肝胆膵病態内科学
基本情報
臓器器官病態内科学講座 肝胆膵病態内科学
代表者 河田 則文教授
肝胆膵病態内科学講座は、医学部の大学院医学研究科の再編に伴い2001年に内科学第3講座を母体として新設され、2007年1月より河田則文教授のもと再スタートをきりました。旧内科学第3講座は昭和43年(1968年)に山本祐夫先生が創設されてその名を日本中に轟かせた肝臓病学のメッカとなり、以降も本講座は国内外に対する肝臓病研究の拠点として、情報発信と質の高い臨床医・研究者のインキュベーターとなっています。
肝胆膵病態内科学講座(診療科としては肝胆膵内科)は主として肝臓病や膵臓病に関して実に広範な仕事をしています。第3内科開講当時は抗結核薬で生じる薬物アレルギー性肝炎のメカニズムの解明がメインテーマでした。その後、劇症肝炎や輸血後肝炎の臨床と研究、B型やC型肝炎に対するインターフェロン療法の推進、インターフェロンや漢方薬による肝発癌抑制など世界に誇る多数の輝かしい業績をあげてきました。現在は肝疾患診療連携拠点病院としての活動を行ないつつ、最新の治療薬を用いた慢性肝疾患の治療(C型肝炎に対する直接作動型抗ウイルス剤での治療、B型肝炎に対する核酸アナログ治療など)、超音波誘導下あるいは腹腔鏡を用いた肝がん治療、脂肪性肝炎の診断、病態解析と治療、門脈圧亢進症の診断と治療、肝胆膵領域のがん化学療法などに取り組んでいます。基礎研究においても世界レベルの業績を継続して出版しており、常時JSPSやAMEDなど国からの研究支援を受けています。また、肝がん治療に対する肝動脈塞栓術を開発された放射線科、肝がん切除術数日本有数を誇る肝胆膵外科、さらには公衆衛生学教室、解剖学教室、病態生理学教室、医化学など学内の臨床系・基礎系大学院講座とも密に連携しており、肝疾患患者数が非常に多いという大阪市の地域特殊性に柔軟に対応しつつ、肝胆膵領域を学問的に発展させています。
- 場所
- 学舎 17階
- 連絡先
- TEL:06-6645-3897 MAIL:gr-med-shoukaki-lbp@omu.ac.jp
教育方針
学部教育
- 肝臓病学、消化器病学、内科学の基本的な知識を持つことを前提に、肝臓、胆嚢、膵臓の機能的役割と解剖学的特徴、疾患の病態と病理学的理解に基づく肝胆膵ならびに関連臓器疾患の診断と治療を実践的に学んでいただきます。
- 肝臓は沈黙の臓器と言われるように、自覚症状の出にくい病気が多いため、患者さんの様々な訴えから疾患を見抜き、十分なエビデンスを確保しながら診断を確定していくという総合医学的なスキルも身に付けていただけるよう指導していきます。
臨床教育(研修医の育成)
当講座には、日本内科学会、日本消化器病学会、日本肝臓学会、日本内視鏡学会、日本超音波学会などの認定医、専門医、指導医が豊富に在籍しており、認定医、専門医を目指す研修医の皆様の症例報告や学会発表を指導・支援しています。附属病院の他、大阪市立総合医療センター、十三市民病院、市立柏原病院、和泉市立病院など多数の関連施設との連携体制を整えることで、多種多様な症例経験を積むことができるようになっています。
研究指導
- 研究を志す方は、大学院に進学して医学博士号の取得を目差していただきます。当教室は基礎研究部門や寄附講座を併設しておりますし、基礎系教室にもご協力いただいて、基礎的あるいは臨床的な研究を支援し、学会発表や論文執筆を指導いたします。
- さらに、海外への留学を希望される場合は、ロンドン大学(UCL, 英国)、エール大学(ニューヘイブン)、マウントサイナイ病院(ニューヨーク)、南カリフォルニア大学(USC、ロサンジェルス)、カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD、サンディエゴ)、フローレンス大学(イタリア)などの施設を紹介させていただくことも可能です。
研究について
概要
- 当科のモットーは臨床上の疑問点を基礎研究で解決する、基礎研究成果を臨床応用するという基礎と臨床の双方向性研究です。
- 臨床研究では、C型慢性肝炎やB型慢性肝炎に対する治療応答や薬剤耐性に関係するウイルスの遺伝子の変異を調べそのメカニズムを解明すること、線維化や発がんに寄与するウイルス遺伝子、宿主遺伝子の解析を行なっています。また膵癌の前癌状態である膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)の新規診断バイオマーカーの作製を行っています。
- 基礎研究では、肝臓の線維化に関与する星細胞の解析を行い、特に、当科で発見したサイトグロビンという物質が線維化に与える影響を研究しています。またnon-coding RNAの中のマイクロRNAに注目し肝線維化や発癌との関係を明らかにして遺伝子治療の開発準備をしています。B型肝炎ウイルスのウイルスタンパク構造解析をもとに、ウイルスの複製を抑制するための新規抗ウイルス薬の開発を行っています。また、産学医工連携プロジェクトにて、臓器内脂肪量を測定するための超音波機器開発も行っています。
教室を代表する業績
過去10年間に出版された論文のうち、引用回数が多く、医学の発展に影響を与えた論文(オリジナルアーティクル)を紹介します。
なお今回は、Scopusでcitation indexを検索しました。
- Fuji H et al.HOMA-IR:An independent predictor of advanced liver fibrosis in nondiabetic non-alcoholic fatty liver disease. Journal of Gastroenterology and Hepatology (Australia).2019;34,1390-1395(Cl 67回)
