記事
2023年8月16日
健常人の胸部レントゲンから開発した加齢バイオマーカーの臨床応用
胸部レントゲン画像をもとに人工知能で推定した「見かけの年齢」が、実際の年齢とのずれ(difference-age)を通じて高血圧や肺疾患などの慢性疾患と関連することを示した研究です。
論文
Chest radiography as a biomarker of ageing: artificial intelligence-based, multi-institutional model development and validation in Japan
The Lancet Healthy Longevity
https://doi.org/10.1016/S2666-7568(23)00133-2
著者談
私たちは以前から、胸部レントゲンが加齢に伴う体の変化をある程度示しているのではないかと考えていました。こうした試みは過去にも報告がありましたが、病気を含む被検者が中心だったり、単一施設のデータが多く、健康な人を大規模かつ複数の施設で集めてAIモデルを作った研究は見当たりませんでした。そこで私たちは健常人コホートのデータを多施設から集め、年齢推定モデルの精度や汎用性を検証することで、その有用性を示そうとしました。そのうえで、得られた推定年齢と実年齢との差を指標とし、さまざまな慢性疾患との関連を網羅的に調べたのです。さらに、誰でも触れられるようにHugging Faceのプラットフォームを活用し、使いやすいGUIを準備しました。レントゲンから得られる情報を基盤としたこの研究が、今後いろいろな疾患の診断や予防に役立つ足がかりになればと考えています。
論文概要
私たちは、2008年から2021年にかけて国内の複数施設で取得された健康診断受診者の胸部レントゲン画像を用いて、AIモデルにより年齢を推定するシステムを構築し、その精度を検証しました。最終的に約7万人、10万枚超のレントゲン画像を解析し、外部検証では推定年齢と実年齢の相関係数0.95、平均二乗誤差15.0年、平方根平均二乗誤差3.8年、平均絶対誤差3.0年といった結果が得られました。続いて、別の施設で集めた慢性疾患を有するコホートでこのモデルを適用したところ、推定年齢と実年齢の差が大きいほど、さまざまな慢性疾患の罹患率が高い傾向がみられました。
論文詳細
健康コホートのデータから作ったモデルを病気のある集団に適用し、推定年齢が高めに出ると慢性疾患との関連が強いことを検証しました。たとえば血圧異常(高血圧)では推定年齢の差が1増えるごとにオッズ比1.04、COPD(慢性閉塞性肺疾患)では1.05、間質性肺疾患では1.08、肝硬変では1.05、骨粗鬆症では1.03などの値が得られました。一方で急性疾患との関連はさほど強くなく、AIモデルが捉えるのは長期的な身体変化に近いと推察しています。さらに、どの部位の画像情報が年齢推定に影響しているのかを調べたところ、大動脈弓付近や肺底部などが重要な手がかりとなっていることが示唆されました。この研究により、胸部レントゲンは安価で定期的にも撮影される検査でありながら、加齢の度合いを映し出すポテンシャルがある可能性が示されました。今後は生物学的老化をより正確にとらえるための比較検証を進めるほか、さまざまな慢性疾患のリスク評価や早期予防・治療の指針として役立てられるよう、さらに検証を重ねていきたいと考えています。