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日本史研究室にとって、研究室全体で取り組む最も大きな調査研究活動です。これまで20年間、和泉市教育委員会と合同で実施してきました。調査は、毎年9月下旬に2泊3日で、専攻する時代・分野を問わず、ほぼ全ての学生(2~4回生)と院生、教員が参加します。また他大学やOB・OGの参加もあり、全体で70名ほどになることもあります。
毎年5月に、教員・院生・学生、そして和泉市教育委員会(市史編さん事務局)のメンバー15名ほどからなる実行委員会を組織します。会議を重ね、対象地を決め、事前調査を進めながら、調査計画を立てます。そして、9月下旬の調査のあとも、調査成果を取りまとめ報告書を作成するまで(次年度5月刊行の『市大日本史』に掲載)、1年を通した活動です。
毎年、和泉市内の町会(江戸時代の村)から対象地域を選び、歴史学の方法にもとづいて総合的に調査します。具体的には、(1)残された古文書の調査、(2)地元のお年寄や町会役員の方への地域生活や地域運営に関する聞き取り調査、(3)水路や古い石造物、景観に注目しながら実際に地域を歩いて回るフィールドワーク(墓石や石碑などの調査を含む)、が主要な3本柱となっています。こうした様々な調査を実施するのは、調査対象とする「地域」そのものの中に、重層的で豊かな人々の生活痕跡がたくさん残されており、それぞれの地域が個性的なあり様をもつからこそ、様々な調査を重ねることでその特質を考えることができるからです。
現在の和泉市の「町会」は、戦後宅地化された新しい町を除いて、ほぼ江戸時代の「村」の範囲が引き継がれています。そのため、庄屋をしていた古い家の蔵などに、村のことを詳細に記した古文書が現存していたり、近代以降の戸長文書・町会史料などが豊富に残されていたりします。ときには中世文書が伝来しているお宅もあります。ひとつの「地域」にかかわるすべての古文書を、その地域に即して読み解くことで、地域における歴史の展開を「古代・中世・近世…」といった中央の政治史による時代区分で輪切りにすることなく、人々の暮らしの継続や変容を精緻に検証できるのです。合同調査では、こうした古文書の調査を、古文書のまとまりごとに、それらがどのように継承されてきたのかという視点を重視し、「現状記録調査法」という調査方法を用い、1点ずつ詳細に記録をとっていきます。
合同調査で調査した古文書は、後期の授業で教材に使われ、さらなる読み込みを進めます。合同調査の3日間では古文書に書かれていることすべてを分析することはできませんが、授業を通して理解が深まっていきます。学生にとっては、本物の古文書に触れることができる機会であり、またその古文書が残されてきた地域で史料調査を行うという経験となります。
また、聞き取り調査についてもユニークな点があります。近年、聞き取り調査は「オーラル・ヒストリー」と呼ばれ、歴史学の重要な方法のひとつとして注目されています。聞き取り調査は、一般的には個人の経験・記憶を記録する方法として用いられてきましたが、合同調査ではこうした点を踏まえつつ「地域における人々の暮らし・地域のあり様・地域運営」を記録する、という点をより意識しています。ふだん聞き取り調査に慣れていない学生や院生にとっては、何を聞いてよいのかわからず難しい部分もありますが、祖父母と同世代にあたる方々からお話を聞くことにより、わたしたち世代と過去の社会とのつながりを考える機会にもなります。
こうした古文書・聞き取り調査に加えて、フィールドワークで現地を実際に歩き、それらを全て相互連関的に把握することによって、地域のあり様を立体的に把握できるようになります。
ただし、地域の状況により調査方法の工夫が必要です。実行委員会では毎年どのような調査を行うのか議論を重ねています。そのような中で、合同調査を「地域の現状記録」と位置づける意義や、大学と市教委との合同と考えるのでなく、「地域との合同調査」でもあると自覚するようになるなど、あらたな意義・意味が見出されてきました。
歴史を学ぶ中での一番の醍醐味は、本やテレビに流れる「歴史像」を通じて間接的に歴史を知ることや、歴史上に名を残す有名人物について知識をかき集めることではなく、古文書や現地に残る遺構と格闘することで過去の社会と直接向きあったり、現在の地域の中に過去の痕跡が残されていないか、懸命に探しながら歩いたりすることだと思います。合同調査は、そうした営為を多くの人と協同しながら経験できる最良の場だといえるでしょう。
2019年末以来の新型コロナウィルスの感染拡大によって、多人数の教員・学生が集まって地域に入っていき、合宿形式で行うような従来の形式での調査の実施は困難となりました。2020年度は調査実施を断念しましたが、2021年度には例年どおり5月に院生・学生・教員からなる合同調査実行委員会を立ち上げ、コロナ禍での合同調査実施の可能性を模索していきました。そのなかで、文学研究科が存在する杉本キャンパス一帯に広がっていた杉本村の庄屋の家に残された文書群である山野家文書(大学史資料室所蔵)が調査対象として浮上し、その史料群の調査を中心に、従来行ってきた聞き取りやフィールドワークなども含めて大学で調査を行うことになりました。
その後、山野家文書を所蔵する大学史資料室の調査員の方々にも委員会に参加していただき、資料室を通して元所蔵者や地元の方への聞き取り、フィールドワークなども含めた調査計画を作成していきました。そして、例年とはやや異なる形式ながらも、和泉市での合同調査の経験や方法を受け継ぐ調査として、この調査を特別合同調査と呼ぶこととしました。しかし、緊急事態宣言の発出により、2021年9月に予定していた調査は翌年3月に延期となり、3月の調査も感染拡大防止の観点から、当初予定していた聞き取り調査やフィールドワークは断念し、広めの会場で、マスク着用、消毒・換気の徹底などの感染防止対策を徹底した上で、食事の時間を挟まないように午後の時間のみ、古文書調査だけを行う形で実施しました(2022年3月7日〜9日に実施)。和泉市での合同調査よりも限定的な条件での調査となりましたが、古文書に触れる機会から遠ざかっていた多くの学生にとって、本物の古文書に触れ、班ごとに話し合いながらその内容を記録していくことで、普段我々が歴史を学んでいる杉本キャンパス一帯の過去の社会の一端に触れられる充実した調査となりました。
特別合同調査で調査した古文書は、授業で教材として使用し、さらなる読み込みを進めています。
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