古野貢さん

武庫川女子大学共通教育部共通教育科教授

【経歴】

1997年 大阪市立大学大学院文学研究科後期博士課程 入学

2003年 同上 単位取得退学

2006年 博士(文学) 学位取得 (学位論文名「中世後期細川氏権力構造の研究」)

2012年 武庫川女子大学講師、資料館主任兼学院資料室主任

2014年 武庫川女子大学附属総合ミュージアム設置準備室事務長(2017年まで)

2016年 武庫川女子大学共通教育部共通教育科准教授

2022年 武庫川女子大学共通教育部共通教育科教授

【著書】

『中世後期細川氏の権力構造』(吉川弘文館、2008

【編著書】

『春日大社南郷目代 今西家文書』(豊中市、2003

『戦国・織豊期の西国社会』(日本史史料研究会、2012

『中世後期守護権力構造の史料学的研究』(科学研究費補助金研究成果報告書、2013

【論文】

「室町幕府-守護体制と細川氏権力」(『日本史研究』5102005

「室町幕府-守護体制下の分国支配構造-細川京兆家分国丹波国を事例に-」(『市大日本史』122009

「畿内近国の大名と盟約」(『生活と文化の歴史学 6 契約・誓約・盟約』竹林舎、2015

「中世後期守護研究の現在」(『十六世紀史論叢』82017

「伊賀・伊勢・志摩国守護仁木氏」(『中世後期の守護と文書システム』思文閣出版、2022

「細川氏・三好氏の権力構造、畿内・阿波からの視点」(『戦国期阿波国のいくさ・信仰・都市』戎光祥出版、2022)など

 私は大学卒業後、地元である岡山県の社会教育施設で働いていました。その後他大学の修士課程に進学し、在学中に阪神淡路大震災に遭いました。そこであらためて、歴史学が社会や人びとの生活に果たす役割は何かを考え、大阪市立大学の博士後期課程に進学しました、前年に着任された仁木宏先生の指導を受けた最初のドクターの院生です。

 進学以来、一貫して室町・戦国時代の守護権力について研究しています。細川氏を対象に研究を深めてきましたが、最近は斯波氏などを素材に、中世後期の守護そのものについて、あらためて考えています。現在の職場には文学部史学科にあたるセクションがなく、共通教育部において歴史研究というよりも大学における教育実践方法や、教養としての学問のあり方に取り組むことが主務となっています。当たり前に関われないからこそ、歴史研究・教育の重要性を強く感じます。

 大阪市立大学の中世史ゼミで学んだこと。まずは「史料を読むこと」です。古文書(くずし字)をはじめ、さまざまな史料を正確に読み、解釈する力を身につけることは、歴史研究にとって必要不可欠なスキルです。講読の授業だけではなく、研究室の仲間との自主ゼミなどで史料を読みました。

 次に「発信」です。学内の研究会、学会での報告と論文執筆で鍛えられました。先行研究や現在の研究動向から適切に課題設定をし、どうすれば論理的にわかりやすく、説得的に伝えることができるか。自分の研究の位置づけはもちろん、問いへの答え方やレジュメの作成方法などの技術も学びました。

 さらに「ネットワーク構築」です。市大を基盤に日本史研究会や大阪歴史学会などの大会・研究会に出席し、他大学や博物館などの研究者の方々と積極的に交流しました。それによって情報を確保しやすくなり、研究の視野が広がって理解を深めることができました。また共同研究や関係する仕事(自治体史や講演など)への途も開け、自分の活動を社会に接合することが可能となりました。

 外部から進学した私にとって、市大の博士課程が研究者としての鍛錬の場でした。ほとんどすべてのことをここで学びました。中世史ゼミの特徴は、開かれていてのびやかなところです。研究を進めるうえで必要な心構えや技術、能力を高める環境が整っています。厳しい研究会も、ひとりの研究者として自立するために必要なことです。研究はもちろん、一般の社会生活において自分自身の言動に責任を持つ覚悟と経験を、実践的、かつ自覚的に獲得できる場として、市大の中世史ゼミは何ものにも代えがたい貴重な場でした。

 現在の職場で学生と接することで感じるのは、市大の中世史ゼミでの経験は、社会で評価される能力を高め、身につけるものであったということです。研究に真剣に向き合うなかで得た、ネットワークを構築し、適切な情報を発信する力は、人生のあらゆる場面で必要とされます。しかし残念ながらそうしたことに対する意識や行動力を持っている、あるいは大切だと気づいている学生は少ない。昨今の社会状況から仕方ないのかもしれませんが、近視眼的、かつ経済優先的な発想を、根拠のない自信の上で披瀝しているに過ぎない人が多いです。歴史学(中世史)は、こうしたこととは真逆といえます。史料を読み、研究を深めたからといって、明日ご飯が食べられるわけではありません。しかし社会のさまざまなことがらに対し、場当たり的な対応ではなく、長いスパンで物ごとを考える。確かな事実をエビデンスに基づいて論理構成し、発信する。これらはいずれも、現代の日本を取り巻いている諸問題に対するほぼ唯一の解決策です。わたしたち人間が未来を語るには、過去からの学びに頼るしかないのです。

 大阪市立大学は2022年度から大阪公立大学に移行しました。これから公立大として新たな歴史を紡いでいくことになるでしょう。自分が学んだ大阪市立大学の名前がなくなるのは忍びないですが、市大中世史ゼミの伝統は、公立大になっても変わらず、新たに積み上げられていくはずです。

 大阪市立大学から移行した大阪公立大の中世史ゼミは、未来を生きる力を身につけられる場です。自分自身の将来と未来のために、ぜひ中世史ゼミで学び、充実した大学生活を送って下さい。