記事
2024年6月24日
医療AIと気候変動を考える:持続可能な未来に向けた検討
AI技術がもたらす医療の発展と、その裏で高まる環境負荷の両面から課題と対策を整理したレビューです。
論文
Climate change and artificial intelligence in healthcare: Review and recommendations towards a sustainable future
Diagnostic and Interventional Imaging
https://doi.org/10.1016/j.diii.2024.06.002
著者談
私たちは、医療現場におけるAI活用が急速に広がる一方、そのコンピュータ資源への依存によって少なからぬ環境負荷が生じることに注目しました。最近では大規模言語モデル(LLM)のような高度なAIが注目を集めていますが、これらが利用する計算リソースやデータセンターの電力消費は私たちの想像以上に大きく、気候変動への影響も無視できなくなっています。そこで、日本中の医療AIのステークホルダーの方々と協力し、医療の持つ社会的責務と地球規模の課題である気候変動とを同時に考えるために、本レビューをまとめました。私たちの研究室ではPlanetary Healthを一つの大きなテーマとして掲げており、地球環境と医療の両立を探る手がかりとして、本論文が有用な出発点になると考えています。
論文概要
本論文では、医療AIがもたらす診断や治療面での利点とともに、膨大なエネルギーを要するモデル学習やデータセンターの稼働による温室効果ガス排出など、環境への影響を包括的に論じました。医療分野全体で世界の温室効果ガス排出量の約4.4%を占めるとの報告がある中で、AIの活用はさらに広がると予測されます。そのため、AI開発段階での省電力化技術や、再生可能エネルギーの導入などの具体的な緩和策が欠かせないと結論づけています。また、複数の専門家による共同研究を通して、より責任あるAI実装と、環境負荷に配慮した政策の必要性を提言しました。
論文詳細
本レビューでは、まずAIシステムが環境に及ぼす具体的な負担を示しています。大規模なAIモデルを一つ訓練する際の排出量が、乗用車5台分の生涯排出量に匹敵するという試算(2019年Strubellら)や、電子機器廃棄物(e-waste)の増加リスクなどを踏まえ、医療領域においてもこの問題が避けて通れないことを指摘しました。そして、データセンターが世界全体の電力消費量の1%ほどを占める一方で、再生可能エネルギーの活用や効率的なハードウェア選択によって一定の削減が見込めることを示しています。さらに、複数の報告により、AIを上手く活用することで医療サービス自体のムダを減らし、最終的には最大80%の温室効果ガス排出削減に寄与しうる可能性もあると整理しました。これらを支えるためには、研究開発段階からライフサイクルアセスメントを意識し、医療機器の廃棄や素材調達にいたるまで総合的に環境配慮を行う必要があります。私たちは本稿を通じて、AI導入の恩恵を享受しながら同時に地球環境にも配慮する姿勢を広めたいと考えています。そうすることで医療が持つ社会的責任をよりしっかりと果たし、次世代に健やかな地球と医療体制を同時に残していけると信じています。