総合医学教育学
基本情報
医療管理医学講座 総合医学教育学
代表者 首藤 太一教授
『総合診療』は、本邦では1976年にはじめて標榜されるようになった新しい診療科です。
大阪公立大学医学部附属病院『総合診療科』は、1993年5月に新病院の開設と共に『総合診療部』として発足しました。
2002年4月には各専門診療科より5人の専任教員が赴任し、『総合診療科』として独立しました。
2004年には、大学院医学研究科に、『卒後医学教育学』が新規の講座として設置され、総合診療部門と合併されました。その結果、正式な講座・診療部門が完成し、廣橋一裕教授が初代教授として就任しました。以降、外来患者に対する総合診療とプライマリケアの実践が本格化し、同時に、これらを補完する目的で、女性診療、漢方外来、頭痛外来ならびに禁煙外来といった特殊な外来診療を兼ね備えた『総合診療センター』として、運営されるようになりました。
2007年には、文部科学省「地域医療等社会的ニーズに対応した医療人教育支援プログラム」からの助成支援を受け、廣橋一裕教授、首藤太一准教授により、スキルスシミュレーションセンター(SSC)が、シミュレーション教育の充実を目指して開設されました。SSCの運営は当教室が中心となって担っています。SSCでの医療教育は、医・看護学生のみならず、研修医を含めた医師、看護師、病院職員、さらには一般市民にもおこなわれています。利用者数は、2006年SSC開設当初は190名で始まりましたが、20年弱が経過し、年間15000人、のべ10万人を超える施設となりました。
2013年には、卒後のみならず卒前・生涯もふくめた医学教育の連携に伴い、大学院医学研究科『総合医学教育学講座』と教室名をこの年改名しました。診療部門『総合診療センター』では入院患者の受入れを開始し、ともに新たに出発しました。
2014年には、首藤太一教授が、第2代総合医学教育学教室教授、総合診療センター長として就任しました。2021年より、「総合診療科」に改名し、新たに出発しています。
『病ではなく人を診る』をコンセプトとして、
(1)総合診療
(2)卒前・卒後・生涯医師教育と多職種間連携医療教育を併せた総合医学教育の両輪で、医療・医学に貢献できる人材を輩出していきたいと考えています。
- 場所
- 学舎 9階
- 連絡先
- TEL:06-6645-3797 MAIL:gr-med-soshin@omu.ac.jp
教育方針
学部教育
当教室では、医学部の各学年において、医学序論、コミュニケーション論、総合診療医学といった講義を担当しています。臨床実習前のシミュレーション教育においては、屋根瓦式教育による「Teaching is Learning」をモットーに、採血実習、医療面接実習、バイタルサイン実習といった実践的な教育を学年横断的に提供しています。臨床実習では、外来初診患者の医療面接や身体診察から診断に至る過程を通して、全人的医療を体験してもらっています。英語カンファレンスや内視鏡トレーニングに加え、プレゼンテーション力や医師としてのプロフェッショナリズムの指導もしています。また、複数の学年に対する多職種連携教育の実習では、複雑な事例について学生同士でグループディスカッションを行い、発表の際はファシリテーターとして活発な議論を促しています。
臨床実習全般と臨床実習前のシミュレーション教育ではマネジメント業務も担い、円滑な教育活動に寄与しています。さらに、医学教育分野別認証評価に対応すべく、医学部全体のカリキュラムのマネジメントも行っています。
臨床教育(研修医の育成)
総合診療医は「扱う問題の広さと多様性」が特徴であり、地域を診る視点も大切です。初期臨床研修では、「初診患者さんを多く診る」を基本的なコンセプトにして、カリキュラムを作成しています。大阪公立大学医学部附属病院の外来と病棟だけでなく、地域の病院では二次救急外来を、診療所では訪問診療も経験させていただいております。
教育・研修体制を充実させるため、毎週水曜日の定期weeklyカンファレンスと抄読会に加え、初期臨床研修医が主体になった3ヵ月ごとの多施設合同カンファレンスを開催しています。
2018年度から開始された新たな専門医制度においては、総合診療専門医が基本領域の専門医となりました。後期(専門医)研修では、大阪公立大学医学部附属病院での入院・外来診療を中心に、地域での病院や診療所研修(訪問診療を含む)もカリキュラムに取り入れています。
また、大阪公立大学の内科専門医プログラムでの後期研修も可能です。内科医として幅広く研修できる体制が整っており、選択肢の幅が拡がっています。
初期・後期ともに、研修医の結婚・出産に伴う勤務形態の変化に対して各々の事情に合わせて柔軟に対応し、成長の機会を提供しています。
研究指導
当教室の大学院生に対して、定期的なミーティングだけでなく臨時の打合せを行い、懇切丁寧に指導しています。当院総合診療科の禁煙外来では、多くの患者様の禁煙に関わるだけでなく、血管機能改善によって患者様に還元できるような研究を続けています。また、本学では前例に乏しい医学教育に関する研究においては、国外の知見を有する他大学とも連携し、特に模擬患者が参加する教育活動の研究に尽力しています。その他、外来症例の疫学研究や、嚥下機能については関連施設と協働して研究を進めています。
