女性病態医学

基本情報

泌尿生殖・発達医学講座 女性病態医学

代表者 角 俊幸教授

昭和20年4月、大阪市立医学専門学校の臨床部門の1つとして産科婦人科学教室が誕生しました。藤森速水先生、須川佶先生、荻田幸雄先生、石河修先生と歴代教授を中心に教室員は団結し、研究面・臨床面においていろいろと医学の発展に努めてきました。その過程で荻田教授の時代に、教室は女性病態医学と生殖発生発育教育学の2講座を持つこととなり、石河教授時代も両講座兼任でしたが、平成25年4月より講座名は女性病態医学(婦人科腫瘍)と女性生涯医学(産科・生殖・骨盤底)に改まり、女性病態医学講座は角俊幸教授のもと新たなスタートを切ることとなりました。 
当講座では、婦人科悪性腫瘍を中心とした研究、臨床を中心に行っていますが、その症例数は全国でも有数です。悪性腫瘍に対する開腹および腹腔鏡手術だけでなく良性腫瘍も多数扱っており、腹腔鏡手術症例は近年増加しています。治療に関してはガイドラインを遵守して行い、放射線療法は放射線科と協力し、また他にも必要な場合は他科と密に連携しながら行っています。
研究面に関しては、「臨床が研究にすり寄る研究」を目指し、常に臨床応用を前提とした研究を行っております。悪性腫瘍に関する研究では、発癌のメカニズム、癌の浸潤・転移機構の解明、治療法選択に有意義なバイオマーカーの開発、さらには癌悪液質の改善に関する研究により担癌患者のQOL改善を目指しております。

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場所
学舎 8階
連絡先
TEL:06-6645-3862 MAIL:gr-med-obandg@omu.ac.jp

 

教育方針

学部教育

  • 次のような内容の講義と、理解を深めるための臨床実習を行います。
    1) 婦人科悪性腫瘍発癌のメカニズム解明について。
    2) 婦人科腫瘍の診断法開発について。
    3) 子宮内膜症の自然史と病態について。
    4) 子宮筋腫の自然史と病態について。
    5) 婦人科悪性腫瘍に対する抗癌化学療法の有効性と、その耐性獲得機構について。放射線治療法の原理および有効性・有害作用について
    6)癌悪液質の病態解明とその改善法について。
  • 座学において、女性骨盤底の解剖学の基本的理解と、子宮・卵巣をはじめとする女性内性器、及び外性器の機能および病理的特徴を理解したうえで、各々の臓器の良性および悪性疾患の診断、および治療方法を学んでいただきます。BSLでは、実際に手術症例を担当していただき、患者さんの主訴を聴取し、そこから考えられる疾患、内診や超音波、CTやMRIなどの画像検査による術前の診断手順を実践的に学んでいただきます。治療に関しては、腹腔鏡手術や開腹手術を見学していただき術後経過も診ていただきます。女性性器を扱う特殊な科であることを常に念頭に置き、婦人科腫瘍の手術患者さんの診断から治療に至るまでの経緯を学んでいただき、総合医学的なスキルも身に付けていただけるよう指導していきます。

 

臨床教育(研修医の育成)

当講座には、日本産科婦人科学会、日本婦人科腫瘍学会、日本産科婦人科内視鏡学会、日本産婦人科手術学会、日本女性骨盤底医学会、日本癌治療学会、日本癌学会、日本臨床細胞学会、日本緩和医療学会などの認定医、専門医および学会員が豊富に属しており、認定医・専門医資格を目指す研修医への指導力は豊富です。取り扱う悪性腫瘍症例数も国内有数で、腹腔鏡を含めた鏡視下手術症例も増加傾向にあります。入局1年目から豊富な臨床経験を積んでいただき、国内外における学会発表を積極的に行っていただけるよう指導・支援しています。また関連病院との連携も密接で、多種多様な症例を経験していただけます。

研究指導

  • 研究を志す方は、大学院に進学してまたは研究医や医学研究生として医学博士号の取得を目差していただくことが可能です。当教室のみならず関連教室の先生方にもご協力いただいて、皆様の基礎的あるいは臨床的な研究を支援し、学会発表や論文執筆を指導いたします。研究項目に関しては、自身が興味をもって新しく始めたい項目に関しても協力を惜しまず、適切な指導をさせていただきます。
  • さらに、国内外への留学を希望される場合は、日本全国希望の研究施設およびアメリカ、イギリス、ドイツ、韓国などの海外施設を紹介させていただくことも可能です。

