臨床感染制御学
基本情報
医療管理医学講座 臨床感染制御学
代表者 掛屋 弘教授
当教室は2013年4月に長崎大学より掛屋 弘が着任し、新たに開講された講座です。附属病院においては感染制御部での活動を通じ病院スタッフへの教育や環境ラウンドを定期的に行うことで院内における「感染制御の文化」の育成を推進しています。各種耐性菌を含む微生物学的サーベイランスや臨床各科からの感染症コンサルテーションにより、適正な抗菌薬使用の支援を積極的に行っています。更に2015年より新たな診療科として当院附属病院に「感染症内科」を標榜致しました。臨床活動を通じて後進の指導、教育及び地域医療への貢献を行っています。
研究面においては耐性菌に関する臨床疫学的研究や深在性真菌症の新規検査法に関する研究、抗真菌薬併用療法に関する研究のほか、細菌学教室と連携し、各種細菌、真菌の分子・生物学的研究を行っています。また、薬剤部や臨床各科と共同で抗真菌薬の血中動態に関する研究を行っています。
長らく本学では感染症専門医が不在であったことから臨床感染症学に関する体系的な医学教育および臨床研修が十分ではない状況でした。当教室の開講により医学生や研修医に対する専門教育が可能となり、感染症科の専攻を希望する医学生や臨床研修医への指導体制が整って参りました。当教室から将来、感染症領域において臨床や研究の指導的役割を担う人材の輩出を目標に今後も更なる教育・研究・臨床活動に注力していく所存です。
- 場所
- 学舎 12階
- 連絡先
- TEL:06-6645-3784 MAIL:kakeya@med.osaka-cu.ac.jp
教育方針
学部教育
微生物学や薬理学及び内科学、外科学を含む広範囲な知識を基にして臨床感染症学の講義を行っています。主に呼吸器・消化器感染症、敗血症、重症感染症、日和見感染症を中心とし、感染症全般について診断や治療さらに感染制御の側面を含め講義を行っています。臨床実習では講義で身に付けた知識を種々の臓器感染症症例に実践・活用できるよう指導を行っています。また、細菌学教室や小児科学教室の先生方とともに、医学部生有志に対する感染症勉強会(ILOHA)を毎週開催しています。(写真は学生への勉強会)
臨床教育(研修医の育成)
当教室では日本内科学会、日本感染症学会、日本呼吸器学会、日本化学療法学会、日本医真菌学会などの認定医、専門医、指導医が在籍しており、専門医を目指す研修医の皆様の症例報告や学会発表、論文作成の指導・支援をしています。特に感染症専門医を目指す方にとっては一般の市中病院では経験できない多種多様な感染症症例を経験することが可能です。内科診察を基本とし、臨床微生物学や臨床薬理学の知識を応用した感染症診療のロジックを学んで頂くよう指導致します。また、研修医有志に対する感染症勉強会「研修医のための感染症予備校」を定期的に開催しています。(写真は研修医への勉強会)
研究指導
感染症研究を志す方は、大学院へ進学して医学博士号の取得を目指して頂くことが可能です。当教室のみならず、細菌学教室の先生方にも御協力頂いて皆様の基礎的あるいは臨床的な研究を支援し、学会発表や論文執筆を指導致します。
研究について
当教室では臨床研究及び基礎研究を行っています。臨床研究では、院内耐性菌の伝播に関する臨床疫学的研究のほか、抗真菌薬の血中動態パラメータに関する研究、抗真菌薬の併用療法に関する研究、及び感染制御についての研究を行っています。基礎研究では、細菌学教室と連携し、難治性感染症の一つである侵襲性真菌症の中でも更に診断・治療が困難とされているムーコル症の早期診断に関する基礎研究や耐性菌に関する遺伝学的な研究、難治性感染症のモデル作成と新規治療法の開発を行っています。
教室を代表する業績
- 1) 深在性真菌症の診断・治療ガイドライン作成委員会編. 深在性真菌症の診断・治療ガイドライン 2014
- 2) Kohno S, Kakeya H, Izumikawa, Miyazaki T, Yamamoto Y, Yanagihara K, Mitsutake K, Miyazaki Y, Maesaki S, Yasuoka A, Tashiro T, Mine M, Uetani M, Ashizawa K.