研究について
- 当科では、総合診療、プライマリケアに関する臨床研究と医学教育に関わる研究を行っています。
- 医学教育の分野では、シミュレーション教育、模擬患者参加型授業、コミュニケーション能力、臨床実習後OSCE、mini CEX、卒後臨床研修におけるプライマリ・ケア教育プログラムに関する研究を行っています。大阪市内唯一の大学病院であり、卒前・卒後の臨床研修における各医療機関と連携強化を図っております。
- 総合診療の分野では、総合診療科受診患者の臨床疫学的研究、喫煙や睡眠時無呼吸症候群の生体に及ぼす影響、喫煙者の血管内皮機能、インフルエンザ治療実態調査、難治性感染症、摂食嚥下機能低下、転倒に関する研究を行っています。
教室を代表する業績
- Antimicrobial resistance in hypermucoviscous and non-hypermucoviscous Klebsiella pneumoniae: a systematic review and meta-analysis. Emerg Microbes Infect. (Namikawa H et al. 2025)
- Prescription trends and effectiveness of anti-influenza drugs in Osaka, Japan, during the 2022–2023 and 2023–2024 influenza seasons. J Hosp Gen Med. (Okuyama N et al. 2025)
- Effects of smoking cessation on endothelial function as assessed by flow-mediated total dilation. Cardiovasc Ultrasound. (Okuyama N et al. 2024)
- Development and validation of a prediction model for falls among older people using community-based data. Osteoporos Int. (Toyoda H et al. 2024)
- Mental health complaints among healthcare workers engaged in the care of COVID-19 patients: A prospective cohort study from Japan. J Gen Fam Med. (Namikawa H et al. 2023)
- Differences in severity of bacteraemia caused by hypermucoviscous and non-hypermucoviscous Klebsiella pneumoniae. Int J Antimicrob Agents. (Namikawa H et al. 2023)
- Associations between physical function, falls, and the fear of falling among older adults participating in a community-based physical exercise program: A longitudinal multilevel modeling study. Arch Gerontol Geriatr. (Toyoda H et al. 2022)
- Predictors of the effects of smoking cessation on the endothelial function of conduit and digital vessels. Hypertens Res. (Fukumoto K et al. 2021)
- Physical health complaints among healthcare workers engaged in the care of critically ill COVID-19 patients: A single tertiary-care center prospective study from Japan. J Infect Public Health. (Namikwa H et al. 2021)
- Predictors of endothelial function improvement in patients with mild hypertriglyceridemia without evidence of coronary artery disease treated with eicosapentaenoic acid. Atherosclerosis. (Fukumoto K et al. 2020)
