脳神経内科学
基本情報
臓器器官病態内科学講座 脳神経内科学
代表者 伊藤 義彰教授
【講座の沿革】
平成5年4月に市立大学の新病院開設の際に大阪市立大学医学部老年内科学教室が創設されました。
・当時、市立大学病院には神経内科を専門に扱う診療科がなく、高齢化社会に不可欠な診療分野であったことから、骨代謝や認知症を扱う老年科と神経疾患を扱う神経内科とを合わせて老年内科学(老年科・神経内科)教室がスタートしました。
平成12年には大学院改編に伴って大学院医学研究科老年内科学に変更となりました。
平成19年、三木隆己先生が教授に就任。
平成26年4月に伊藤義彰が教授に就任しました。このとき骨代謝を扱う部門は閉鎖し、講座名を脳神経内科学に改めました。
令和4年からは大阪公立大学大学院医学系研究科脳神経内科学として現在に至っています。
【講座の特徴】
・本講座は、脳血管障害、認知症、パーキンソン病、遺伝性疾患、末梢神経疾患、筋疾患とオールラウンドに脳神経内科を取り扱います。
・死因の第4位である脳血管障害は、迅速・適切な治療により予後が大きく改善する疾患です。また適切な治療により再発予防が可能です。この脳血管障害は認知症と合わせると生活に介護が必要となる原因疾患の半分以上を占めます。当科では社会的に最もニーズの高いこれら2疾患の診療を中心にしながらも、地域の皆様に貢献できるよう幅広い神経疾患を対象に診療します。
【私たちの使命】
(臨床)大阪公立大学の名前にふさわしいような、地域の皆様に貢献できる脳神経内科医療を提供します。
(教育)次世代の脳神経内科医療を担う国際的な感覚を持った若い脳神経内科医の養成に力を入れます。
(研究)認知症、脳血管障害、変性疾患、筋・末梢神経疾患、炎症性疾患などの重点領域では基礎・臨床の研究にも積極的に取り組み、世界的な成果をあげることを目指します。
- 場所
- 学舎 12階
- 連絡先
- TEL:06-6645-3889 MAIL:gr-med-neuro@omu.ac.jp
教育方針
学部教育
- 脳神経内科の教育においては最も重視することは、病巣診断に基づいた脳神経内科学の習得です。
- 脳神経内科が他の内科と大きく異なる点は、神経学的診察を行い、病巣診断を行った上で鑑別診断を行う点にあります。そのためには、神経学的診察を高次脳機能、脳神経、運動、感覚、反射と系統的に正しく評価できる必要があります。そして得られた所見から病巣を診断するためには、機能的な神経解剖を熟知しておかなければなりません。画像診断や電気生理学的診断も重要ですが、神経学的所見を踏まえたうえでこれらの補助診断を行うようにしないと、大きな落とし穴にはまってしまいかねません。
- この考え方は、講義や臨床実習にも反映されています。教科書的な各論に多くの時間を割くよりも、実際の臨床実習を通じて病巣診断を身につける過程が重視されます。そのために学生には多くの患者を受け持ってもらい、それぞれの患者の問題を解決する能力を養うことに力を入れて教育します。
臨床教育(研修医の育成)
- 前期臨床研修では、まず医師としての心構え、患者への接し方、コメディカルとの対応など基本的な事項から教育します。そのためには、各研修医にはそれぞれ研修指導教官を割り当てます。また病歴聴取の方法や一般身体所見の取り方といった医師としての中心となる技能を確実に育成します。その上で、脳神経内科の領域についても基本的な事項を中心に教育します。
- 後期臨床研修では新内科専門医制度に沿った研修プログラムを施行します。この専門医制度では大阪公立大学附属病院を基幹病院とし、連携病院での研修と合わせて、全内科分野をローテートするプログラムです。脳神経内科はこの研修制度において症例を担当することが必須の内科分野です。脳神経内科が適切に診療できる内科医の育成に力を入れます。
- 後期研修と同時に連動研修では、サブスペシャルティとして神経内科専門医を育成します。脳神経内科全領域に高い専門性をもって研修できるよう神経救急はじめ、多彩な領域の神経疾患を研修できるよう配慮します。
研究指導
- 大学院大学として院生の指導にも力を入れています。大学院では、臨床および基礎の研究が行えるよう配慮します。
- 臨床では、重点領域である認知症、脳血管障害、変性疾患、筋・末梢神経疾患、炎症性疾患、自己免疫性疾患などでの研究が指導可能です。講座内には、こうした専門領域のスペシャリストをそろえ、専属で大学院生を教育することが可能です。
- 大学院では基礎医学の研究も選択できます。脳微小循環の研究、アテローム血栓症の基礎研究、認知症の基礎研究、頭痛・疼痛の発生機序と治療に関する基礎研究など幅広い分野での指導が可能です。生理学教室や他大学の基礎教室との交流も広く、大学院生として国内留学することも可能です。
