女性生涯医学

基本情報

泌尿生殖・発達医学講座 女性生涯医学

代表者 橘 大介教授

女性生涯医学講座は文字通り、女性が生まれてから人生を閉じるまでのすべての期間で女性のライフケア診療を提供する講座です。
女性は思春期を経て妊娠・分娩という人生にとって大切な生殖期を経験します。妊娠に至るための排卵機能、内分泌機能に関する生殖内分泌学は不妊症治療、生殖補助医療として少子化を支える重要な女性医学分野です。
また妊娠・分娩は女性の大きなイベントですが、時として非常に重篤な病気を引き起こすことがあります。結果として流産や早産となるケースも増加したり、母親の命にかかわるような重篤な合併症を伴うこともあります。低出生体重児や病気をもって生まれてくる新生児には周産期専門医による集中治療が必要となります。この分野を周産期・新生児医学といいます。
生殖時期を終えた女性はやがて更年期を迎え、高齢化にともなって更年期以後30年から40年の女性ホルモンに依存しない老年期がおとずれます。妊娠・分娩は女性の骨盤底に大きな負荷がかかります。骨盤底には膀胱や直腸など排泄に必要な骨盤底臓器があり、それらの機能障害(排尿障害、尿失禁、便失禁など)は更年期以降の女性の生活の質(QOL)を大きく左右することになります。これらの障害を克服あるいは予防する医学を女性骨盤底医学といい、高齢社会の女性の生活をサポートする医療分野として、今後ますます重要性が高まってゆきます。
このように私たちの女性診療は卵から老人までの女性のトータルライフケアをめざします。思春期、生殖期、周産期、更年期、老年期の女性の各ライフステージを連続的に診断、治療によって女性のQOLを高める医学を発展させる講座として、女性生涯医学講座が皆様のお役に立てるように、若い産婦人科の先生方とともに日々精進して参ります。

 

場所
学舎 7階
連絡先
TEL:06-6645-3941 MAIL:gr-med-obang@omu.ac.jp

 

教育方針

学部教育

女性生涯医学を実践するには生殖内分泌医学、周産期医学、女性骨盤底医学の3つの分野の連続性と内科学、産婦人科学、泌尿器科学の幅広い診断学、治療学、予防医学の深い知識が要求される。講義は産科学、不妊症学、骨盤底医学を中心として行っているが、ベッドサイドトレーニングに重きを置いて経腟分娩、帝王切開、内視鏡手術、腟式手術の実践を通じて臨床実践教育を図る。

臨床教育(研修医の育成)

教授、准教授、講師陣との熱いディスカッションを通じたカンファレンスで世界スタンダードの周産期医学、生殖内分泌学、女性骨盤底医学の基本を習熟する。相互交換留学システムや国際学会シンポジウム、招請講演を定期的に企画し、常に先端医療に研修医、専攻医が接することが可能である医学教育を推進する。多岐にわたる症例に学ぶためには、大学病院だけでは限界があるため、周産期、生殖医療、骨盤底外科の特性をもつ関連病院と教育スタッフを育成し、医学教育・研修機能を互いに補完できるシステムを保っていきたいと考える。産婦人科専門医を取得するための技術認定を含めた研修、サブスペシャリティの専門医(周産期、生殖医学、女性医学)の準備のための研修プログラムを提供する。

研究指導

医学研究には病理学、免疫学、分子生物学、生理学など幅広い知識と高度な技術が要求されるため、一講座では充分な成果を上げることは困難である。基礎医学との密接な連係を推進するとともに、小児科学、泌尿器科学、下部消化管外科学など関連する臨床諸講座との交流をよりいっそう深めて効率的な研究プロトコルを用意して、自由な研究テーマで研究を指導する。

研究について

概要

大学院大学の基礎となる研究に関しては生殖・周産期医学研究と骨盤底臓器の臨床解剖生理学を二つの柱としている。生殖医学の研究ではヒトの受精、着床前後の子宮環境ならびに胎盤の有する妊娠維持機構に関わる免疫因子、内分泌因子、成長因子、細胞接着因子等を分子レベルで解明する生化学研究と、妊娠の生理学研究を中心にしたリアルタイムで分析できる超音波画像研究などのメディカルエンジニアリングの双方向の展開を追求する。骨盤底医学は骨盤底解剖生理学研究が基礎となる。骨盤底筋組織、筋膜組織、結合織の強度に影響するミクロのレベルでの神経解剖学や病理学の研究は未解明の分野が多く、研究課題は非常に豊富である。