- Motoyama H. Cytoglobin is expressed in hepatic stellate cells,but not in myofibroblasts,in normal and fibrotic human liver. Laboratory Investigation. 2014:94;192-207(Cl 52回)
- Thuy L et al. Cytoglobin deficiency promotes liver cancer development from hepatosteatosis through activation of the oxidative stress pathway. American journal of Pathology. 2015; 185;1045-1060(Cl 46回)
- Thuy L et al. Absence of cytoglobin promotes multiple organ abnormalities in aged mice. Scientific Reports. 2016: 6;24990(Cl 37回)
- Fujii H.Clinical Outcomes in Biopsy-Proven Nonalcoholic Fatty Liver Disease Patients:A Multicenter Registry-besed Cohort Study. Clinical Gastroenterology and Hepatology.2023;21,370-379(Cl 30回)
- Tamori A et al.Low incidence of hepatitis B virus reactivation and subsequent hepatitis in patients with chronic hepatitis C receiving direct-acting antiviral therapy. Journal of viral Hepatitis.2018;25(5),608-611(Cl 24回)
主な研究内容
現在の主な研究テーマ
肝線維化研究
肝炎等の肝障害発症により星細胞が活性化されるとコラーゲン線維が合成される。慢性化すると肝臓が線維化し、さらには肝硬変、肝細胞癌へと進行する。当教室では2001年に星細胞から哺乳類第4番目のグロビンとしてサイトグロビンを同定し、本分子の機能解析を精力的に行なっている。その研究成果を基に肝線維化の分子機構を明らかにし、肝線維化病態を制御する因子や遺伝子を同定し、新規治療方法の開発を目標とする(特許出願中)。
C型肝炎ウイルス治療とウイルス排除後の長期予後に及ぼす因子の解析
直接作用型抗ウイルス薬の開発によりC型肝炎ウイルス(HCV)に対する治療は、大きく進歩した。しかしながら多剤耐性HCVの出現など現在の薬剤ではHCVを排除できない場合もある。またHCV排除後にも肝癌を発症する等、肝疾患の進行する場合もある。これら病態解明のためウイルス側と宿主側の背景を解析し、新たな治療法の開発を目指している。
B型肝炎治療についての臨床研究
現在、B型肝炎の治療にはインターフェロンまたは核酸アナログが用いられている。前者では治療期間が限定できるが奏効率は低く、後者では治療効果は確実であるが長期の治療を要する上、治療中にも一定の頻度で肝発がんがみられる。そこで奏効率の向上を目指した併用療法など適切なプロトコールの開発を試みる、あるいは治療中の発がん症例のウイルス学的・臨床的特徴を明らかにするなどの研究を行っている。
B型肝炎に対する直接型抗ウイルス剤の開発
現在使用されている抗HBV薬は副作用が少ないが感染の制御に長期投与が必要である。また核内に存在するウイルスの中間複製体の排除ができないため、ウイルスの完全排除は困難である。ウイルス産生タンパクを阻害する既存の低分子化合物をin silico screeningにて探索し、in vitro, in vivo実験にて効果を明らかにし、ウイルスの完全排除を目指した新規抗ウイルス剤を開発する。(図は、HBVのcapsid蛋白二量体と結合し蛋白機能を阻害する候補化合物)
体液中マイクロRNA測定による癌の早期診断方法の開発
国立がん研究センターを中心に全国8大学、国立長寿医療研究センター、東レ、東芝、バイオチップコンソーシアムと協同して、血中のマイクロRNAを使った世界最先端の早期発見・早期治療が可能な医療を実現するため、胃がん、大腸がん、食道がん、膵臓がん、肝がん、胆道がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、膀胱がん、神経膠腫、肉腫等のがんおよびアルツハイマー病等の認知症患者等の早期発見マーカーの探索、および実用化を実施する。大阪市大は膵癌と肝癌を担当している。(図は、血中のマイクロRNAによるがん診断の模式図)
臨床への取り組み
- 新規抗HBV薬と肝線維化を制御するマイクロRNAについて特許を取得し、開発協力企業を探索中。
- 新たな画像診断技術の開発:大阪府大工学部、企業と産学医工連携プロジェクトにて、臓器内脂肪量を測定するための超音波機器開発を行っている。JST先端プログラムや財団の支援を得て、複数の特許取得に成功している。我々の機器開発の特徴は、温度変化によって起こる超音波速度や蛍光強度の変化を捉えることを基礎としており、これまでにはない新たな診断機器開発である。最近では、脂肪量だけではなく、腫瘍精査目的の機器開発も行っている。
スタッフ
教授 | 河田 則文 |
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病院教授 | 榎本 大 |
准教授 | 打田 佐和子 |
講師 |
萩原 淳司、藤井 英樹、 川村 悦史、小塚 立蔵 |
病院講師 |
元山 宏行、小谷 晃平、 小田桐 直志、武藤 芳美 |
参考写真