- 学位取得後は、海外での留学も奨励しています。1から3年間アメリカ、ヨーロッパ、アジアへの留学を指導します。世界的な権威のもとでの研究により、帰国後の臨床、研究、後輩の指導がより充実したものとなります。
研究について
概要
- 講座の活動の中では、臨床・基礎の研究は診療、教育と並んで三本柱の一本と位置付けられています。このうち診療や教育は幅広く神経内科学の全ての分野を網羅すべきであるという方針に対して、研究だけは特定の疾患、病態を深く掘り下げていきます。
- また臨床講座の研究ですから、臨床への還元を主眼に置いた研究を目指します。臨床において重要なこと、診断の向上や治療に役立つこと、を中心的な研究のテーマとしています。
- 臨床では、重点領域である認知症、脳血管障害、パーキンソン病、末梢神経疾患、多発性硬化症などが現在研究の主たる課題となっています。これらの疾患領域は、患者の数も多く社会的に診療の需要が高いものとなっており、しかも治験薬を含め日進月歩で新たな治療法が開発されつつある領域です。大学病院として、専門性の高い領域で最先端の医療の導入を図っていくのは重要な使命のひとつと考えています。
- 基礎の分野でも、脳血管障害の病態として、脳微小循環障害の治療やアテローム血栓症の病態に応じた治療などの基礎研究をこれまで行ってきました。またPETによる認知症の基礎病態やそれに応じた治療法などが検討されてきました。
- 「研究なくして大学の存在意義なし」と考えます。
教室を代表する業績
- Takeda A, Minatani S, Itoh Y. et. al., J Affect Dis Rep 5 (2021) 100143
- Sakaguchi H, Hasegawa I, Itoh Y. et. al., Neurol Clin Neurosci 2021; 9(5): 369-75
- Okamoto K, Abe T, Itoh Y, et. al., J Stroke Cerebrovasc Dis. 2020; 29(6): 104788
- Takeuchi J, Kikukawa T, Itoh Y. et. al., Open Biomed Eng J. 2019; 13: 55-66
- Hatsuta H, Hasegawa M, Murayama S. et. al., Acta Neuropatholog Com 2019; 7(1): 49
- Aohara K,Minatani S,Itoh Y.et. al., Neurol Clinical Neurosci. 2019; 8(2), 61-7
- Katsumata M, Abe T, Itoh Y. Keio J Med. 68(3): 45-53, 2019
- Takeda A, Miller BL, Perry DC. et. al., Alzheimer Dis Assoc Disord. 2019; 33(3): 260-265
- Hasegawa I, Takeda A, Itoh Y. Neuropathology. 2018; 38, 372-379
- Kikukawa T, Abe T, Itoh Y. Neurol Sci. 2018 39:1597–1602
- Kikukawa T, Saito H, Itoh Y. J Alz Dis Parkin 2017; 7, 401
- Takeuchi J,Takeda A, Itoh Y. J Alz Dis Parkin 2016; 6. 270
主な研究内容
現在の主な研究テーマ
脳血管障害の基礎と臨床
・虚血性脳血管障害の病態には、大血管でのアテローム血栓症、小血管を中心とした微小循環障害、境界領域梗塞、心原性塞栓症などがあげられます。当研究室ではこうした臨床病型を幅広く動物モデル化(左図)し、治療法の開発に取り組んできています。これにより、抗血小板剤併用療法の有用性、DOAC (Direct Oral Anti-Coagulant)の塞栓症進展抑制、再発予防効果、抗血小板剤のpleiotropic effects、スタチンの内皮保護作用などを明らかにしてきました。
・また新たな治療法の開発として、血管新生を利用した膜状人工血管シートの開発や、脳虚血後の炎症をターゲットとした新規薬剤の開発、血管周皮細胞pericyte を標的としたNo-reflow現症の治療、微小循環の調節などにも取り組んでいます(右図)。
治せる認知症医療をめざして
