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『市大日本史』第22号(2019年5月)から転載します。
18年度、大阪市立大学文学研究科は、仁木宏研究科長(日本史学教室)、小林直樹副研究科長(国語国文学教室)、多和田裕司教育研究評議員(アジア都市文化学教室)体制の2年目でした。
教員は5名で、教室代表は岸本直文氏がつとめました。都市文化研究センター(UCRC)研究員6名(島崎未央・濱道孝尚・道上祥武・山下聡一・吉元加奈美・渡部陽子)、大学院後期博士課程5名(堀竜太郎・青井恵理香・呉偉華・阿部大誠・谷口正樹、内学振特別研究員DCは1名)、大学院前期博士課程8名(松原弘樹・岩永紘和・大澤嶺、兒玉良平・田坪賢人・藤岡琢矢・松井萌・松鹿彩花(入学))、大学院研究生2名、学部生45名(4回生20名、3回生17名、2回生8名)の合計71名でした。
18年度の非常勤講師として、原田正俊氏(関西大学)には、日本史特講Ⅰ(前期集中、日本史学研究Ⅴと共通)で中世仏教史の最前線を、丸山裕美子氏(愛知県立大学)には、日本史特講Ⅱ(後期集中、日本史学研究Ⅵと共通)で正倉院文書研究の最前線について、さらに竹本晃氏(大阪大谷大学)に日本史通論Ⅰ(後期)で5~9世紀の古代通史を、天野忠幸氏(天理大学)に日本社会の歴史(後期)で戦国時代の民衆や都市、仏教について、それぞれご講義いただきました。
なお、広川禎秀氏は、引き続き学術情報総合センター(恒藤記念室)の特任教員をつとめられました。また、栄原永遠男氏は、正倉院文書のデータベース構築作業が継続中であるため、客員教授として学内で研究に従事されました。そのほか、マーレン・エーラス氏(ノースカロライナ大学シャーロット校)は7月から12月まで招聘准教授として大野藩の幕末社会史の研究を、ティモシー・エイモス氏(シンガポール国立大学)は、1月にゲストプロフェッサーとして明治初期の大阪の刑罰についての研究を、アレクサンダー・シュワインツバーグ氏は10月から客員研究員として和歌山からのカナダ移民についての研究を進めらました。
都市研究プラザ(URP)は4ユニットの体制が改変され、プロジェクト体制になりましたが、塚田氏が引き続き和泉サブセンターの事業を継続しました。岸本氏は大学史資料室運営委員(15年度~)や文学研究科の文化人材育成プログラム運営委員をつとめました。仁木氏は、大学の博学連携事業の市大側の座長の任にあたりました。
18年度の科学研究費等による研究は以下の通りです。
科学研究費 岸本氏を代表者とする基盤B[終末期古墳の編年と大化薄葬令の研究](16~18年度)の3年目、塚田氏を代表者とする基盤研究B[三都の巨大都市と社会構造の複合化に関する基盤的研究](16~19年度)の3年目、佐賀氏を代表者とする基盤研究B[近世~近代日本における遊女・娼妓と遊廓社会の総合的研究](15~18年度)の4年目でした。
育成事業 また、塚田氏を代表とする国際的な活躍が期待できる研究者の育成事業[周縁的社会集団と近代ー日本と欧米におけるアジア史研究の架橋](17~19年度:日本学術振興会、18年度より旧頭脳循環プログラムから改称)は2年目となりました。この事業で島崎未央氏がイェール大学に10ヶ月、シンガポール国立大学にも1ヶ月強滞在し、在外研究に取り組みました。また、吉元加奈美氏も18年12月からイェール大学に派遣中です。
学内研究費 仁木氏を代表とする、大阪市立大学戦略的研究・基盤研究[豊臣大坂城本丸・詰の丸の地下探査による復元研究―文理融合・博学連携プロジェクト―]が採用され、岸本氏などと共同で、ボーリング調査などの地質調査を進めました。
研究員・大学院生 日本学術振興会の特別研究員では、DC1の呉偉華氏は、[近世巨大都市における「町」の総合的研究―大坂を対象にして―](17~19年)に従事しました。
4月 9日、歴史学合同ガイダンス、そのあと日本史研究室茶話会を野のはなハウスで開催。15日、久津川車塚古墳研究会(KR研)、大阪近世史の会。21~22日、考古学研究会大会(岡山大学)に参加、赤磐市の古墳ほかを見学。24日、市大日本史学会委員会。26日、育成事業セミナー。30日、岬町淡輪の西陵古墳の測量調査
