ACTIVITY REPORT

2023年5月1日

フィラデルフィア留学報告(田中涼太)

2020年9月から2023年3月までの2年半にわたって、アメリカのペンシルバニア州フィラデルフィアにあるトーマス・ジェファーソン大学に研究留学を経験したので、報告を兼ねてアメリカでの生活を思い返してみる。

結論から言うと、私自身だけじゃなく家族にとっても、非常に有意義な時間を過ごすことができた。私が経験したエピソードも含めて少しお話しする。

 

私が留学していた研究室は、トーマス・ジェファーソン大学の腫瘍内科であり、研究室のボスは佐藤隆美先生という日本人の腫瘍内科臨床医であった。佐藤ラボでは主に臨床グループと研究グループに別れており、臨床グループは十数人のスタッフで形成され、第1相から第3相までの数多くの臨床試験を担っており、非常に積極的に活動し、かつハードワークな日々を過ごしている。その臨床グループと同じフロアに、私が所属していた研究グループはある。1人の准教授と2人のポスドク、1人の研究補助員で形成される研究グループは、主に動物モデルを使って、ヒト臨床試験の前に行われる前臨床試験を行なっていた。他研究室や様々な企業と密に関わり、新たな治療法や新規治療薬の開発を行い、ヒト臨床試験へと繋げるトランスレーショナルな分野(橋渡し研究)を担っていた。その中でも、特に私が従事していたのは、患者由来の組織をマウスに移植したヒト腫瘍異種移植(Patient-Derived tumor Xenograft: PDX)マウスモデルである。近年、PDXモデルは、がん研究に欠かせないものとして非常に注目されており、帰国後もPDXライブラリーを作成し、様々なことに役立てようと日々考えている。

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佐藤先生は、臨床や研究だけでなく教育にも尽力されており、米国財団法人野口医学研究所の評議員会会長も兼任され、数多くの日本人研究者および医学生を招いておられる。そのため佐藤ラボの歴代研究員には日本からの留学生が数多く、非常にアットホームなラボである。また、しっかり働いた後にはご褒美があり、野球観戦、バスケ観戦、日本食レストランなど色々な所に連れて行ってもらえる。野球が大好きな私は足繁く球場に通った(最高4日連続、しかも4連敗)が、それよりも印象に残ったのは本場のNBAだった。あの雰囲気、熱狂さ、ゲーム展開の速さは日本では味わえないものだと思う。ちなみに、フィラデルフィアを本拠地とするチームは数多くあり、私が留学していた時期は、野球(フィリーズ)、バスケ(76ers)、アメリカンフットボール(イーグルス)、サッカー(ユニオンズ)が優勝決定戦まで残り、街中が非常に盛り上がっていた。幸い全てのチームが優勝を逃したが、優勝すると街中の飲食店のガラスが全て割られるほどみんなで喜びを表現するらしい。そこはやはりアメリカを感じる。大阪ではせいぜい道頓堀に飛び込むぐらいだが。

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 プライベートでもたくさんの財産を手に入れることができた。やはり交友関係である。フィラデルフィアには、ペンシルバニア大学やテンプル大学などたくさんの大学があるため、日本人留学生が数多く住んでいる。しかも、ご存じの方はいると思うが、フィラデルフィアはアメリカ随一の治安の悪い地域である。そのため、日本人留学生が住むことができる治安の良い地域は非常に限られており、そこに日本人のコミュニティーが出来上がる。そこで、医学研究留学だけでなく臨床留学、MBA(経営学修士)、ロースクール、企業での在留など様々な職種の方達と知り合うことができた。医学の世界だけで生きてきた私と違い、超一流企業の方達は皆さん、優秀なだけでなく、人柄がよく、非常に話が上手でしかも聞き上手であり、楽しい時間を共に過ごさせてもらった。もちろんその後にはたくさんのビールの空瓶が並んでいたのだが。

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私たち家族にとっても非常に刺激的なアメリカ生活で、たくさんのアメリカ文化に触れることができた。ニューヨークやワシントンD.C.などにも訪れたが、やはりナイアガラの滝やグランドキャニオンなどの大自然は日本では味わうことができない壮大なもので、非常に心を打たれた。また今では、家の中で娘たちだけで遊ぶ際には英語で会話をしているのにも慣れたが、渡米して半年の時は、幼稚園を卒業してすぐの娘に半年で英語力を抜かされたと分かり、妻と共に愕然としたと共に、娘たちの成長を喜んだのを覚えている。

今となってはいい思い出ばかり蘇るが、もちろん生活している上で苦労したことはたくさんあるが、そのエピソードはまたの機会に。。。

 

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最後に、この留学が今後の私の人生、外科医人生にとって財産となるよう研鑽を続けていきたいと思う。後輩にもこの素晴らしい経験を全力で伝え、また留学希望のある方には全力で応援したいと思う。

そして、コロナ禍の大変な時期に留学を許していただいた肝胆膵外科・消化器外科の先生方、そして応援して頂いた先生方には感謝しかありません。この場を借りて御礼を申し上げたいと思います。誠に有り難うございました。