膠原病内科学

基本情報

臓器器官病態内科学講座 膠原病内科学

代表者 橋本 求教授

【講座の領域】
膠原病・リウマチ内科学に関する診療・教育と基礎・臨床研究を行っている。

【臨床の動向】
<講座の由来>
大阪公立大学ではこれまで、膠原病内科で全身性エリテマトーデス(SLE)などの膠原病を、内分泌・骨・リウマチ内科で関節リウマチなどのリウマチ性疾患を主として診療してきました。しかし、これらは共通して免疫系の異常で起きる全身疾患(全身性自己免疫疾患)であり、骨や関節、皮膚、筋肉などの結合織に異常のおきる疾患(膠原病・リウマチ性疾患)であることから、膠原病・リウマチ性疾患を一つの疾患概念として対応することが世界的な潮流となっています。そこで、本学でも2021年4月よりこれら疾患を診療する部門を統合して新たに膠原病・リウマチ内科を新設し、一つの独立した診療科として診ることになりました。膠原病・リウマチ性疾患の単科講座は、関西では京都大学、和歌山県立医科大学に次いで、本学は3番目の施設になります。

<領域の特徴>
膠原病・リウマチ性疾患の症状は全身性に多岐に渡るため、様々な専門診療科が集う大学病院の特性を生かし、他科との連携を密に取りながら診断・治療を行っています。例えば、関節リウマチや脊椎関節炎では整形外科や皮膚科、SLEや血管炎では腎臓内科や神経内科、多発性筋炎/皮膚筋炎や強皮症では呼吸器内科や皮膚科、ベーチェット病では眼科、皮膚科や消化器内科、シェーグレン症候群では耳鼻科や眼科など、様々な診療科と協力しながら診療にあたっています。

<近年の動向>
膠原病の治療薬は、この10数年で大きく進歩してきました。従来は、痛みをとるためのNSAIDsや炎症を抑えるためのステロイド剤が治療の中心でしたが、近年は様々な分子標的薬や免疫抑制薬・免疫調整薬が開発され、治療選択肢は大幅に増えています。
関節リウマチにおいては、TNF阻害薬、IL-6レセプター阻害薬、T細胞補助刺激分子阻害薬などの生物学的製剤や、細胞内サイトカインシグナルを遮断するJAK阻害薬などの分子標的薬の導入により、多くの患者さんが臨床的寛解を達成できるようになりました。SLEなどの膠原病においても、B細胞やその活性化分子を標的とする生物学的製剤や、カルシニューリン阻害薬や代謝拮抗薬などの免疫抑制剤の組み合わせにより、よりよい治療成績が出せるようになってきました。しかし、どのような病態にどの薬剤が最もよく効くかはまだ十分には分かっておらず、種々の治療に抵抗性を示す病態も存在しており、まだまだ解決しなければならない課題が残っています。
私たちの教室では、患者データをデータベース化することで、これらの課題の解決を目指しています。多くの患者さんの実臨床における経時的データを集めて解析することで、それぞれの薬剤が最も奏功する患者の臨床的特徴などを明らかにすることができます。そのため当科では他施設との連携を重視しており、積極的に共同研究を行っています。また、臨床データに紐づけられた臨床サンプル(バイオバンク)を解析することで、治療抵抗性の患者で働いている分子シグナルを明らかにし、新たな治療標的の発見につながります。このようにデータベースを基軸として、臨床から基礎へ、基礎から臨床へトランスレーションを行うことによって、膠原病診療の向上を目指しています。
膠原病領域では、現在も様々な治療薬が開発されており、今後も続々と上市が予定されています。それらの薬剤を使いこなすためには、膠原病の病態とそれぞれの薬剤が作用するメカニズムを十分に理解し、その副作用についても習熟し使いこなすことができるリウマチ専門医の育成が急務となっています。当科では、これらの分子標的薬を用いた診療を積極的に行いながら、これらの治療薬を使いこなすことができる専門医の育成にも努めています。

<私たちの使命>

  1. 他の様々な診療科と連携しリウマチ膠原病に関する集学的な治療体制を確立すること。
  2. リウマチ膠原病学に関する臨床・基礎研究を行い、エビデンスを世界に発信すること。
  3. 膠原病に関する幅広い診療知識を持ったリウマチ専門医を養成すること。
  4. 研究を通して科学的思考のできる内科医(physician’s scientist)を養成すること。

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場所
学舎 13階
連絡先
TEL:06-6645-3981・3982

 

教育方針

学部教育

膠原病の病態に特徴的な症状や所見を理解するだけでなく、その背景にある免疫システムの異常や炎症遷延のメカニズムを理解するために、基礎免疫学から膠原病臨床へのつながりを理解することに重点をおいた講義を行います。臨床実習においては、全身の様々な症状から所見をとり診断に至る過程について学びます。この過程を通して、様々な臓器症状を横断的に診る力をもった総合内科医・リウマチ専門医を養成することを目標としています。

 

臨床教育(研修医の育成)

