分子病態薬理学
基本情報
分子生体医学講座 分子病態薬理学
代表者 冨田 修平教授
現在の分子病態薬理学教室の前身である薬理学教室は、1949年(昭和24年)6月に上田重郎初代教授により開講され、1973年(昭和48年)7月より山本研二郎教授が、そして1992年(平成4年)10月より岩尾洋教授が就任しています。そしてこれまで一貫して循環生理における生体内物質の作用、とくにレニン・アンギオテンシン系の循環系や腎機能に対する作用を詳細に研究することにより、腎臓薬理学と循環薬理学を教室の伝統ある研究領域として確立しました。2000年(平成12年)4月には大学院再編に伴い教室の名称も大学院医学研究科分子病態薬理学と改められました。そして2016年(平成28年)4月より冨田修平教授が就任して現在に至っています。
現在の分子病態薬理学では、これまで継続されてきた研究領域に加えて、細胞外ストレスに対する生体応答や生体防御システムに関わる分子機序の解明および関連疾患に対する予防・診断・治療への応用を目指しています。とくに循環代謝疾患やがん病態に伴う血管や組織のリモデリング形成および進展機序の解明を通して、疾患予防および治療を目的とした分子生物学的検討を行っています。また、上記疾患に対する機能プロテオミクスによる薬物治療の標的分子の探索、循環代謝疾患やがんの治療薬に対する生体反応の包括的な解析を行っています。
- 場所
- 学舎 16階
- 連絡先
- TEL:06-6645-3731 MAIL:gr-med-yakuri@omu.ac.jp
教育方針
学部教育
- 薬理学講義では、前もって学習した解剖学、生理学、生化学などの知識を基盤にして、薬と生体との相互作用をもとに薬物治療に必要な基本的事項や概念を学習します。さらに、薬物の創薬から臨床治験と臨床応用されたときの問題点まで広く学習します。薬理学実習では、自律神経系および中枢神経系作用薬のほか、循環器系作用薬の薬理作用について動物実験などを通して理解を目指します。
- また、研究に興味のある学部学生に対して、希望に合わせて、当教室で行われている論文紹介や英語教科書の輪読の参加、さらに教員あるいは大学院生の指導の下での実験をおこなうことにより学会や研究会での発表を目指して指導・支援します。
臨床教育(研修医の育成)
該当はありません。
研究指導
大学院教育では、教室の研究テーマに関連した研究について、研究の立案から実験、結果の解釈、そして論文作成を行う過程を担当教員の指導のもとでおこない学位の取得を目指します。また研究成果について国内外の学会や毎年教室が主催する研究会に参加・発表して他大学のいろいろな研究者との交流することを奨励しています。学位取得はもとより、基礎・臨床を問わず専門性および独創性の高い国際的な研究を自身で推進できる能力を身につける研究教育を目指しています。
研究について
概要
研究に関する一連の過程、すなわち研究の立案、実験計画、実験、結果解釈、発表(論文作成、プレゼンテーション)について、明確であること。ソリッドな方法論に基づくソリッドな研究結果について教室のメンバーで夢を持って議論しそれを楽しむ姿勢を大切にしています。そのような環境から生まれてくるオリジナリティを大切にすることで関連分野に一石を投じる研究を進めています。
教室を代表する業績
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Samukawa N, Yamaguchi T, Tokudome K, Matsunaga S, Tomita S, et al.: An efficient CRISPR interference-based prediction method for synergistic/additive effects of novel combinations of anti-tuberculosis drugs. Microbiology in press (2022).
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Yamashiro Y, Matsunaga S, Tomita S, Yanagisawa H, et al.: Partial endothelial-to-mesenchymal transition (EndMT) mediated by HIF-induced CD45 in neointima formation upon carotid artery ligation. Cardiovasc Res in press (2022).
- Homma T, Fujii J, et al.: Defective biosynthesis of ascorbic acid in Sod1-deficient mice results in lethal damage to lung tissue. Free Radic Biol Med 162:255-265 (2021).
- Homma T, Fujii J, et al.: Nitric oxide protects against ferroptosis by aborting the lipid peroxidation chain reaction. Nitric Oxide 115:34-43 (2021).
- Nishide S, Matsunaga S, Tomita S, et al.: Prolyl-hydroxylase inhibitors reconstitute tumor blood vessels in mice. J Pharmacol Sci 143:122-126 (2020).
- Kabei K, Tomita S, Miura K, et al.: Effects of orally active HIF prolyl hydroxylase inhibitor, FG4592 on renal fibrogenic potential in mouse unilateral ureteral obstruction model. J Pharmacol Sci 142:93-100 (2020).
- Nishide S, Matsunaga S, Tomita S, et al.: Controlling the Phenotype of Tumor-Infiltrating Macrophages via the PHD-HIF Axis Inhibits Tumor Growth in a Mouse Model. iScience, 19:940-954 (2019).