研究について

概要

  • 当科では、臨床研究と基礎研究を行っています。
  • 進行子宮頸がん患者に対して個別に適切な治療方法を選択することを最終目的として、主治療前の抗がん剤や放射線治療の効果予測に応用できる様々なバイオマーカーや新しい治療方法の探索を、臨床検体や細胞株等を用いさらに動物実験を含め遺伝子レベルで行っております。かつ、この成果を子宮体がんや卵巣がん患者にも応用したいと考えております。
  • また、子宮筋腫の自然史解明への足がかりを、筋腫の増大および縮小に関与する因子の解明を行うことで見出し、子宮筋腫と子宮肉腫の生物学的な相違についての研究を行い、特に子宮筋腫の悪性転化に関与する遺伝子発現変異などの解明を行っております。また、異型筋腫と平滑筋肉腫の分子生物学的・病理学的相違に関する研究を行い子宮肉腫の鑑別診断の向上に努めています。

教室を代表する業績

    1. Ishiko O, Sugawa T, Tatsuta I, Shimura K, Naka K, Deguchi M, Umesaki N. Anemia-inducing substance (AIS) in advanced cancer: inhibitory effect of AIS on the function of erythrocytes and immunocompetent cells.Jpn J Cancer Res. 78(6):596-606; 1987.
    2. Honda K, Ishiko O, Tatsuta I, Deguchi M, Hirai K, Nakata S, Sumi T, Yasui T, Ogita S. Anemia-inducing substance from plasma of patients with advanced malignant neoplasms. Cancer Res. 55(16):3623-8; 1995
    3. Sumi T, Ishiko O, Honda K, Hirai K, Yasui T, Ogita S. Muscle cell apoptosis is responsible for the body weight loss in tumor-bearing rabbits. Osaka City Med J.45(1):25-35; 1999
    4. Ishiko O, Yasui T, Hirai K, Honda K, Sumi T, Nishimura S, Ogita S. Lipolytic activity of anemia-inducing substance from tumor-bearing rabbits. Nutr Cancer. 33(2):201-5; 1999
    5. Nakano Y, Sumi T, Morishita M, Fukuda T, Nobeyama H, Yoshida H, Matsumoto Y, Yasui T, Ishiko O. Mitotic arrest deficiency 2 induces carcinogenesis in mucinous ovarian tumors. Oncol Lett. 3(2):281-6;2012
    6. Morishita M, Sumi T, Nakano Y, Teramae M, Fukuda T, Nobeyama H, Yoshida H, Matsumoto Y, Yasui T, Ishiko O. Expression of mitotic-arrest deficiency 2 predicts the efficacy of neoadjuvant chemotherapy for locally advanced uterine cervical cancer. Exp Ther Med. ;3(2):341-6; 2012
    7. Kasai M, Ichimura T, Kawamura N, Sumikura T, Matsuda M, Asano C, Sumi T, Ishiko O Prediction of the shrinking rate of uterine leiomyoma nodules using needle biopsy specimens. Fertil Steril. 98(2):440-3; 2012
    8. Fukuda T, Sumi T, Teramae M, Nakano Y, Morishita M, Terada H, Yoshida H, Matsumoto Y, Yasui T, Ishiko O. Pegylated liposomal doxorubicin for platinum-resistant or refractory Müllerian carcinoma (epithelial ovarian carcinoma, primary carcinoma of Fallopian tube and peritoneal carcinoma): A single-institutional experience. Oncol Lett. 5(1):35-8; 2013
    9. Matsuda M, Ichimura T, Kasai M, Murakami M, Kawamura N, Hayashi T, Sumi T.  Preoperative diagnosis of usual leiomyoma, atypical leiomyoma, and leiomyosarcoma.Sarcoma. 2014
    10. Yamauchi M, Fukuda T, Wada T, Kawanishi M, Imai K, Hashiguchi Y, Ichimura T, Yasui T, Sumi T. Comparison of outcomes between squamous cell carcinoma and adenocarcinoma in patients with surgically treated stage I-II cervical cancer. Mol Clin Oncol. 2(4):518-24; 2014
    11. Kajitani K, Honda K, Terada H, Yasui T, Sumi T, Koyama M, Ishiko O. Human Papillomavirus E6 Knockdown Restores Adenovirus Mediated-estrogen Response Element Linked p53 Gene Transfer in HeLa Cells. Asian Pac J Cancer Prev. 16(18):8239-45.; 2015

    主な研究内容

    現在の主な研究テーマ

    癌悪液質に関する研究

    癌患者は癌が進行すれば、体重減少、貧血、低栄養状態、腹水貯留等が進み、そのような状態を癌悪液質と言います。我々は動物モデルや臨床検体を用い、癌悪液質の病因、病態を解明する研究を行っております。進行癌患者に認められる貧血を特定し、さらにそれが進行癌患者の免疫不全等にも関連することなどを解明してきました。まだ臨床応用はできておりませんが、緩和医療が注目されている昨今、癌の進行が防げない場合でも患者のQOLをできるだけ保つ治療を目指して研究を行っております。

