀竜太郎・川元奈々・青井恵理香・道上祥武・呉偉華、内学振特別研究員DCは2名)、大学院前期博士課程9名(阿部大誠・亀井駿輔・谷口正樹・平生遠・松原弘樹・松本大河・矢嶋健人、岩永紘和・大澤嶺(入学))、学部生53名(4回生17名、3回生18名(編入学2名含む)、2回生18名)の合計77名でした。

17年度の非常勤講師として、小野沢あかね氏(立教大学)には、日本史特講Ⅱ(前期集中、日本史学研究Ⅳと共通)で日本軍「慰安婦」問題と近代公娼制度について、網伸也氏(近畿大学)には、日本史特講Ⅰ(後期、日本史学研究Ⅴと共通)で考古学からみた古代寺院と都城について、さらに竹本晃氏(大阪大谷大学)に日本史通論Ⅰ(後期)で5~9世紀の古代通史を、天野忠幸氏(天理大学)に日本社会の歴史(後期)で戦国時代の民衆や都市、仏教について、それぞれご講義いただきました。

なお、広川禎秀氏は、引き続き学術情報総合センター(恒藤記念室)の特任教員をつとめられました。また、栄原永遠男氏は、正倉院文書のデータベース構築作業が継続中であるため、客員教授として学内で研究に従事されました。島田克彦氏(桃山学院大学、受け入れ佐賀氏)が前年度からの継続で、9月まで客員准教授として在籍されました。

都市研究プラザ(URP)の都市論ユニットでは、引き続き塚田氏が副ユニット長を、岸本氏は大学史資料室運営委員(15年度~)や文学研究科の文化人材育成プログラム運営委員会委員などをつとめました。佐賀氏は、都市文化研究センター(UCRC)の所長をつとめました。

科学研究費 岸本氏を代表者とする基盤B[終末期古墳の編年と大化薄葬令の研究](16~18年度)の2年目、仁木氏を代表者とする基盤A[中世・近世移行期における守護所・城下町の総合的研究](13~17年度)の最終年、塚田氏を代表者とする基盤研究B[三都の巨大都市と社会構造の複合化に関する基盤的研究](16~19年度)の2年目、佐賀氏を代表者とする基盤研究B[近世~近代日本における遊女・娼妓と遊廓社会の総合的研究](15~18年度)の3年目でした。

頭脳循環 学術振興会の頭脳循環を加速する戦略的国際研究ネットワーク推進プログラムに塚田氏を代表とする[周縁的社会集団と近代ー日本と欧米におけるアジア史研究の架橋](17~19年度)が採択され、1年目の事業に取り組みました(事務局長佐賀氏)。

学内研究費 仁木氏を代表とする、大阪市立大学戦略的研究・基盤研究[豊臣大坂城本丸・詰の丸の地下探査による復元研究―文理融合・博学連携プロジェクト―]が採択されました。

研究員・大学院生 日本学術振興会の特別研究員では、DC2の道上祥武氏は、[集落遺跡からみる古代国家形成過程と列島支配に関する研究](16~17年)、DC1の呉偉華氏は、[近世巨大都市における「町」の総合的研究―大坂を対象にして―](17~19年)のそれぞれ従事しました。なお、新谷和之氏(16年6月学位取得)が文学研究科若手研究者出版助成制度により、研究科から助成金を受け、博士学位論文をもとにした著書『戦国期六角氏権力と地域社会』(思文閣出版、2018年)を刊行しました。

2.日本研究室の1年

4月 7日、歴史学合同ガイダンス、そのあと日本史研究室新歓コンパを野のはなハウスで開催。11日、市大日本史学会委員会。15日、大坂町触を読む会。23日、中世遠足(久我荘、京都市南区)。30日、KR研(久津川車塚古墳研究会)。

5月 9日、久津川車塚古墳出土形象埴輪(15年度分)の市大への搬入。13日、第20回市大日本史学会の大会・総会を学術情報総合センターで開催。創立20周年記念シンポジウム《共同の営為としての歴史学ー市大日本史ここ10年の歩みからー》を開催し、日本史の5人の教員が報告、そのほか、松岡弘之氏(尼崎市立地域研究史料館)、屋久健二氏(鹿児島実業高校)が研究報告。野のはなハウスで20周年記念レセプションを開催。14日、中世史ゼミ同窓会(中世史卒業生、現役学生30名ほどが参加)。大坂近世史の会。21日、考古学伊賀見学会。27日、歴史学合同ハイキング(京都市内の島原・祇園のほか三十三間堂など)。

6月 2日、第1回学科・コース決定ガイダンス。4日、古代史遠足(平城宮跡・額安寺)。11日、KR研。13日、近世史史料調査(成舞家文書・橘屋資料)。17日、三都研究会・近世大坂研究会国際小円座《身分制と賤民ー越前大野・和泉・寺院社会ー》。18日、考古学和歌山見学会。24日、第1回大学院入試説明会(日本史参加者8名)。25日、大阪歴史学会2017年度大会を市大で開催(事務局長岸本氏)。

