ゲーム内で使用された抗菌薬について
今回、選択肢に含めた抗菌薬について、原因菌と絡めながら解説します。
- アモキシシリン(AMPC)
経口ペニシリン系薬です。合成ペニシリン系薬の一つで、今回の中では最も狭域です。ペニシリン結合蛋白に結合し、細胞壁の合成を阻害することで抗菌活性を示します。多くの肺炎球菌は感受性です。β-ラクタマーゼ非産生アンピシリン感受性インフルエンザ菌(BLNAS)にも使用します。β-ラクタマーゼにより容易に分解されるため、β-ラクタマーゼ産生菌には基本的に無効です。モラクセラ・カタラーリスは、ほぼ100%、β-ラクタマーゼを産生するため無効です。ただし、モラクセラ・カタラーリスは上気道の常在菌でもあり、中耳炎などで分離されても、しばしば自然治癒することがあり、アンピシリンが一見効いたかのように見える場合があります。β-ラクタマーゼ非産生アンピシリン低感受性インフルエンザ菌(lowBLNAR)の場合には、高用量であれば有効性が期待されることがあります。 - クラブラン酸/アモキシシリン(CVA/AMPC)
アモキシシリン/クラブラン酸(AMPC/CVA)と表記される場合があります。上述の、AMPCとβ-ラクタマーゼ阻害薬であるクラブラン酸との合剤です。β-ラクタマーゼ産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(BLPAR)やモラクセラ・カタラーリスにも有効性が期待できます。β-ラクタマーゼ非産生アンピシリン低感受性インフルエンザ菌(lowBLNAR)やβ-ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(BLNAR)、β-ラクタマーゼ非産生アモキシシリン/クラブラン酸耐性インフルエンザ菌(BLPACR)には無効です。 - セフジトレン-ピボキシル(CDTR-PI)
経口第三世代セファロスポリン系薬です。作用機序はアモキシシリンと同様です。アモキシシリンよりもβ-ラクタマーゼには安定で、ペニシリナーゼには抵抗性を示します。β-ラクタマーゼ産生アンピシリン耐性インフルエンザ菌(BLPAR)やモラクセラ・カタラーリスが産生するβ-ラクタマーゼは、ペニシリナーゼであるため、有効性が期待できます。ゲーム内で登場した細菌には有効ですが、第三世代セファロスポリン系薬は一般にバイオアベイラビリティが低いため、十分な濃度が感染部位に届かない可能性があります。 - トスフロキサシン(TFLX)
経口フルオロキノロン系薬*です。DNAジャイレースに結合し、DNA合成を阻害します。ほとんどのフルオロキノロン系薬は小児への適応がありませんが、本剤は、小児で使用可能なフルオロキノロン系薬です。アモキシシリンなどに比べると広域であることから、適正使用の観点からは必要性を考慮して投与すべきです。
*フルオロキノロン:ナリジクス酸を元祖とする抗菌薬をキノロン系薬と呼びます。フルオロキノロンはフルオロ基をもつことに由来し、ニューキノロン系薬とも呼ばれます。フルオロ基を持たないキノロンであるナリジクス酸をオールドキノロンと呼びます。一般に、フルオロキノロン系薬はバイオアベイラビリティが高い抗菌薬の一つです。 - テビペネム-ピボキシル(TBPM-PI)
経口カルバペネム系薬です。ペニシリン系薬、セフェム系薬(セファロスポリン系薬+セファマイシン系薬)、カルバペネム系薬はβ-ラクタム系薬という大きな分類に含まれます。カルバペネム系薬はβ-ラクタム系薬の中で最も広域であり、適正使用が必要な抗菌薬です。下痢も起こしやすいため、安易な投与は避けるべきです。 - クラリスロマイシン(CAM)
マクロライド系薬です。中耳炎のガイドライン上、推奨されていません。フルオロキノロン系薬と同様、比較的広域で、マイコプラズマなどの非定型菌にも有効です。ただし、日本では肺炎球菌の80%近くがマクロライド耐性であるため、注意が必要です。