  • 研修医・後期研修医:多彩な膠原病症例について、入院診療を中心に臨床教育を行います。入院患者の診察や外来新患患者の予診をカンファレンスで発表し、上級医のフィードバックを受けることを通して、膠原病診療に必要な系統的な問診の仕方と身体所見の取り方を身につけます。また、生物学的製剤や分子標的薬など様々な抗リウマチ薬を用いた治療を経験し、その副作用に対する対応について学びます。興味深い症例があれば積極的に学会で発表をしていただきます。
  • 医員:膠原病の専門医として、入院および外来患者の診療にあたります。一人一人の膠原病患者さんの診療に長くかかわり、様々な抗リウマチ薬を使いこなし、希少疾患や難治性病態も経験することで、膠原病診療を深く理解していきます。当科や多施設の臨床データを用いて臨床研究を行い、国内・国外の学会で発表する機会があります。

大学院教育

膠原病学や免疫学に関する臨床研究や基礎研究を行い、学位取得を目指します。臨床研究について、当科は多施設共同のコホート研究を積極的に行っており、他大学の研究者と交流し切磋琢磨しながら臨床研究を行う機会があります。基礎研究について、動物モデルやヒト臨床研究を用いた基礎研究を行っています。大阪公立大学内外の基礎研究室との連携も積極的に行っています。大学院を修了した後は、海外の大学へ留学する機会もあります。

研究について

概要

当科では、膠原病・免疫学に関する臨床研究と基礎研究のどちらも重視しています。臨床研究を自らデザインし、解析・論文執筆するという経験をとおして、様々な論文を読んだ時にその妥当性や限界を正しく理解できるようになります。また、基礎研究を行うことで、膠原病の病態の裏にある免疫システムの異常を深く理解し、病態メカニズムを考えて治療することができるようになります。このように研究を行うことは診療能力を高めることにもつながります。臨床研究では多施設の連携を重視しており、他大学の研究者と交流・切磋琢磨しながら研究を行う機会があります。基礎研究については、動物モデルやヒト臨床サンプルを活用し、膠原病の病態解明につながる新規の知見を目指して研究を行っています。

教室を代表する業績

  1. Hashimoto M, et al. Arthritis Res Ther. 2019
  2. Torii M. Hashimoto M. et al. Mod Rheumatol. 2019
  3. Matsuo T, Hashimoto M, et al. J Immunol 2019
  4. Hirota K, Hashimoto M, et al. Immunity 2018
  5. Ito Y, Hashimoto M, et al. Science 2015
  6. Tono N, Yamada S. et al. Sci Rep. 2019
  7. Yamada S. et al. Clin Calcium. 2019
  8. Watanabe R, et al. Front Immunol. 2020
  9. Watanabe R, et al. J Clin Invest. 2017

 

主な研究内容

現在の主な研究テーマ

リアルワールドデータを活用した膠原病の臨床研究

関節リウマチやSLE、血管炎などについて多施設共同コホート研究を展開しています。関節リウマチでは、約1万人の関節リウマチ患者の延べ15万件におよぶ疾患活動性データを擁するANSWERコホートという関西多施設コホートを主宰しており、他大学の先生と交流し切磋琢磨しながら研究を行う機会があります。SLEや血管炎についても多施設共同研究をすすめており、厚生省研究班などにも参加しシステマチックレビューなども行っています。

動物モデルを用いた膠原病の病態解明

T細胞シグナル伝達にかかわる遺伝子の点突然変異の結果自己免疫疾患を自然発症するモデルマウスを用いて膠原病の病態解明を行っています。このマウスは遺伝因子や環境因子に応じて異なる膠原病を発症します。BALB/c背景下では関節リウマチや脊椎関節炎に酷似した関節炎を、C57BL/6背景ではSLEを発症します。また、微生物学的にクリーンな環境では膠原病を発症しないため、環境因子の影響も受けています。環境因子の中でも特に腸内細菌叢の重要性を見出し、研究をすすめています。

ヒトリンパ球を用いた膠原病の病態解明

当科は、ヒトPBMCを用いた解析により、血管炎、特に巨細胞性動脈炎(GCA)や高安動脈炎の病態解明をすすめています。GCA患者の単球由来樹状細胞は、健常人由来樹状細胞に比べ、免疫抑制性のPD-L1発現が低下しており、T細胞の活性化能が高く、それがGCAの病態に深く関与していることを明らかにしました。今後も、ヒトPBMCと貴重な組織検体を組み合わせて、細胞内代謝など、シングルセルレベルの研究を行っていきたいと考えています。

骨粗鬆症やサルコペニアに関する研究

膠原病患者がしばしば合併する骨粗鬆症やサルコペニアの病態解明を行っています。これまで、骨粗鬆症やサルコペニアに関する臨床データを取得し、疾患背景などとの関係を明らかにしてきましたが、今後はそれらの臨床データに紐づいた生体サンプルを用いて、骨粗鬆症やサルコペニアの発生メカニズムについての研究を進めていきます。

スタッフ

教授 橋本 求
准教授 山田 真介
講師 渡部 龍、福本 一夫
病院講師 勝島 將夫、藤澤 雄平
前期研究医 富樫 救、矢野 雄也
大学院生 石原 龍平

参考写真

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