産業医学
基本情報
都市医学講座 産業医学
代表者 林 朝茂教授
当教室は労働衛生を主に研究テーマにしてきた教室です。日本の労働衛生問題は、以前は公害問題や中毒問題が中心でしたが、時代の変遷とともに労働者の生活習慣病対策へと変わってきました。本教室もこの流れとともに職域における鉛中毒などの職業性疾病に関する研究から、生活習慣病予防対策を中心とした研究テーマに変遷してきました。当教室での生活習慣病予防対策の研究手法は職域での疫学研究としての大規模前向きコホート研究です。一般に大規模の観察研究を実施するためには膨大な研究費用が必要ですが、我が国は法律で企業に対して従業員の健康診断を義務付けている世界で例を見ない制度を持つ国です。我々の研究チームはこの制度を有効利用し、生活習慣病予防対策のエビデンスを発表してきた本邦におけるパイオニア的研究チームです。
当教室は海外との共同研究も積極的に実施してきました。米国在住の日系人は早くから生活習慣の欧米化により2型糖尿病を中心とした生活習慣病が問題でした。日本在住の日本人にとって、まさにその将来像と言える米国在住の日系人に対する疫学研究が米国のワシントン州立大学のWilfred Fujimoto教授(現名誉教授)を中心に行われています。教室では、2001年より本研究に参画し、現在、この研究の中心的役割を担っています。
当教室は、滝内秋治教授(1948~1961年、1978年逝去)、堀内一彌教授(1949~1972年、1972年逝去)、堀口俊一教授(1973~1993年、現在名誉教授)、圓藤吟史教授(1993~2015年)、現在名誉教授) によって主宰され、現在は5代目、林朝茂教授(2016年~)が主宰しています。
- 場所
- 学舎 14階
- 連絡先
- TEL:06-6645-3751 MAIL:gr-med-preventive@omu.ac.jp
教育方針
学部教育
- 衛生学として人間の健康に影響を与える自然および社会的環境などの要因を理解し、疾病の予防、健康保持増進を図るための手法を学習します。
- 産業医学として労働衛生の基本体系、労働衛生の3管理(作業環境管理・作業管理・健康管理)、職業性疾病、作業関連性疾患などを理解し、職域における疾病管理、疾病予防対策、健康の保持増進の手法を学習します。
- EBM概論として臨床医に必要な論文を読むための疫学の手法を学習します。
- 医学研究推進コース3では教室で行っているコホート研究をもとに疫学研究の手法を習得することを目標に実習を行います。
- 医学英語論文の読み方・EBMの有効活用実習として医学英語論文の読み方を学習します。
臨床教育(研修医の育成)
該当はありません。
研究指導
- 職域・地域を中心とした生活習慣病の大規模前向きコホート研究、並びに、国際共同研究を通じて疫学研究を実施することで、国際的に通用する疫学研究のスキルの習得を目指します。
A)疫学研究の理論を理解し習得する。
B)既存のコホート研究を通して研究を実体験し必要なスキルを習得する。
C)専門分野でのコホートの立ち上げを行う。 - 研究スキルを習得した上で、専門分野でのコホートの立ち上げなど疫学研究の実施を指導します。
- 国内外の学会発表や学術論文の執筆を指導し、エビデンスとして公表し、社会に貢献できるような人材を育成します。
研究について
生活習慣病対策
- 教室では、生活習慣病の予防対策を目的とし、大規模前向きコホート研究からのエビデンスを発信してきました。「職域を中心とした生活習慣病の大規模疫学研究」では、生活習慣病、特に2型糖尿病、高血圧症、慢性腎臓病、脂質異常症などの予防対策について研究を行っています。
- 「糖尿病の疫学研究」として、この分野において世界的に有名な前向きコホート研究である米国ワシントン州立大学の米国日系人糖尿病研究に2001年より参画しています。また、米国日系人研究を発展させた日本版の研究を立ち上げて研究を行っています。
①職域を中心とした生活習慣病の大規模前向きコホート研究
・The Kansai Healthcare Study
・The Osaka Health Survey
②米国日系人の生活習慣病に関する疫学研究
・The Seattle Japanese-American Community Diabetes Study(米国日系人糖尿病研究)
③米国日系人研究を発展させた日本版の前向きコホート研究
・The Ohtori Study
④産業医学分野のビックデータ疫学研究
⑤全国規模の多施設多目的コホート研究(地域住民中心)
⑥臨床系教室・他の病院との共同研究
職業性中毒疾患対策
印刷工場での胆管癌に関する疫学研究
教室を代表する業績
業績
- 通勤時の歩行習慣と2型糖尿病や高血圧症の発症リスクの関係
①Walking to work and the risk for hypertension in men: The Osaka Health Survey. Ann Intern Med. 131:21-26, 1999
②Walking to work is an independent predictor of incidence of type 2 diabetes in Japanese men: The Kansai Healthcare Study. Diabetes Care 30:2296-2298, 2007
・歩行習慣が2型糖尿病や高血圧症の発症予防因子になるかは明らかではなかった。本研究は、日常生活における運動のうち通勤時の歩行時間が長いほど、2型糖尿病や高血圧症の発症予防因子になることを世界で始めて報告した研究である。この2つの研究結果は、ロイターなどを通じて世界に配信された。また、2番目の論文の結果のロイターの記事は、アメリカ糖尿病学会のホームページにも掲載された。 - 2型糖尿病の危険因子として空腹時血糖値とHbA1c値を同時に測定することの意義
