業績

2025年1月21日

AIで血管造影のアーチファクトを解消 - 深層学習による新しいDSA画像生成法の開発

Deep Learning–based Angiogram Generation Model for Cerebral Angiography without Misregistration Artifacts

深層学習を用いてDSAの元画像から直接DSA様の画像を生成する手法を開発し、従来のDSAで問題となっていたミスレジストレーションアーチファクトを解決しながら、定量評価(PSNR 40.2dB、SSIM 0.97)および専門医による視覚評価において従来法と同等以上の診断価値を示した。

https://doi.org/10.1148/radiol.2021203692

著者談

本研究は、私たちが日常臨床で直面していたIVRにおけるミスレジストレーションの問題を何とか解決できないかと考えて始めたプロジェクトである。症例数は40例と決して多くはなく、単施設での研究であったが、幸いにも私たちのアイデアと臨床的意義を評価していただき、掲載に至ることができた。

研究を始めた当初は、IVRの分野でAIをどのように活用できるか手探りの状態であった。しかし、DSAのミスレジストレーションが生じる仕組みを丁寧に分析していく中で、マスク画像を使用しない新しいアプローチを思いついた。この着想が本研究の核となり、臨床応用可能なモデルの開発につながった。

私たちのチームは臨床現場での実用性を最優先に考え、1秒未満で処理可能なモデルを目指した。当初は処理速度と精度のバランスに苦心したが、試行錯誤を重ねることで両立することができた。この経験は、臨床応用を見据えたAI開発において貴重な学びとなった。

論文概要

本研究では、DSAにおけるミスレジストレーションアーチファクトを解決するため、深層学習を用いた新しいアプローチを提案した。従来のDSAでは、マスク画像と造影画像の位置ずれによってアーチファクトが発生していたが、私たちはDSAの元画像のみから直接DSA様の画像を生成する手法を開発した。

開発したモデルの性能評価では、定量的指標であるPSNRが40.2dB、SSIMが0.97という結果が得られた。これは生成された画像が従来のDSA画像と高い類似性を持つことを示している。また、臨床医による視覚評価においても、従来のDSA画像と同等以上の診断価値があることが確認された。

本研究の技術的な特徴として、pix2pixをベースとしたモデル構造を採用し、U-NetとcGANのアーキテクチャを組み合わせた点が挙げられる。この工夫により、血管の微細な構造を保持しながら、背景のノイズを効果的に除去することが可能となった。

私たちは本研究の成果を広く活用してもらうため、モデルのソースコードをオープンソースとして公開した。現在は頭部血管造影を対象としているが、この技術は他の部位の血管造影にも応用できる可能性がある。今後は適用範囲を広げていくことで、より多くの臨床現場で活用されることを期待している。

論文詳細

研究データの収集にあたり、2019年1月から4月までの期間に40名の患者から17,934組の画像ペアを収集した。画像データは、訓練用、検証用、テスト用に分割し、ミスレジストレーションの有無によって更に細かく分類を行った。

モデルの開発では、pix2pixをベースに選択した理由として、paired画像間の特徴抽出に優れているという点が挙げられる。このアーキテクチャに、U-Netによる画像生成とcGANによる画質向上の仕組みを組み込むことで、血管構造を正確に抽出できるモデルを構築することができた。

臨床評価では、5名の専門医による2種類の視覚評価を実施した。臨床有用性の評価では5段階評価で中央値4.0点を獲得し、適切な動作の評価でも4段階評価で中央値3.0点という結果が得られた。これらの評価では、専門医からミスレジストレーションの少なさと血管描出の正確性について高い評価を得ることができた。

私たちはこの技術を世界中の医療現場で活用してもらうため、GitHubを通じてソースコードを公開した。現在は頭部血管造影に限定されているものの、腹部や四肢など、他の部位への応用も技術的には可能である。今後は、より多くの施設からのデータ収集や、高解像度での処理にも対応できるようモデルの改良を進めていく予定である。