研究内容
当研究部門では太陽光の大部分を占める可視光エネルギーを駆動力として、生体触媒を中心に様々な触媒材料との複合系を用いることによって二酸化炭素を貯める・再利用する研究及び水素エネルギー製造に関する研究を進めています。
天然の光合成では二酸化炭素を固定化してデンプンやブドウ糖を合成しています。この反応は6分子の二酸化炭素を逐次的に結合しているわけではなく、太陽光エネルギーによって得られた還元力(NADPH)とエネルギー蓄積物質(ATP)を使って二酸化炭素を有機分子に結合し、最終的に糖を作ってきます。従来進められている人工光合成では、二酸化炭素を単にC1化合物に還元しているだけのものが多いのが現状です。当研究部門では天然光合成の原理をうまく模倣して反応不活性な二酸化炭素と有機物から生分解性プラスチックやエンジニアプラスチック、ナイロンの原料を合成可能な人工光合成系確立に挑んでいます。この技術では二酸化炭素を有機物に取り込み固定することができ、天然光合成に近いシステムと言えます。さらに生体触媒を人工光合成系の中で効率的に機能させるためのNAD(P)HやATP再生系や様々な均一系触媒と生体触媒を複合化した人工光合成、水素エネルギーキャリアとしてのギ酸から水素を製造するための触媒開発も進めています。
二酸化炭素を原料として光エネルギーで生分解性プラスチック原料を作る
生体触媒・可視光吸収色素・均一触媒からなる複合系を用いて、太陽光の大部分を占める可視光エネルギーを駆動力として二酸化炭素とアセトンやアセトアルデヒドから生分解性プラスチック(ポリヒドロキシ酪酸やポリ乳酸)原料となる3-ヒドロキシ酪酸や乳酸を合成することを目指しています。関連成果:New Journal of Chemistry, 2021,45, 11461-11465, Sustainable Energy & Fuels, 2021,5, 6004-6013, Chemical Communications 2022, 58, 11131-11134, Sustainable Energy & Fuels 2023, 7, 360–368, Catalysis Surveys from Asia 2023, 27, 67-74, Bulletin of the Chemical society of Japan 2023, 96, 328–330, Green Chemistry 2023, 25, 2699–2710
二酸化炭素を原料として光エネルギーでC=C結合を有するエンジニアプラスチック原料を作る
多種類の生体触媒・可視光吸収色素・均一触媒からなる複合系を用いて、可視光エネルギーを駆動力として二酸化炭素とバイオ由来材料とから生分解性プラスチックやエンジニアプラスチック原料となるフマル酸を合成することを目指しています。これまで人工光合成系でC=C結合をもつ有機分子を合成した例はなく、新たな人工光合成系を確立を目指しています。関連成果:Reaction Chemistry & Engineering 2022, 7, 1931-1935, RSC Sustainability 2023, 1, 90–9, Sustainable Energy & Fuels 2023, 7, 355–359, New Journal of Chemistry, 2023, 47, 17679-17684, RSC Sustainability, 2023, 1, 1874 - 1882, Dalton Transactions, 2024, 53, 418-422.
アンモニアと二酸化炭素を原料として光エネルギーでナイロン原料となるアミノ酸を作る
生体触媒・可視光吸収色素・均一触媒からなる複合系を用いて、可視光エネルギーを駆動力として二酸化炭素、アンモニア及びバイオ由来材料とからナイロンを基盤とした生分解性プラスチック原料となるL-アラニンを合成することを目指しています。これまで人工光合成系でCーN結合を形成させる例は少なく、新たな人工光合成系を確立を目指しています。
光エネルギーや水素ガスを用いたNADH再生系の構築
酸化還元酵素はその補酵素として高価なNADHを必要としているため、基質の還元に伴いNAD+へと酸化された後、直ちにNADHへと還元し再利用する系が求められています。天然の光合成では、光化学系Iにおいて可視光エネルギーを利用してNADH再生系が組み込まれている。当研究室では、コロイド状金属微粒子や金属微粒子を触媒とし、可視光エネルギーや水素ガスを用いたNADH再生系の構築に取り組んでいます。関連成果:Sustainable Energy & Fuels, 2022, 6, 2581–2592,New Journal of Chemistry, 2024, 48, 506-510.
エネルギーキャリアギ酸を効率的に水素に分解する触媒を作る
ギ酸は水素エネルギーキャリア分子として注目されています。当研究室では、コロイド状白金を基盤とした均一系触媒を開発し、ギ酸を効率的に水素への分解を目指しています。また、可視光吸収分子と生体触媒で構成される複合触媒系を組み込むことによって、光エネルギーでギ酸を自在に水素に分解するシステムも開発しております。関連成果:Sustainable Energy & Fuels, 2022,6, 3717-3721, New Journal of Chemistry, 2021, 45, 9324-9333, New Journal of Chemistry, 2020, 44, 14334-14338, Sustainable Energy & Fuels, 2020, 4, 3458-3466
表紙を飾った当研究室の研究成果