    局所進行子宮頸癌に対する主治療前化学療法の効果予測因子に関する研究

    局所進行子宮頸癌(III期、IVA期)に対する主治療前化学療法が奏効すれば手術で子宮を摘出することが可能となり予後改善につながる可能性があります。しかし、主治療前化学療法が奏効しない場合は主治療である同時化学放射線治療を行うまでに遅れが生じ、かえって予後を悪化させてしまう可能性もあります。そこで、効果的に主治療前化学療法を行うには、効果を予測し、適切に患者を選択する必要があります。我々は主治療前化学療法の効果予測因子の特定を目指し、様々なバイオマーカーの探索を臨床検体や細胞株等を用い行っております。

    子宮平滑筋腫に関する研究

    子宮筋腫をはじめ子宮体部腫瘍の自然史の解明、診断方法の解明、筋腫の増大および縮小に関与する因子の解明を通じて予後予測をテーマとする研究を行っています。われわれは、摘出標本の病理組織学的診断によっても確定診断が困難な場合がある子宮平滑筋腫瘍に対し経子宮頸管的針生検の手技を確立しました。「術前針生検標本による子宮平滑筋腫・子宮平滑筋肉腫の鑑別」と「子宮平滑筋腫であった場合はその自然史、薬物療法の治療効果予測」などを中心に研究および考察を重ねています。これら研究成果として臨床現場で不要な手術を回避することを目標としています。

    子宮平滑筋肉腫に関する研究

    我々が確立した子宮平滑筋腫瘍に対する経子宮頸管的針生検標本による子宮平滑筋腫・子宮平滑筋肉腫の鑑別を通して、子宮筋腫と子宮肉腫の生物学的な相違についての研究を行い、特に子宮筋腫の悪性転化に関与する遺伝子発現変異などの解明を行っています。また異型筋腫と平滑筋肉腫の分子生物学的・病理学的相違に関する研究を行い子宮肉腫の鑑別診断の向上に努めています。

    外来性p53遺伝子の細胞への導入に関する研究

    子宮頸部の中等度以上の異形成では細胞のDNAにヒトパピローマウイルスの遺伝子が組込まれ癌抑制遺伝子p53が不活性化されている場合が多く、経過は長くなりがちで上皮内癌または子宮頸癌に進展する率も高いことがわかっています。このような細胞に対してアデノウイルスベクターを用いて外来性p53遺伝子を導入して細胞をアポトーシスに陥らせてヒトパピローマウイルスを排除する治療法も考えられます。 われわれはp53を細胞に導入する際に、遺伝子の上流側にエストロゲン応答配列と言われる10個位の塩基からなる配列を付加するとアデノウイルスベクターによる導入効率が高まる現象を認め、大阪市立大学から特許登録がされ研究を続けています。子宮頸部異形成に相当する培養細胞を用いて調べた場合も、導入するp53遺伝子にエストロゲン応答配列を付加すると細胞への導入が高くあらわれました。エストロゲン応答配列が細胞のエストロゲン受容体に依存または非依存的に転写因子としての機能を示すと考えられますが、p53遺伝子コドン72の遺伝子多型に影響される結果も得られています。遺伝子治療への応用を可能にするため、抗原性の少ないヘルパー依存型アデノウイルスを作製してベクターとして用いた場合の研究を、動物実験を含めておこなっています。

    臨床への取り組み

    女性診療科の婦人科腫瘍部門では、骨盤内婦人科腫瘍を中心に手術療法や、化学療法(抗がん剤治療)、放射線療法などを担当しています。子宮頸癌、子宮体癌、卵巣癌、外陰癌、腟癌、子宮肉腫などの悪性腫瘍の手術および子宮筋腫や子宮内膜症を含む卵巣嚢腫などの良性疾患も積極的に手術を行っています。良性疾患に対する腹腔鏡手術が増えているのも特徴です。抗がん剤治療に関してはメニューによっては外来での投与も行っています。また当科のもう一つの特徴としては、新しい抗がん剤治療などの臨床試験にも積極的に参加していることがあげられます。専門外来も開いており、子宮頸部異形成(子宮頸がんの前癌病変)や子宮筋腫の患者さんがたくさん通っておられます。
    当科では同じ病気でも病状や程度が個々の患者さんで異なることを重視し、正確な病態診断と徹底した治療前カンファレンスにより個別化された治療を提案し、十分なインフォームドコンセントを得て治療を行います。

    スタッフ

    教授 角 俊幸
    准教授 安井 智代、市村 友季
    講師

    福田 武史、山内 真、

    今井 健至、田坂 玲子

     

    参考写真

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