- Kabei K, Tomita S, Miura K, et al.: Role of HIF-1 in the development of renal fibrosis in mouse obstructed kidney: Special references to HIF-1 dependent gene expression of profibrogenic molecules. J Pharmacol Sci 136:31-38 (2018).
- Koyama S, Matsunaga S, Tomita S, et al.: Tumour blood vessel normalisation by prolyl hydroxylase inhibitor repaired sensitivity to chemotherapy in a tumour mouse model. Sci Rep 7:45621 (2017).
- Imanishi M, Tomita S, et al.: Hypoxia-inducible factor-1α in smooth muscle cells protects against aortic aneurysms. Arterioscler Thromb Vasc Biol 36:2158-2162 (2016).
主な研究内容
現在の主な研究テーマ
生体の低酸素ストレス応答に関する研究
生体内局所における酸素分圧は各組織により異なり、また状況により常に変動しています。生体内の低酸素環境は、細胞の酸素供給の低下あるいは酸素需要の増加した場合に形成されます。酸素は細胞内において、エネルギー産生、殺菌など異物や生体不要物の処理、細胞内シグナル伝達などに利用され、ストレスなどの外部環境の制御に寄与しています。虚血性疾患、炎症性疾患や代謝性疾患を含む多くの疾患において、この生体応答が破綻することが病態の形成と進展に関与していることが考えられています。我々は、詳細な分子機序の解明を通して臨床応用を見据えた研究を展開しています。
循環代謝疾患に伴う組織リモデリングの分子機序の研究と臨床応用
生体は炎症性疾患をはじめ様々な病態によって細胞障害や外部ストレスに対する応答として、組織修復やリモデリングを行います。その過程において組織を構築する実質細胞と間質細胞、そのほか周囲の細胞間との相互作用のもとで細胞の種類や性質またその配置が変化します。一端大きく変化を起こすと組織中に線維化などを生じて組織機能に障害を起こすこともあります。これまで多くの研究者によって研究が進められましたが、未だ進行した病態に対して効果的な治療法は確立されていません。我々は再生医療研究の一環として、組織を構成する細胞群がどのように組織リモデリングに関わるかについてその分子機序を明らかにすることを目指しています。
治療抵抗性腫瘍に対する抗腫瘍因子の探索
治療抵抗性腫瘍では、腫瘍細胞障害性T細胞は腫瘍組織深部に少なく、その一方で、腫瘍周辺部には腫瘍促進形質を持つマクロファージが多く分布する特徴が観察されます。現在、免疫チェックポイント療法やがんワクチン研究を基盤とした腫瘍免疫療法は一部実用化されていますが、治療抵抗性腫瘍に対して十分な効果を示していません。我々は、免疫療法,化学療法の効果が低い担癌モデルマウスにおいてプロリン水酸化酵素阻害剤を投与することにより腫瘍内マクロファージの表現型が変化することを介して腫瘍増大抑制効果があることを見出しました。これらの機序の詳細な解析を進めることで、治療抵抗性腫瘍に対する新しい創薬標的の発見に繋がると考えて研究を進めています。
虚血再灌流傷害におけるレドックス応答機構の解析
臓器が虚血 (低酸素環境)に陥った場合、そのまま虚血が持続すればエネルギーレベルの低下から細胞は障害を受け、最終的には細胞死に至ります。一方、虚血から常酸素環境に戻る再酸素化の際において大量の酸素利用が可能となると、多量の活性酸素生成が引き起こされ、虚血単独時よりもさらに広範囲な傷害 (壊死と炎症)を引き起こすことが分かっています。この現象は虚血性疾患・血管傷害に限らず臓器移植後の病態などに関与していることから、活性酸素傷害の機序の解明は臨床上非常に重要です。低酸素生体応答は元来、こういった状況において細胞保護的に働くものと考えられますが、過剰な生体応答は逆に細胞死のトリガーになるという二面性も知られています。我々は、低酸素生体応答のパラドキシカルな役割が病態にもたらす意義について動物・細胞モデル実験から明らかにしたいと考えています。
妊娠期の低酸素状態に起因する精神発達障害の発症に関する研究
妊娠中における胎児の生育環境は生まれてきた子供の将来罹患しうる疾患を運命づけることが知られています。例えば、妊娠中の母胎における低酸素状態は子供の精神発達障害発症率を上昇させることが、臨床でも報告されています。我々は、精神発達障害のモデル動物を作製し、脳内組織構造や関連する細胞群の機能解析に取り組んでいます。そして低酸素が原因となる精神発達障害メカニズムの解明を通して新たな治療ターゲットの提案を目指しています。
臨床への取り組み
循環代謝疾患、難治性がん、精神発達障害関連疾患に対する予防・診断・治療への応用を目指しています。
スタッフ
教授 | 冨田 修平 |
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講師 | 松永 慎司 |
講師 | 本間 拓二郎 |
参考写真