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2025年1月21日

健常人の胸部レントゲンから開発した加齢バイオマーカーの臨床応用

Chest radiography as a biomarker of ageing: artificial intelligence-based, multi-institutional model development and validation in Japan

健常人コホートから作成された胸部レントゲン画像による年齢推定AIモデルが実年齢と高い相関(相関係数0.95)を示し、さらに推定年齢と実年齢の差分が高血圧や肝硬変などの慢性疾患と関連することを明らかにした研究。

https://doi.org/10.1016/S2666-7568(23)00133-2

著者談

この研究を始めたきっかけは、胸部レントゲン画像から年齢を推定する研究が既にいくつか存在していたものの、健常人のデータを使用した研究がなかったことである。そこで我々は、健常人コホートを用いることで、より正確な加齢のバイオマーカーを作れるのではないかと考えた。

研究を進める中で、単なる年齢推定に留まらず、様々な慢性疾患との関連性を調べることで、より臨床的な価値を持たせることができると考えた。この発想が功を奏し、高血圧や肝硬変など、多くの慢性疾患との関連性を示すことができた。

研究成果を論文化する際には、データの見せ方にも工夫を凝らした。健常人コホートでの検証と疾患との相関分析という2つの要素を、1つのストーリーとしてまとめ上げることで、より説得力のある論文に仕上げることができたと考えている。

また、研究成果を広く活用してもらえるよう、Hugging Faceを通じてAIモデルを公開した。誰でも簡単に使えるGUIインターフェースを用意したことで、多くの医療関係者に使ってもらえることを期待している。この研究が、加齢関連疾患の早期発見や予防医療の発展に少しでも貢献できれば幸いである。

論文概要

本研究では、日本国内の5つの医療機関から10万件を超える胸部レントゲン画像を収集し、それらを用いて年齢推定のAIモデルを開発した。従来の研究とは異なり、健常人のデータを用いてモデルを構築したことが大きな特徴である。

モデルの性能評価では、健常人コホートにおいてAIによる推定年齢と実年齢の間に相関係数0.95という高い相関を示すことができた。この結果は、胸部レントゲン画像が加齢のバイオマーカーとして十分な可能性を持つことを示唆している。

研究の後半では、様々な疾患を持つ患者群に対してモデルを適用し、推定年齢と実年齢の差分を解析した。その結果、高血圧、高尿酸血症、COPD、間質性肺疾患といった慢性疾患との間に関連性があることが分かった。特に肝硬変との関連性は予想外の発見であり、胸部レントゲン画像に含まれる情報の豊かさを再認識する結果となった。

このように本研究は、胸部レントゲン画像という一般的な検査から、加齢に関する新たな知見を引き出すことに成功した。医療現場で日常的に撮影される胸部レントゲン画像を活用することで、患者さんの負担を増やすことなく、加齢関連疾患のスクリーニングに応用できる可能性を示すことができたと考えている。

論文詳細

研究の技術的な詳細として、モデルの開発には3つの医療機関から収集した健常人の胸部レントゲン画像を使用した。データの信頼性を担保するため、2つの異なる医療機関のデータを用いて外部検証を行った。

AIモデルの開発においては、画像認識分野で高い性能を示すConvNeXtを採用した。また、AIの判断根拠を理解するため、Shapley Additive exPlanationsを用いて可視化を行った。その結果、上縦隔領域と両側下肺野領域が年齢推定において重要な特徴として浮かび上がった。

解析を進める中で、モデルは急性疾患との相関が低く、主に慢性的な変化を捉えていることが明らかになった。これは、加齢という長期的な変化を捉えるバイオマーカーとして理にかなった結果だと言える。

疾患との相関メカニズムについては、動脈硬化性変化、肺野の変化、骨格・心臓の形態変化など、複数の観点から考察を行った。例えば、上縦隔領域での高い相関は、大動脈弓の石灰化や蛇行といった加齢性変化を反映していると考えられる。

一方で、本研究にはいくつかの課題も残されている。人種や民族による違いを考慮した一般化可能性の検証や、フレイルインデックスなど既存の生物学的年齢マーカーとの比較検討が必要だろう。また、ダウンサンプリングした画像を用いて解析を行っているため、より高解像度での検証も今後の課題となっている。