7月 2日、KR研。大坂町触を読む会。14日、学術情報総合センターで寄贈発掘調査報告書の区分。22日、大坂近世史の会。24日、久津川車塚古墳発掘調査の機材を搬出し、あわせて出土形象埴輪の市大への搬入。25日、市大日本史学会委員会。28~30日、大阪城ボーリング(サウンディング)調査。29~30日、考古学香川見学旅行。

8月 1日、小野沢あかね氏集中講義(~4日)。久津川車塚古墳の発掘調査開始(~9月14日)。近世史史料調査(成舞家文書・橘屋資料)。5日、オープンキャンパス(~6日)。

9月 5日、大学院前期博士課程の9月入試(~6日、受験者6名)。8日、近世史合宿(兵庫県たつの市、~10日)。10~13日、佐賀氏、遊廓科研の山形県調査。20日、和泉市との第21回合同調査を万町で実施(~22日、研究室から56名参加)。25日、近現代史ゼミ卒論合宿(広島県呉・広島、~27日)。26日、古代史ゼミ旅行(糸島・福岡・大宰府、~28日)。中世史ゼミ夏合宿(甲斐、~29日)。29日、第2回学科・コース決定ガイダンス。30日、大坂町触を読む会。

10月 15日、KR研。24日、市大日本史学会員会。近世史史料調査(成舞家文書・橘屋資料)。27日、卒論中間発表。

11月 4日、古代史遠足(奈良国立博物館の正倉院展・奈良町)。8日、頭脳循環プログラム学内個別セミナー(第1回)。11日、歴史学合同見学旅行(岐阜・高山、~12日)。19日、KR研。20日、考古学四校交流卒論中間発表会(市大開催)。26日、第2回大学院入試説明会(日本史参加2名)。29日、考古学播磨見学会。

12月 3日、大坂近世史の会。10日、KR研。21日、頭脳循環プログラム学内KICKOFFセミナー(第2回)。

1月 10日、修士論文の締め切り(6本)。11日、頭脳循環プログラム学内個別セミナー(第3回)。13日、センター試験(~14日)。15日、卒業論文の締め切り(15本)。20日、三都研究会・近世大坂研究会国際円座《近世・近代巨大都市の比較史ー史料と社会ー》(~21日)。21日、近畿地区文化財専門職講習会で久津川車塚古墳での取り組みを報告。22日、国際円座に関連の近世・近代大阪フィールドワーク。

2月 2日、人間文化学研究Ⅱ(歴史学院生合同研究会)。4日、久津川車塚古墳の測量(~25日)。9日、修士論文・卒業論文の口頭試問(10日・13日)。12日、大坂町触を読む会。14日、大学院の2月入試(~15日、後期博士課程3名、前期博士課程5名の受験者)。22日、人間文化学研究Ⅱ(歴史学院生合同研究会)。25日、個別学力検査(前期日程)。

3月 1日、第1回卒論演習(対象者19名)。市大日本史学会委員会。2日、岬町西陵古墳の測量調査(~10日)。3日、頭脳循環プログラム学内個別セミナー(第4回)。6日、JMOOC教材「都市史研究の最前線ー大阪を中心にー」WEEK1配信開始(13日にWEEK2、20日に同3、27日の同4をそれぞれ配信)。7~10日、中世史春合宿(周防・豊前・筑前)。11日、《いずみ歴史トーク 肥子町合同調査報告会 明治~昭和期における肥子町の社会と空間》開催。(肥子町会館、学生が報告)。13日、古代史遠足(飛鳥)。19日、考古学関係部屋の年度末整理。22日、学位授与式、歴史学合同の卒業・修了パーティー。26日、頭脳循環プログラム第1回海外史料・方法融合型セミナー・史料読解ワークショップ(イェール大学、~28日)。

3.調査研究活動

考古学 

岸本氏は、教育面では道上祥武氏の博士論文の指導や、博物館実習Ⅰでの大学史展示室の展示準備にあたり、研究面では科研費による横穴式石室・横口式石槨のフォトスキャンによる3次元化を試み、また4年目となる久津川車塚古墳の調査では全国でもまだ事例のわずかな渡り土手を検出し、新たに淡輪・西陵古墳の測量調査にあたりました。社会貢献としては、大阪歴史学会事務局長として6月に大阪市大で大会を開催しました。

久津川車塚古墳から出土した形象埴輪の整理を分担することとなり、大学院生・学生らが週1回、整理作業を続けています。また、玉手山3号墳の埴輪の実測や、勉強会、また上原真人氏から寄贈を受けた発掘調査報告書類の整理作業も学生主体で実施しています。

古代史 

磐下氏は、昨年まで学内の研究費の交付を受けて行ってきた、大阪歴史博物館・大阪文化財研究所の研究者との共同研究の成果をまとめた論文集の刊行準備を進めました。その他、12月に大阪狭山市で開催されたシンポジウム《行基が狭山にもたらしたもの》での報告など、大阪の古代史にかかわるテーマでの市民講座も行いました。