①Combined measurement of fasting plasma glucose and A1C is effective for the prediction of type 2 diabetes: The Kansai Healthcare Study. Diabetes Care. 32:644-646, 2009
・2型糖尿病の発症に関して、空腹時血糖値とHbA1c値を同時に測定することの意義を前向きコホート研究で証明した。この研究結果は、米国糖尿病学会がHbA1c値を2型糖尿病の診断基準に採用する際にエビデンスと採用された。この研究結果は、ロイターを通じて世界に配信された。 - CT撮影による腹部内臓脂肪と生活習慣病の関係
①Visceral adiposity is an independent predictor of incident hypertension in Japanese Americans. Ann Intern Med. 140:992-1000, 2004
・高血圧症の発症リスクとして、CT撮影による腹部内臓脂肪が、腹部皮下脂肪や総皮下脂肪などの他の脂肪蓄積に比べ最も重要であることを前向きコホート研究の結果として世界で初めて報告した。この研究結果は、ロイターを通じて世界に配信された。
②Visceral adiposity, not abdominal subcutaneous fat area, is associated with an increase in future insulin resistance in Japanese Americans. Diabetes. 57:1269-1275, 2008
・インスリン抵抗性の悪化のリスクとして、CT撮影による腹部内臓脂肪が、腹部皮下脂肪や総皮下脂肪などの他の脂肪蓄積に比べ最も重要であることを前向きコホート研究の結果として世界で初めて報告した。
③Visceral adiposity and the risk of impaired glucose tolerance: a prospective study among Japanese Americans. Diabetes Care. 26:650-655, 2003
・耐糖能異常の発症リスクとして、CT撮影による腹部内臓脂肪が、腹部皮下脂肪や総皮下脂肪などの他の脂肪蓄積に比べ最も重要であることを前向きコホート研究の結果として世界で初めて報告した。
主な研究内容
現在の主な研究テーマ
職域における生活習慣病の大規模疫学研究
The Kansai Healthcare Study
The Osaka Health Survey
生活習慣病発症の危険因子の探求を目的として、職域を中心とした前向きコホート研究を行っています。これらは、職域での健康診断という我が国独自のシステムを利用した大規模前向きコホート研究です。
①The Kansai Healthcare Study(1万人規模のコホート)
②The Osaka Health Survey(1万人規模のコホート)
職域における就労期の生活習慣病、特に2型糖尿病、高血圧症、脂質異常症、慢性腎臓病などの新規発症の危険因子に関する研究を行っています。
The Japanese-American Community Diabetes Study:米国在住日系人糖尿病研究
The Japanese-American Community Diabetes Study (米国在住日系人糖尿病研究)は、1983年にワシントン州立大学のWilfred Fujimoto教授(現名誉教授)が開始した 糖尿病に関する世界的に有名な前向きコホート研究です。このコホート研究は世界で最初にCT撮影で腹部内臓脂肪を評価した前向きコホート研究です。 この研究からは多くの学術論文が報告されて、世界の2型糖尿病の予防に貢献してきました。教室では、2001年より本研究に参画し、現在、この研究の中心的役割を担っています。
The Ohtori Study
肥満は全世界的に増加傾向にあり、2型糖尿病・高血圧症・脂質異常症・メタボリックシンドロームなどの生活習慣病の最も重要な危険因子です。 日本人は、欧米人に比べて、脂肪の分布のうえで、皮下脂肪より内臓脂肪が蓄積しやすい民族であるとの報告もあります。 内臓脂肪の疫学研究は、わが国において重要な研究テーマです。教室では、CT撮影を用いた腹部内臓脂肪を初めとした全身の脂肪分布と生活習慣病に関する 多目的大規模コホート研究(The Ohtori Study)を立ち上げて研究を行っています。
その他の疫学研究
行政や臨床教室や地域の病院との共同研究として行ってきた研究。
①透析患者の疫学研究
②乳幼児の喘息予防対策の地域コホート研究
③虚血性心疾患の心臓カテーテル検査の疫学研究
④新生児に対する疫学研究
⑤血液疾患の疫学研究
⑥IgA腎症の疫学研究
この他にも、現在立ち上げ中の疫学研究があります。
①全国規模の多施設多目的コホート研究(地域住民中心)
臨床への取り組み
研究成果については国内外の学術誌への投稿、国内外の学会発表を行っています。その成果がメディアを通じて世界にも配信されています。 その結果、健康日本21や日本糖尿病学会の糖尿病診療ガイドラインの1次予防の分野策定の際、米国糖尿病学会がHbA1c値を2型糖尿病の 診断基準に採用する際、我々の学術論文が引用されてきました。臨床応用、特に予防医学のエビデンスに貢献することに取り組んでいます。
スタッフ
教授 | 林 朝茂 |
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准教授 | 佐藤 恭子 |
講師 | 康 秀男 |
病院講師 | 柴田 幹子、柴田 泉 |
参考写真