5月 12日、第21回市大日本史学会大会・総会を学術情報総合センターで開催。久留島浩氏(国立歴史民俗博物館)の講演「歴史系博物館の可能性ー国立歴史民俗博物館での経験からー」につづき、酒井健治氏(福井県立若狭歴史博物館)、渡辺祥子氏(大阪市立大学国際的研究者育成事業)が研究報告。野のはなハウスで懇親会。19日、考古見学会(オオヤマト古墳群ほか)。20日、古代史遠足(平城宮跡・蟹満寺)、中世史遠足(四條畷・田原)。24日、育成事業セミナー。
6月 2日、第1回学科・コース決定ガイダンス。3日、歴史学合同ハイキング(法隆寺など)。10日、考古見学会(寝屋川・八尾の遺跡)。17日、久津川車塚古墳研究会(KR研)。18日、大阪府北部地震。21日、久津川車塚古墳サウンディング調査(~22日)。23日、第1回大学院入試説明会(日本史13名(内3回生2名))。24日、大阪歴史学会18年度大会を共通教育棟で開催(事務局長岸本氏)。26日、オレゴン大学の《Building Osaka:Urban Dynamics Across Fifteen Centuries 大阪の歴史の再発見と新知見:1500年の変遷を甦る》に岸本・仁木・塚田・佐賀が参加(~29日、25日出発、7月1日帰国)。
7月 5~6日、18年7月豪雨。12日、育成事業セミナー。14日、久津川車塚古墳研究会(KR研)、大坂町触を読む会、育成事業史料読解ワークショップ。16日、三都研究会・近世大坂研究会国際小円座《近世巨大都市の身分的周縁ー大坂と江戸ー》。21日、大阪城天守閣前でサウンディング(ボーリング)調査(~22日、仁木・岸本)。22日、久津川車塚古墳の囲形埴輪の接合(城陽市整理室)。24日、市大日本史学会委員会。28日~、原田正俊氏集中講義(~8月1日)。29日、久津川車塚古墳発掘のための機材を現地に搬入。
8月 1日、久津川車塚古墳の発掘調査(~9月14日)。3日、育成事業セミナー。4日、オープンキャンパス(~5日)。28日、大阪近世史の会。29日、近現代史卒論合宿(富山県:~31日)。
9月 3日、育成事業セミナー。5日、大学院前期博士課程の9月入試(~6日、受験者7名、台風により1日順延して実施)。6日、中世史夏合宿(播磨:~9日)。8日、近世史夏合宿(岡山市:~9日)。19日、和泉市との第22回合同調査を府中町で実施(~21日、研究室から43名参加)。26日、育成事業国際ラウンドテーブル(シンガポール国立大学)。28日、第2回学科・コース決定ガイダンス。
10月 8日、中世史遠足(長浜)。12日、古代史ゼミ旅行(~14日:多賀城・平泉)。16日、大阪城天守閣前にて微動アレイ探査(仁木・岸本)。18日、育成事業セミナー。20日、和泉市歴史トーク(和泉市万町、近世史ゼミ有志)。21日、考古見学会(河内・大和の横穴式石室・横口式石槨)。30日、市大日本史学会委員会。
11月 1日、育成事業セミナー。9日、卒論中間発表会。11日、考古の四校交流卒論発表会(京都府立大学)、古代史遠足(平城宮跡・白毫寺・新薬師寺・奈良国立博物館の正倉院展)。15日、育成事業セミナー。17日、編入学など特別入試。22日、滋賀県立安土城考古博物館の学芸課長田井中洋介氏と、東近江市雲雀山古墳の出土遺物の確認。23日、文学部オープファカルティ(第2回大学院入試説明会)。24日、考古見学会(天理・大和郡山・斑鳩の古墳)、大阪近世史の会。
12月 1日、上海社会科学院シンポジウム(~2日、三都研究会共催)。2日、久津川車塚古墳研究会(KR研)。8日、久津川車塚古墳の周辺街路の測量①。15日、博学連携事業による大阪城シンポジウム。16日、三都研究会・近世大坂研究会国際小円座《近世大坂の都市史研究の基板形成ー史料・人・歴史像ー》。23日、久津川車塚古墳の周辺街路の測量②。24日、西陵古墳の測量調査(~25日)。
1月 9日、修士論文の締め切り(2本)。12日、第2次遊廓科研・総括シンポジウム(立教大学)。15日、卒業論文の締め切り(17本)、育成事業セミナー。19日、センター試験(~20日)。26日、大阪府立弥生文化博物館の《若き考古学徒、論壇デビュー!》で卒論生発表。31日、育成事業セミナー。
