放射線腫瘍学
基本情報
病態診断・生体機能管理医学講座 放射線腫瘍学
代表者 澁谷 景子教授
当教室は2014年、放射線医学教室が放射線診断学・IVR学教室と放射線腫瘍学教室に分離・独立し、誕生しました。これまで、三木幸雄教授が両教室の運営にあたられ、2018年4月1日付けで、私、澁谷が放射線腫瘍学を担当させて頂くこととなりました。
放射線腫瘍学とは、全身諸臓器のほぼすべての悪性腫瘍を対象とし、放射線の特性に関わる「放射線生物学(Radiation Biology)」と「放射線物理学(Radiation Physics)」の理論的根拠、および腫瘍学(Oncology)の基礎と臨床に基づき、新規治療法を開発、実践するための学問領域です。
現在、IT技術の発展とも相俟って、放射線治療の技術は目覚ましく進歩し、「がん治療の3本柱」のひとつとして、がん診療における重要な役割を担っています。
放射線治療は、それ単独のみならず集学的治療の一環としても活用でき、また、根治的治療から対症療法まで、患者さんの年齢や状況に応じて幅広く対応することができます。日本人の2人に1人が「がん」に罹患すると言われる現代において、そしてさらに、少子化、高齢化社会を迎える我が国において、「働きながら受けられるがん治療」「高齢者にも優しいがん治療」を開発・実践していくことは、我々の最重要課題のひとつであり、外科医、内科医、画像診断医、病理医、緩和医療を専門とする医師、看護師、薬剤師、あらゆる分野の専門家と力を結集させて取り組んでいくべきものと考えます。
大阪市立大学の中ではまだ産声を上げたばかりの教室ですが、当学の放射線治療の歴史は1954年に始まります。1977年にはリニアックによる放射線診療が開始され、故 小野山靖人教授のもと、当時最先端であった温熱療法や放射線増感剤の基礎研究がなされ、ここに多くの放射線腫瘍医が誕生しました。現在、全国でも有数の症例数を有しており、回転型強度変調放射線治療(Volumetric Modulated Arch Therapy: VMAT)の導入においては、本邦で2番目の臨床スタートとなりました。
今後も、一人ひとりの患者さんに真摯に向き合い、安全で質の高い放射線治療を実践してまいりますとともに、がん診療に精通し、基礎と臨床の両面から新規治療法の開発・研究に取り組むことのできる人材を育成してまいりたいと考えております。
- 場所
- 学舎 11階
- 連絡先
- TEL:06-6645-3834 MAIL:med-ocuro-reguest@ml.omu.ac.jp
教育方針
学部教育
がん診療においては、日々様々な薬剤、治療法が開発される中、今後、手術・放射線・化学療法がより互いの効果を修飾しながら更に進化していくものと思われます。そのような潮流においては、それぞれの分野の基礎医学を学んでおくことが重要であり、放射線腫瘍学においても臨床に即した形で放射線物理学、放射線生物学を履修して理解を深めます。
臨床教育(研修医の育成)
放射線腫瘍学のみならず、放射線診断学、IVR学、核医学も含め放射線科学の基礎を修得した上で放射線科専門医の資格取得のための教育課程に準じ臨床教育を行っています。がん診療においては、関係診療科との連携が重要であり、キャンサーボードなどを通じて各臓器別の最新の診療を学びます。また、放射線腫瘍学の臨床においては、多職種とのteam buildも重要であり、日々の診療の質向上のためのチームワークのあり方も実地臨床を通して学びます。
研究指導
当科では主に臨床研究を行っています。西日本がん研究機構(WJOG)などの多施設共同研究への参加や、自施設内での関係診療科との共同研究なども盛んに行っています。また、放射線治療技術向上のための臨床研究を診療放射線技師とともに推進しています。
研究について
概要
質の高い放射線治療の提供において、最も重要なことはそれに関わる人的要因です。また、所有する機器の性能を十二分に発揮させるのもやはり「人」によるものです。放射線治療における最先端は機器で決まるものではなく、それを扱う「人」によってもたらされます。日々の診療の中に潜む問題点や発見を見逃さないことが最先端であるための条件と考えています。実地臨床の結果を解析し、その小さな糸口にある背景を追求していきます。また、これらの強固な実地臨床の経験と分析を元に、新たな治療法の開発を行います。
教室を代表する業績
1) 肺癌における化学放射線療法の新たな治療法の開発(単施設および多施設共同研究)
- Takuhito Tada et al., A Phase I Study of Chemoradiotherapy With Use of Involved-Field Conformal Radiotherapy and Accelerated Hyperfractionation for Stage III Non-Small Cell Lung Cancer: WJTOG 3305. Int J Radiat Oncol Biol Phys,2012;83:327-331.
