業績
2021年3月30日
深層学習を用いたミスレジストレーションのない脳血管造影手法の開発と評価
患者さんの動きによって生じるミスレジストレーションアーチファクトを除去するため、深層学習を利用してデジタルサブトラクション血管造影(DSA)に匹敵する画像を生成するモデルを検証しました。
論文
Deep Learning–based Angiogram Generation Model for Cerebral Angiography without Misregistration Artifacts
Radiology
https://doi.org/10.1148/radiol.2021203692
著者談
私たちは、IVR(インターベンショナルラジオロジー)の領域でAIを活用できないかと考え、単一施設で症例数は決して多くないながらも、着想の独自性を追求することで論文掲載に至りました。研究を進める中で、脳血管造影において頻繁に見られるミスレジストレーションアーチファクトの仕組みを詳細に調べ、患者さんのわずかな動きで背景の骨やデバイスが残像のように写り込む問題点を特定しました。そして、この課題を深層学習によって解決できるのではないかと考えたのです。最初は画像処理の専門知識が少なく試行錯誤が続きましたが、研究室全体で知恵を出し合うことで臨床的にも実用性が高いモデルを構築できたと感じています。
論文概要
論文では、脳動脈瘤などの治療計画や手技中に必須となるDSAを、マスク画像を用いた差分処理ではなく、深層学習モデルで直接生成する方法を提案しました。通常のDSAは、透視下で患者さんが微小に動くと、骨やデバイスの一部が残ってしまう“ミスレジストレーションアーチファクト”を引き起こすことがあります。これによって血管の走行が不鮮明になり、場合によっては再撮影を余儀なくされ、治療時間が延長するリスクがありました。本研究では、患者さんの過去画像から症例を抽出し、すでにアーチファクトがない血管造影と動画像を対にして学習データを作成し、深層学習で血管部分だけを正確に抽出するモデルを訓練しました。
論文詳細
最終的に40名の患者さんから得られた1万7千枚以上の画像対を用い、学習データとテストデータを分割して評価を行いました。その結果、ミスレジストレーションのないDSA画像と比較した場合、深層学習モデルで生成された血管像のピーク信号対雑音比(PSNR)は平均40.2 dB、構造類似度(SSIM)は平均0.97という高い値を示しました。これは、ほぼ同等の画質を確保しながら、動きによる骨や金属コイルのアーチファクトが目立たない画像が得られることを意味します。加えて、複数の専門医による視覚的評価でも、従来のDSAより見やすい、もしくは遜色ないという判断が下されました。症例数が限られる単施設研究であるため、今後は多施設データでの検証が望まれますが、AIを使ってマスク画像なしに脳血管構造を描出できる可能性が示された点は大きな意義があると考えています。将来的には、再撮影や処置遅延のリスクを軽減しつつ、患者さんの負担や放射線被ばく量を抑える手段としても貢献できるのではないかと期待しています。