教室を代表する業績

  1. FIGO Working Group Report, Cornelia B, Koyama M, Oscar C, Management of Apical Compartment Prolapse (uterine and vault prolapse), Neurourol Urodynam, peer reviewed, (2015) in press
  2. Wada N, Tachibana D, Kurihara Y, Nakagawa K, Nakano A, Terada H, Tanaka K, Fukui M, Koyama M, Hecher K, Alterations in time intervals of ductus venosus and atrioventricular flow velocity waveforms in growth-restricted fetuses, Ultrasound Obstet Gynecol, 46:221-226 (2015)
  3. Hamuro A, Tachibana D, Wada N, Kurihara Y, Katayama H, Misugi T, Sumi T, Koyama M. On-site hemostatic suturing technique for uterine bleeding from placenta previa and subsequent pregnancy. Arch Gynecol Obstet. 292:1181-2 (2015).
  4. Tachibana D, Kurihara Y, Wada N, Kitada K, Nakagawa K, Koyama M. Flow velocity waveforms of the ductus venosus and atrioventricular valves in a case of fetal hemangiolymphangioma. Ultrasound Obstet Gynecol. 46:744-5 (2015)
  5. Yamamoto H, Tachibana D, Tajima G, Shigematsu Y, Hamasaki T, Tanaka A, Koyama M. Successful management of pregnancy with very-long-chain acyl-coenzyme A dehydrogenase deficiency. J Obstet Gynaecol Res. 41:1126-8 (2015)
  6. Tachibana D, Koyama M, Saito M, Hoshi M, Imai R, Kamada T, Heavy ion radiotherapy for recurrent metastatic lung tumor during pregnancy, Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol, 184:127 (2015)
  7. Tachibana D, Glosemeyer P, Diehl W, Nakagawa K, Wada N, Kurihara Y, Fukui M, Koyama M, Hecher K, Time-interval analysis of ductus venosus flow velocity waveforms in twin-to-twin transfusion syndrome treated with laser surgery, Ultrasound Obstet Gynecol, 45:544-550 (2015)
  8. Nohmi K, Tokuhara D, Tachibana D, Saito M, Sakashita Y, Nakano A, Terada H, Katayama H, Koyama M, Shintaku H, Zymosan Induces Immune Responses Comparable with Those of Adults in Monocytes, Dendritic Cells, and Monocyte-Derived Dendritic Cells from Cord Blood, J Pediatr, 167:155-162 e152 (2015)
  9. Kurihara Y, Tachibana D, Yanai S, Kitada K, Sano M, Wada N, Nakagawa K, Yamamoto H, Hamuro A, Nakano A, Terada H, Ozaki K, Fukui M, Koyama M, Characteristic differences and reference ranges for mitral, tricuspid, aortic, and pulmonary Doppler velocity waveforms during fetal life, Prenat Diagn, 35:236-243 (2015)
  10. Kitada K, Kizu A, Teramura T, Takehara T, Hayashi M, Tachibana D, Wanibuchi H, Fukushima S, Koyama M, Yoshida K, Morita T, Gene-modified embryonic stem cell test to characterize chemical risks, Environ Sci Pollut Res Int. 22:18252-9 (2015)

主な研究内容

現在の主な研究テーマ

細胞外マトリックス蛋白欠損による骨盤臓器脱マウスモデルに対する幹細胞治療の試み

骨盤臓器脱は出産、加齢、ホルモン欠乏に伴って出現し尿失禁や排便障害を発症し、介護医療にも問題を呈する。妊娠・分娩は骨盤底支持組織の断裂や神経傷害によって徐々に進行するとされているが、その分子生物学的な発症病理は解明されていない。骨盤底臓器の結合織、筋肉の生化学的な構造変化は未だ不明なため、再生医学的な創薬治療法の開発が遅れている。本研究では骨盤臓器脱のマウスモデルを用いて骨盤底支持機構に寄与する結合組織の細胞外マトリックス蛋白の遺伝子変化を解析し、骨盤底筋の構造変化を維持、修復させる予防および再生医療の開発を目的とする。