大学院の授業では『水左記』の輪読を行い、学部のゼミでは『続日本紀』、『類聚三代格』を扱いました。また、有志の院生・学部生とともに史料輪読の勉強会(古代史研究会)を23回実施しました。

個人的な研究活動としては、項目選定作業から関わってきた『藤原道長事典』(思文閣出版、共著)を刊行することができました。

中世史 

仁木氏は、科研費基盤研究(A)[中世・近世移行期における守護所・城下町の総合的研究]が最終年度を迎えました。5年間にわたり各地で研究集会を開催してきましたが、17年秋の京都・大阪における総括シンポジウムで研究成果を一定まとめました。戦国期から織豊期までの武家の支配拠点の形成と地域社会の変容を連動させることで、地域による偏差の大きさを明らかにするとともに、近世初頭における中世社会の規定性を論じることができました。

この間のもう1つの研究テーマである、豊臣期大坂城の解明については、地中ボーリング調査、表面波探査などを行いました。

研究科長(文学部長)が多忙で、研究論文を執筆できず、また毎月実施してきた遠足もほとんどできず忸怩たる思いとのことです。

近世史 

塚田氏は、都市史・地域史を中心に研究・教育にあたっています。大坂町触を読む会は継続的に実施され、12年度から引き続き三津寺町関係史料中の町触を読んでいます。科学基盤研究(B)[三都の巨大都市化と社会構造の複合化に関する基盤研究]の共同研究の場としての三都研究会を継続し、近世大坂の固有の都市社会構造の研究を軸にしながら、三都の比較史に力を入れています。『和泉市の歴史』テーマ叙述編(近世)の編集に向けて、和泉市の地域史の共同研究も鋭意進めています。今年度から大阪近世史の会をスタートさせ、都市と農村、さらに広く近世社会の諸問題を議論する場をもっています。

17年度も海外研究者との交流が実現し、また留学生を受け入れています。中国社会科学院歴史研究所、上海大学文学院、イェール大学東アジア研究センター、パリ第7大学、リール大学などが主催のシンポジウムや研究会などで報告・講演の機会を得て、国際的な交流を広げています。こうした取り組みのなかで、継続して若手研究者も報告するような企画を行っていきたいとのことです。

近現代史 

佐賀氏は、第二次遊廓科研(基盤研究(B)[近世~近代日本における遊女・娼妓と遊廓社会の総合的研究](15~18年度))が早くも3年目に入り、全国の研究者を広く組織しながら、近世・近代の遊廓社会史の研究を推進しています。マスコミなどでも注目され、遊廓社会者としての社会に向けた活動も展開しています。

15年度から継続してきた釜山大学校韓国民族文化研究所とUCRCとの共同研究では17年5月に同研究所の紀要として共同論文集『都市と共生』が刊行されました。また、17年4月から都市文化研究センターの所長として、文学研究科の国際交流や共同研究の活動に従事し、イリノイ大学と大阪市大の国際共同事業のほか、イェール大学との部局間交流協定を結ぶことに貢献しています。

大学院ゼミ・研究会では、前期は集中講義と来学した小野沢あかね氏の著書を中心に学習・検討を進め、後期には主として近現代史の卒論生や留学生らの研究テーマに関わる論文の検討や研究報告を重ねました。全学共通科目「戦争と人間」、日本史基礎講読Ⅰでの「従軍慰安婦」問題を素材にした授業(17年度は従来通り単独で担当)などにも、引き続き取り組みました。そのほか、和泉市史のテーマ叙述編(近現代史)や大阪府公文書館の運営懇談会委員も続けました。また、大阪歴史科学協議会の機関誌『歴史科学』の編集長をつとめています。

以上のほか、17年度は、日本史研究室の教員5名全員が参加して「JMOOC」教材「都市史研究の最前線ー大阪を中心にー」の制作、配信事業に取り組みました。これは、15分程度の映像授業を4週に分けて毎週4コマ、合計16コマを無料で配信するもので、インターネット経由で履修登録を行った視聴者に、毎週のクイズと最終クイズに合格すると「修了証」を交付するものです。3月末までに1100名以上が履修登録しました。この事業では大阪市博物館協会にも博学連携事業の一環としてご協力いただきました。制作したコンテンツは、今後も様々な機会を利用して発信していく予定です。

さらに、日本史と世界史の教員数名が中心となって申請した日本学術振興会の「頭脳循環プログラム」において[周縁的社会集団と近代](17~19年度)が採択され、さっそく初年度の活動を展開しました。本事業は、塚田氏とイェール大学のダニエル・ボツマン氏を初めとする海外の日本近世~近代史研究者や、海外(主に英語圏)のアジア史研究者を加えて「四者共同」型の新たな国際共同研究ネットワークを構築しようとする意欲的なものです。主担当研究者(研究代表)のは塚田氏で、担当研究者には佐賀氏のほか、東洋史・西洋史の研究者たちも名を連ね、佐賀氏が事務局長をつとめています。事業期間の3年間に申請額で1億円近い資金が交付されるもので、文学研究科やUCRCの17~19年度における中核的な事業のひとつとなります。