2) VMATにおける精度管理と治療計画装置における特性に関する検討
- Daisaku Tatsumi et al., Direct impact analysis of multi-leaf collimator leaf position errors on dose distributions in volumetric modulated arc therapy: a pass rate calculation between measured planar doses with and without the position errors. Phys Med Biol.,2011;56:N237-46.
- Shinichi Tsutsumi et al., Delivery Parameter Variations and Early Clinical Outcomes of Volumetric Modulated Arc Therapy for 31 Prostate Cancer Patients: An Intercomparison of Three Treatment Planning Systems. The Scientifc World Journal; 2013, Article ID 289809.
3) 進行直腸癌の術前化学放射線療法の前向き試験(当院消化器外科主導)
- Yoshitaka Miki et al., Neoadjuvant capecitabine, bevacizumab and radiotherapy for locally advanced rectal cancer: results of a single-institute Phase I study. J Radiat Res,2014;55:1171-1177.
主な研究内容
現在の主な研究テーマ
非小細胞肺癌における化学放射線療法
非小細胞肺癌においては、多くの抗がん剤、分子標的薬、免疫療法など、多くの薬剤が開発されていますが、放射線治療は、やはり根治的治療においてもその重要性は変わっていません。呼吸器内科、呼吸器外科と共同で単施設の臨床研究を多く行っていますが、WJOGの多施設共同試験では、研究実施責任者として(現和泉市民病院放射線科部長:多田卓仁)病巣限局的照射野による三次元多門照射、加速過分割照射を用いた切除不能III期非小細胞肺癌に対する化学放射線療法の第1相、第II相試験に関わるなど臨床試験の立案も行ってきました。
VMATにおける臨床研究
当院では、回転型強度変調放射線治療(VMAT)を東大に次ぎ本邦で2番目に稼働を始めました。当時、その検証方法については確立した方法がなく、当院での研究実績は、現在多くの施設で行われているVMAT検証の基盤となりました。また、複数の治療計画装置でのVMATプランの特性についての検討を行いました。現在、当院では、肺の定位照射もVMATにより行っており、照射時間の短いVMATによる定位照射は、固定多門の定位照射と同等の成績が得られており、症例を選択すれば有用性は高いことが示されています。
進行直腸癌の術前化学放射線療法の前向き試験(当院消化器外科主導)
進行直腸癌に対するCapecitabine+bevacizumabによる術前化学放射線療法の第Ⅰ相試験を消化器外科と共同で行い、現在第Ⅱ相試験の症例集積中です。抗VEGF抗体;bevacizumabは進行直腸癌での化学療法の上乗せ効果が示されています。海外での同様な術前化学放射線療法の有効性に関する報告はみられていますが、下部消化管の放射線による有害事象は人種間の差もあるため、我々はその安全性について検討を行いました。また同時に、その効果判定におけるFDG-PETの定量評価の有用性についても検討を行っています。
臨床への取り組み
当教室放射線腫瘍学部門は、臨床研究を主としています。
スタッフ
教授 | 澁谷 景子 |
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准教授 | 細野 雅子 |
講師 | 井口 治男、荻野 亮 |
病院講師 | 林 謙治、椋本 宜学 |
後期研究医 | 椋本 真希、山岸 睦美 |