Clinical feature of pulmonary cryptococcosis in non-HIV patients in Japan. J Infect Chemother 21:23-30, 2015 - 3) Kakeya H, Seki M, Izumikawa K, Kosai K, Morinaga Y, Kurihara S, Nakamura S, Imamura Y, Miyazaki T, Tsukamoto M, Yanagihara K, Tashiro T, Kohno S.
Efficacy of combination with oseltamivir phosphate and azithromycin for influenza: a multicenter, open-label, randomized study.PLoS One. 2014; 9:e91293. - 4) Yamada K, Yanagihara K, Kaku N, Harada Y, Migiyama Y, Nagaoka K, Morinaga Y, Nakamura S, Imamura Y, Miyazaki T, Izumikawa K, Kakeya H, Hasegawa H, Mikamo H, Kohno S.
Azithromycin attenuates lung inflammation in a mouse model of ventilator-associated pneumonia by multidrug-resistant Acinetobacter baumannii. Antimicrob Agents Chemother. 57:3883-3888, 2013 など
主な研究内容
現在の主な研究テーマ
ムーコル症の早期診断に関する基礎研究
ムーコル症は稀な深在性真菌症ですが、血液疾患患者の剖検例ではアスペルギルス症、カンジダ症に次ぐ第3位で、近年その患者数の増加が注目されています。ムーコル症に特異的な血清診断は現在、実用化していないため、感度・特異度の高い検査法の開発が期待されています。我々は国立感染症研究所との共同研究で、本真菌症の診断ツールに期待される膜蛋白質および分泌蛋白質を網羅的に同定した後に新規抗原を選定して、早期診断法の確立を目的に研究開発を試みています。
高粘稠性クレブシエラ感染症の新規治療法の開発
高粘稠性クレブシエラ感染症は播種性病変を来しやすく、適切な抗菌薬を使用しても治療に難渋する感染症です。これまでこの感染症に関する病原因子や治療に関しては不明な点が多い。そこで、我々は病原因子の解析と新規治療法の開発を目的として、クレブシエラの播種性マウスモデルを作成したのち、クレブシエラに抗菌作用はないが、免疫調整作用を有するマクロライド系抗菌薬の有効性とその作用機序を解明する研究を行っています。さらに他の抗菌薬との併用の有効性も評価も計画しています。
耐性菌感染症の疫学解析
現在、MRSAをはじめ、多剤耐性緑膿菌、カルバペネム耐性腸内細菌科細菌など多くの薬剤耐性菌が問題となっています。その一方で新規抗菌薬の開発は進んでいない現状においては、耐性菌を生み出すことなく、感染症の治療を行っていくことが重要となります。そのためには各種耐性菌の現状と臨床的な特徴を把握する必要があります。我々は、当院における各種耐性菌による感染症症例の臨床的特徴や治療内容、予後に加えて、遺伝子学的解析を実施しています。本研究により各種耐性菌のリスク因子や予後因子、さらに地域流行株等を明らかにすることは、今後の各種感染症の治療方針の決定や効率的な感染制御に貢献することが期待されます。
臨床への取り組み
臨床面においては感染症内科として外来及び入院診療を積極的に展開しつつ、臨床各科からのコンサルテーション症例への対応へも力を入れています。また、地域医療への貢献として他院で難渋している感染症症例や感染制御に対しも対応しています。また、感染症勉強会などを通して他施設の研修医を含む若手医師に対して、感染症教育の場を提供することで地域の感染症診療のレベルアップに貢献しています。
感染症コンサルテーション風景
スタッフ
教授 | 掛屋 弘 |
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准教授 | (不在) |
講師 | 山田 康一 |
病院講師 | 𠮷井 直子 |