2月 6日、丸山裕美子氏集中講義(~9日)。8・12日、修士論文・卒業論文の口頭試問。13日、大学院の2月入試(~14日、後期博士課程2名、前期博士課程6名の受験者)。15日、久津川車塚古墳の西造出部の本報告に向けて合宿(~19日)。18日、『大阪市立大学博物館基本構想』を学長に提出(岸本氏)。21日、人間文化学研究Ⅱ(歴史学院生合同研究会)。24日、三都研究会・近世大坂研究会国際小円座《近世京都の都市社会の拡大》。25日、大学入試(個別学力検査:前期日程)。26日、市大日本史学会委員会。27日、中世史春合宿(~3月2日:房総里見氏の世界)。
3月 1日、育成事業セミナー、井上徹先生(東洋史)の送別会。10日、久津川車塚古墳研究会(KR研)、大阪近世史の会。11日、第1回卒論演習(対象者17名)、市大日本史学会委員会。12日、大学入試(個別学力検査:後期日程)、西陵古墳の測量調査(~16日)。13日、大黒俊二先生(西洋史)最終講義。25日、育成事業セミナー(~27日:イェール大学)、学位授与式、歴史学合同の卒業・修了記念パーティー。27日、考古見学旅行(~28日:鳥取県)。28日、古代史遠足(円成寺・地獄谷石窟仏など)。
岸本氏は、荒川学長が(仮称)大学史資料館の構想をもち、17年度末に学術情報総合センター長にワーキンググループでの検討を指示したのを受けて、そのメンバーとなって大阪市立大学博物館の『基本構想』のとりまとめに従事しました。なお、UCRC研究員の渡部陽子氏が10月から学内資料の調査員になり、学術標本等の資料調査にあたっています。この博物館構想では、2020年に1号館で実施する市大140周年展をプレオープンとし、その先近い将来に博物館を設置することを目指しています。『基本構想』をまとめてワーキンググループは役割を終え、4月からは「(仮称)大学史資料館設立準備委員会」が設置されました。岸本氏は引き続きこの委員に就任し、140周年展の準備および博物館の基本設計の作業にあたります。
研究では、科研基盤B[終末期古墳の編年と大化薄葬令の研究]が終了し、三ヶ年で実施してきた横穴式石室・横口式石槨のレーザー計測の成果公表について検討中です。また、3年にわたって実施したシンポジウム《難波宮と大化改新》の単行本化の作業は、18年度中に調整・入稿作業がほぼ完了し、19年度に刊行予定です。そのほか、調査に協力している久津川車塚古墳の発掘調査では中間報告を出すことになり、前半期の調査成果のとりまとめ、出土遺物の整理を進める必要があります。また、17年度に着手した岬町淡輪の西陵古墳の測量調査は、18年度に墳丘部が終了し、周堤にとりかかっています。
学会関係では、岸本氏は大阪歴史学会の二ヶ年の事務局長の任期が終わり、編集委員長に就任しています。全体委員会に加え、月1回の編集委員会に出席し、投稿論文の把握や取り扱いの簡素化、会誌『ヒストリア』の仕上がり改善に向けて新たな試みを進めています。
磐下氏は郡司・古記録・大阪の古代史の3テーマを軸に研究を進めました。郡司の研究については、6月9日に静岡県浜松市で開催された木簡学会特別研究集会で研究報告を行い、郡司を中心としや地方行政の実態について考察しました。その内容は『木簡研究』40号に「伊場遺跡群出土文字資料と地方官術の変遷」として掲載されています。古記録の研究については、昨年より親しい仲間と『水左記』(源俊房の日記)の輪読を始め、註釈の作成に取りかかりました(輪読会を7回実施)。大阪の古代史については、9月29日に明治大学で開かれたシンポジウム《今、難波宮から都城を考える》(明治大学古代学研究所主催)で報告「7世紀史のなかの前期難波宮」を行い、前期難波宮と孝徳朝の「官僚制」について検討しました。
教育に関しては、大学院の授業では引き続き『水左記』の輪読を、学部のゼミでは『続日本紀』、『類聚三代格』を取り上げました。また、有志の学生とともに史料輪読の勉強会(古代史研究会)を24回実施しました。