・高齢化社会の中で認知症治療は神経内科の領域における最大の問題と言えます。当研究室では早くから認知症の病態解明と知慮法の開発に取り組んできました。その一つは、アミロイドβの蓄積をほとんど伴わない家族性アルツハイマー病の研究でした。
・現在、当施設においてはアミロイドPET (PIB) とタウ蛋白PET (PBB3)を用いて、臨床的に認知症を伴わない「健常者」におけるアミロイドの沈着と心理検査、加齢、経時変化を研究し、アルツハイマー病の発症前リスク評価と治療法を検討しています(左図)。
・また臨床的にアルツハイマー病と診断された患者でも、必ずしもアミロイドが沈着しているとは限りません(右図)。こうした患者は病理学的にも別な疾患である場合が多く、予後や治療法が異なるため、どのように鑑別していくかを明らかにする必要があります。
・そのほか、動物モデルを用いて、既存の薬剤のリポジショニングによるアミロイドクリアランスの促進なども検討しています。
パーキンソン病の非運動症状への取り組み
神経内科ではパーキンソン病専門外来を設け、初期の鑑別疾患、中期の薬剤継続、進行期の薬剤調節、合併症治療などを行っております。パーキンソン病では、振戦、動作緩慢、筋強剛、歩行障害といった運動症状が患者の生活を不自由にしますが、最近注目されているのは非運動性の症状であり、特に当施設では認知症の合併や自律神経の異常について研究しています。
パーキンソン病に認知症を発症してきた場合(PDD)とレビー小体型認知症(DLB)とは、αシヌクレイン病巣が広がる時間経過に差はあっても同一スペクトラムの疾患ととらえることができます。どちらも、脳血流検査では後頭葉およびアルツハイマー病に特徴的な部位(頭頂葉、後部帯状回、楔前部)の血流低下を認めます(左右の上図)。一方、アミロイドについては蓄積あり(左下図)となし(右下図)があり、認知機能の出現に差が出る可能性が示唆されており、当科ではこうした病態の研究を行っています。
後根神経節炎の病態と治療
・末梢神経の障害は、軸索が傷害されるaxonopathy、髄鞘が傷害されるmyelinopathyに大別されますがが、もう一つ後根神経節が傷害される神経細胞体障害neuronopathyがあります。障害された後根神経節の皮膚分節に沿った帯状の感覚障害をきたすのが特徴で、ポリニューロパチーの手袋靴下型にはなりません。しばしば位置覚が強く障害され、ataxic sensory neuropathyの病型をとります。シェーグレン症候群に合併することが多く、通常の筋電図では伝導速度の低下やブロックは認めません。SEPにて後根神経節の電位の遅延や、それ以後の振幅低下を認め診断根拠となります(図)。
・当講座では、本疾患はじめ、様々な炎症性末梢神経障害のデータを集積し、電気生理学的病態の検討や治療についての検討を行っています。
多発性硬化症の高次機能障害
・多発性硬化症は白質病変をきたす疾患で、失語、失行、失認といった高次脳機能障害が前景に立つことはあまりありません。しかし、病巣が増加すると注意力や意欲などが傷害され結果的に高次脳機能障害を引き起こす場合があり、患者の日常生活の質を低下させるため、多発性硬化症の病態、治療とともに研究課題としています。
・また類縁疾患である、視神経脊髄炎はアストロサイトのendfootに存在するAQP4に対する自己免疫疾患ですが、毛細血管レベルの脳微小循環障害と炎症、ニューロン、アストロサイト、血管からなるneurovascular unitの観点から、疾患の基礎病態と治療を研究しています(図)。
臨床への取り組み
・病院診療では、大阪公立大学附属病院として地域住民の要望に適切に対応できるよう、頻度の高い脳卒中と認知症を中心にオールラウンドに脳神経内科を取り扱います。
・死因の第4位である脳血管障害は、迅速・適切な治療により予後が大きく改善する疾患です。また適切な治療により再発予防が可能です。この脳血管障害は認知症と合わせると生活に介護が必要となる原因疾患の半分以上を占めます。
・当科では社会的に最もニーズの高いこれら2疾患での最先端の診療を重点にしながらも、地域住民の皆様に貢献できるよう幅広い神経疾患を診療対象とし、偏りのないオールラウンドな脳神経内科医療を心がけています。
スタッフ
教授 | 伊藤 義彰 |
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准教授 | 辻 浩史 |
講師 | 武田 景敏、三野 俊和 |
病院講師 | 岡本 光佑 |
非常勤講師 |
池田 仁、田村 暁子、 水田 秀子 |
客員教授 |
村山 繁雄、安部 貴人 |
客員准教授 | 吉崎 崇仁 |
特任講師 | 長谷川 樹 |
参考写真