- Effect of four neuraminidase inhibitors on influenza in Osaka, Japan: An eight‐year survey. J Gen Fam Med. (Tochino Y et al. 2020)
- Concurrences and differences between faculty staff and standardized patients in the assessment of medical students in the post-clinical clerkship objective structured clinical examination. Osaka City Medical Journal. (Makuuchi A et al. 2018)
受賞
1) 栩野吉弘 2022年度Teacher of the year 大阪公立大学(2023)
2) 並川浩己 日本感染症医薬品協会奨励賞(2018)
3) 並川浩己 第12回日本化学療法学会西日本支部支部長賞 基礎部門(2017)
主な研究内容
現在の主な研究テーマ
模擬患者参加型授業が医学生のコミュニケーション能力に与える影響についての検討
現在、本学医学部では、医学科2年生と4年生における医療面接の授業で模擬患者と接する機会があり、同じ担当教員により、各学年の実力に即して授業が行われております。このような背景のもと、医学生のコミュニケーション能力が効果的に向上する授業内容構築の一助とするため、医学部の授業に模擬患者が参加することの影響について省察的検討を2014年度から継続的に行っております。
本研究において、医学界で従来行われてきた量的研究の枠に捕われず、質的研究の手法を用いて模擬患者参加型授業の教育効果を検討することにより、より良い授業内容を展開し医学生のコミュニケーション能力の向上が期待できるだけでなく、本邦における授業の水準を高める一助となることも期待されます。
Post-CC OSCEにおける省察的検討
本学では、2015年度に初めて、6年生を対象としたPost Clinical Clerkship Objective Structured Clinical Examination(以下Post-CC OSCE)を実施し、今回は実務担当者らで相談した内容で評価を行いました。Post-CC OSCEは、知識だけでなく技能や態度を評価できる試験となっており、全国的にもその重要性と必要性は更に高まっています。本学のPost-CC OSCEにおいて、今後、評価の内容や方法をより良いものにしていくため、省察的な研究を継続的に行っています。本研究により、本学だけでなく全国的にPost-CC OSCEの試験内容や評価方法の妥当性を高める一助となることが期待されます。
COVID19患者の従事者に対する身体的健康管
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者に対する医療従事者の職種や曝露の程度と、身体的症状との関連を検討します。
インフルエンザ治療実態調査
大阪府下の連携医療機関を対象にインフルエンザ治療実態調査を行っています。
大阪公立大学医学部附属病院総合診療科を受診した患者の特性を検討するためのコホート研究
外来初診患者を解析し、とくに多臓器に及ぶ問題点を有する症例やいずれの領域にも当てはまらない境界領域の症例の疫学的研究を進めます。
喫煙や睡眠時無呼吸症候群の生体に及ぼす影響
喫煙・禁煙や睡眠時無呼吸症候群が血管内皮機能を含む生体へ与える影響を測定し、評価を行っています。
摂食嚥下機能低下に関わるリスク因子に関するコホート研究
入院患者さんの接触嚥下機能低下に関わるリスク因子について調査を行っています。
身体機能と転倒リスクに関する後ろ向きコホート研究
転倒リスク患者を早期に発見できるツールの開発に取り組んでいます。
臨床への取り組み
総合診療科では、受診すべき診療科がわからない患者さんや診断がついていない患者さんに対応し、適切な専門診療を受けられるようガイド役としての役割を担っています。また不明熱や全身倦怠感などのコモンプロブレムをはじめとして、複数の愁訴を持つ患者さんの受診が多く、地域の病院や診療所の先生方と適切に協力・連携しながら診療を進めております。入院診療においては若干の制限がありますが、専門診療科が不明で入院を必要とする患者さんの治療ができるようになりました。総合診療科は、地域と大阪公立大病院の橋渡し役としての機能をもっております。
総合診療科では、患者さんの病状(症状)を傾聴し、十分な身体診察や各種検査で診断をつけ、治療を行います。専門的な診療や継続的な治療が必要な場合は、院内・院外を問わず適切と思われる医療機関をご紹介いたします。
スタッフ
教授 | 首藤 太一 |
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准教授 | 栩野 吉弘、豊田 宏光 |
講師 | 並川 浩己、福本 一夫、幕内 安弥子 |
病院講師 | 奥山 直木 |
大学院生 | 山内 健 |
参考写真