そのほか、長居植物園や近鉄文化サロン、中日文化センター(名古屋)での市民講座や、『古代史史料を読む』(佐藤信・小口雅史編、同成社)の執筆なども行いました。
仁木氏は、先述の大阪市立大学戦略的研究[豊臣大坂城本丸地区の堀・櫓台の復元研究]によって、地中サウンディング(ボーリング)調査、微動アレイ探査などを行い、一定の成果をあげています。成果の一端は、大阪歴史学会大会にて報告を行いました。また、18年12月に(全国)歴科協大会(同志社大学)で報告を行い、中世後期京都研究に一石を投じました。ただ、研究科長(文学部長)職が多忙であったため、研究活動が十分にできず、残念な日々を送ったとのことです。19年度にはそれらから解放されるため、これまでの研究のまとめと、新たな展開に取り組んでいく予定です。
塚田氏は、都市史・地域史を中心に研究・教育にあたっています。大坂町触を読む会は、12年度から引き続き三津寺町関係史料中の町触を読んでいます。その活動の一環として、大阪歴史博物館所蔵の雛屋町の「丁内諸用記」の翻刻を進めています。科研基盤B[三都の巨大都市化と社会構造の複合化に関する基盤的研究]の共同研究の場としての三都研究会を継続し、その成果として『シリーズ三都(仮)』の刊行を準備しています。和泉の地域史の共同研究を積み上げて、『和泉市の歴史7 和泉市の近世』(テーマ叙述編)を刊行しました。昨年度からスタートした大阪近世史の会は、都市と農村、更に広く近世社会の諸問題を議論する場として定着してきました。
18年度も海外の多くの研究者との交流が実現し、また留学生を受け入れています。中国社会科学院歴史研究所、上海大学文学院、シンガポール国立大学、イェール大学東アジア研究センター、オレゴン大学などが主催のシンポジウムや研究会などで報告・講演の機会に恵まれ、国際的な交流を広げています。さらに、育成事業では、近代の佐賀氏や東洋史・西洋史の人たちとともに《周縁的社会集団と近代》を掲げて、イェール大学との共同研究に取り組んでいます。こうした取り組みのなかで、若手研究者を海外に長期で派遣するとともに、多くの人が報告するような企画を行っていきたいと思っています。
佐賀氏は、第二次遊廓科研(基盤研究B[近世~近代日本における遊女・娼妓と遊廓社会の総合的研究]15~18年度)が最終年度を迎え、19年1月には総括シンポジウムを開催、企画統括と当日の進行を担い、遊廓社会史研究の到達点と課題を整理しました(19年度からは第三次遊廓科研もスタート)。また、昨年度に続き、都市文化研究センター(UCRC)の所長として、文学研究科の共同研究や国際交流を組織する活動を進め、その一環として19年3月にはイリノイ大学におけるジョイント・シンポジウムに3回目の出席を果たしました。あわせて塚田氏を代表とするJSPS国際的な活躍が期待できる研究者の育成事業(旧頭脳循環プログラムより改称)[周縁的社会集団と近代]の事務局長として、イェール大学、シンガポール国立大学、上海大学との国際共同研究を推進し、日本史を含む分野の若手研究者の派遣も手がけたほか、自らも上記の大学などで研究発表の機会を得ました。また都市史学会が設立に加わった日本・中国・韓国の研究者による東アジア都市史学会の設立大会(18年6月)にも招かれ、分科会で研究報告を行い、同月にはオレゴン大学で開催された大阪シンポにも参加し、研究報告を行いました。
大学院ゼミ・研究会では、前期には家を村を軸とする伝統社会に注目した農村社会史研究、後期には近代公娼制度と廃娼運動に関する研究を検討し、研究会は近現代史の卒業生の研究報告を軸に構成しました。全学共通科目「戦争と人間」、日本史基礎講読Ⅰでの「従軍慰安婦」問題を素材にした授業などにも引き続き取り組み、両者とも18年度で一段落を迎えました。そのほか、和泉市史のテーマ叙述編(近現代編)も続けました。また、大阪歴史科学協議会の機関誌『歴史科学』の編集委員長は2年目となり、市大のポスドクや院生の協力を得て、何とか年4冊の年度内刊行を実現することができました。
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