顆粒膜細胞におけるメラトニン受容体を介した排卵調節機能

松果体ホルモンであるメラトニンはサーカディアンリズムを形成する他、抗酸化作用や生殖内分泌機能に対する作用も知られている。メラトニン受容体はGnRHニューロンや卵胞顆粒膜細胞にも存在し黄体でのLH受容体発現やプロゲステロン産生の維持、排卵時の抗酸化作用に関与することが報告されている。メラトニンはROSなどフリーラジカルに対するスカベンジャーとして卵子や顆粒膜細胞に対する保護作用を有することが知られているが、メラトニン受容体を介した働きについては明らかではない。ヒト顆粒膜細胞に対してメラトニン及びメラトニン受容体アンタゴニストを投与することにより、メラトニンの受容体を介した生殖内分泌機能に対する作用について解析する。

妊娠糖尿病発症予防に関与するバイオマーカーの開発

妊娠糖尿病の罹患は、将来の糖尿病発症の危険因子であることが知られている。しかし、妊娠糖尿病罹患患者の産後の追跡は、長期的には十分にできていないのが現状である。妊娠糖尿病患者の生化学的な変化を知ることによって、妊娠糖尿病から糖尿病を発症する病態を究明し、将来の糖尿病の発症予防の一助となることで女性の生涯の健康に寄与したい。妊娠中の血液・胎盤を用いて血液バイオマーカーの発現量について研究し、妊娠糖尿病患者の産後の耐糖能障害に関して、妊娠中からバイオマーカーの発現に差を検討する。

胎児発育不全における娩出時期に関する超音波バルスドップラーパラメーターの解析

周産期医療では胎児不全の診断によって娩出時期が決定される。胎児の胎内評価において、超音波ドップラー法を用いた循環血流の評価は重要である。胎児は成人と異なり静脈管・卵円孔・動脈管を有しているため、特徴的な循環動態を呈し、それらの血管の血流速度波形から胎児の状態を評価することが可能である。卵円孔が存在していることにより、右心系・左心系のシャントが存在し、心臓自体の動きや循環する血液量に大きく影響を与える。本研究では心室流入波・流出波を血流速度波形を測定し、房室弁・大動脈弁を通過する血液量や、各弁の動きを時相的に解析を行い、胎児の心機能を評価する指標を作成する。さらに、病的な循環動態を呈する胎児心機能の評価の一因となることを証明する。

より安全かつ確実な前置胎盤の管理をめざして

母体にとって最もリスクの高い産後出血の原因として前置胎盤が挙げられるが、母児の予後改善に向けては、出時期や手術操作など様々な工夫・検討がなされている。当科においても予定・緊急にかかわらず比較的安全かつ容易な手技で止血が得られる方法を報告しており、短期的な効果が示された。産後の月経再開時までのフォローでは月経過多・過少などの以上は認めておらず、また、その一部では次回妊娠までフォローして妊娠転帰を確認することが可能であった。今後は、当科で前置胎盤に対する管理後の次回妊娠の転帰、さらに、予防的入院管理の必要性や手術実施時期の適正に関しても検討していく予定である。

臨床への取り組み

更年期医学を含む骨盤底医学はトランスレーショナルリサーチとして骨盤機能障害を克服する取り組みの診療研究は新しい治験を産むことができる。骨盤底の機能障害である排尿障害、排便障害、性機能障害には機能再建の外科的治療法の開発が必要となる。高齢者に対する機能回復手術であるため、低侵襲性、効果的かつ耐久性の高い手術法でなければならない。そのため骨盤底の解剖生理学研究が基礎となる。加齢に伴う弛緩のメカニズムに本来最も寄与しているはずの骨盤底筋組織、筋膜組織、結合織の強度に影響するミクロのレベルでの神経解剖学や病理学の研究は未解明の分野が多く、研究課題は非常に豊富である。骨盤底の解剖生理学研究をベースに、人工素材、再生医療の開発を医療機器企業との産学協同によって研究費を獲得し、新たな骨盤底再建手術手技を開発する。

スタッフ

教授 橘 大介
准教授 三杦 卓也
講師

羽室 明洋、田原 三枝、栗原 康、

北田 紘平、中野 明美(先端予防医学)

大学院

中井 建策、小西 菜普子、末光 千春、瀬尾 尚美

奥村 真侑、福田 恵梨子、吉田 智弘

 

参考写真

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