ロボット支援手術の活用と教育

 ロボット支援下手術は、da Vinci(ダヴィンチ、Intuitive Surgical社)に代表される手術支援システムを用いて、従来の腹腔鏡よりも精緻な手術を目指すものです。

 当科で用いているのはda Vinci Xiというモデルです。患者さんと接続する本体(ペイシェントカート)には4本の「腕」があり、このうちの1本に内視鏡を、残りの3本で様々な機能を持つ「手」を接続し、トロッカーという太いストローのような道具を通して患者さんの体内に挿入します。術者は、同じ手術室に置かれている操縦席(コンソール)に座り、まるでエレクトーン奏者のように両手両足を使って「カメラと3本の手」を操作します。操縦席の双眼レンズを覗くと、高精細な3D画像で拡大された患者さんの体内を観察することができ、今までにない没入感を得ながら手術を進めることができます。da Vinciの「腕」や「手」には、複数のモーターやワイヤーを用いた「操り人形」のような仕掛けが内蔵されているため、外科医は「手」の先端をほぼあらゆる方向に、手ブレなく操作することができます。これが、いわゆるダヴィンチ手術の最大のメリットでしょう。

(詳しくは講談社ブルーバックスのweb連載https://gendai.media/list/author/takeakiishizawaもご参照ください)

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 当科では、da Vinciの特徴が最も活かせる症例を優先して、月34件程度のロボット支援下肝切除、膵体尾部切除、または膵頭十二指腸切除を保険診療で行っています。大学にはロボット支援下肝切除または膵切除のプロクター(指導者)資格を持った医師が2名常勤しています。また、大学だけでなく、地域全体に安全確実なロボット支援手術を広める取り組みも推進しており、すでに和泉市立総合医療センター(肝切除プロクター 田中肖吾先生)、大阪市立総合医療センター、ベルランド総合病院、および府中病院でロボット支援下肝胆膵手術が導入されています(20234月現在)。

 現在は、ごく限られた経験豊富な医師のみがロボットを使って肝切除や膵切除を行えるシステムですが、近い将来、肝胆膵外科の領域でもロボット支援手術が標準的な治療になるでしょう。当科では、そのような状況を見越して、若い先生方に積極的にロボット支援手術に参加し、どんどん機器に触れてもらい、あるいはロボット手術の先進施設で研修を受け、早期に術者資格・指導者資格を取得するための教育プログラムを整備しています。

 最後に強調したいのは、現時点で「ロボット支援手術の方が『がん』が治りやすい」という証拠はほとんどない、という点です。がんの根治のためには、お腹の傷を小さくすることよりも、「切り口に癌が露出しないように」切除することの方が何百倍も重要です。当科では、「どうしても開腹手術でしか対応できないような病変(例えば径20cmの肝癌や10個以上の肝転移、血管に浸潤した膵臓癌など)」にもしっかりと切除できる診療体制を整備して患者さんをお待ちしています。また、このような「大きな」開腹手術、あるいは「ロボットを使わない」腹腔鏡手術の技術も習得できるように若手医師を教育しています。

HP用図多発

(石沢武彰)