理化学系のための「"LEDチカチカ"の向こう側」プロジェクト

近年、ArduinoやRapsberry Piに代表されるようなラピッドプロトタイピング向けのIoT機器が 爆発的に普及し、従来と比べて、同じことをするにも非常に短時間で達成できるように なってきています。これらのIoT機器の場合LEDをチカチカ点滅制御させる、いわゆる "LEDチカチカ"、略称Lチカが例題としてよく用いられています。この"LEDチカチカ"は、初心者が対象のIoT機器を 学ぶには好適で、ハードウェア側の仕組みだけでなく、操作する側の ソフトウェアの理屈も同時に学べます。これによってそのIoT機器を始めるとっかかりを得ることが出来ます。

本プロジェクトでは、その「とっかかり」を得た後の向こう側にいく、すなわち理化学系のラピッドプロトタイピングを本気で することにより、中高生の科学に対する興味の底上げを狙います。

光化学のための可視光吸収/発光スペクトル測定器
PocketSpectro


21世紀は光の時代といわれ、20世紀のエレクトロニクスに続き、フォトニクスの研究が盛んです。 光科学もその一端を担う重要な分野であり、物質が吸収する光を調べることができる「吸収スペクトル測定装置」は、光科学における基本の装置の一つです。 例えば、緑色の葉っぱの中に含まれている光合成中心の色素はどんな光を吸収しているのでしょうか?


逆に、物質が放出する光を知ることができる「発光スペクトル測定装置」も基本装置の一つです。星はどんな光を放っているのか? 豆電球の光と蛍光灯やLEDの光はどうちがうのか?例えば、量子力学は光を研究することによって生まれました。

この装置はこれらの疑問に応えることができます。

使い方

ハードウェアの制御はすべてRapsberry Piから行い、Processingベースのソフトウェア"Spectro"で操作します。詳しい操作方法は小型紫外可視吸収-発光スペクトル測定器の使い方をご参照ください。


Processingベースのソフトウェア"Spectro"。画面は、水酸化ナトリウムで炭酸(二酸化炭素)を中和した際のフェノールフタレインによる吸光度の時間変化を測定した時のもの。典型的な酸-塩基中和とは異なり、秒単位で反応が進行します。

仕組み


小型分光器C12880のためのAll-in-one型PCB基板
(a) 吸収スペクトルを測定するためのLED。3種類組み合わせてだいたい白色となるようにしています。
(b1) 発光スペクトルを測定するためのLED (未実装)。こちらは励起光となるので白色でなくてもよいです。
(b2) 光源b1の光を単色光にするための光学フィルター置き場。
(b3) 吸収側、発光側の光源を切り替えるための手動スイッチ。Spectroから制御できるようにする予定。
(b4) 発光スペクトルを測定する場合、散乱光を除くための光学フィルター置き場。
(c) 1cm角の光学セルを置くための穴。
(d) 小型分光器C12880 (浜松ホトニクス)。セルからやってきた光をこの素子の中で回折格子により分光し、フォトダイオードアレイによってスペクトル情報に変換します。
(e) C12880を駆動するためのArduino Nano。ここでC12880からの信号を一旦シリアルデータに変換し、USB経由でRapsberry Piに送信します。
(g) ミリ秒オーダーでの時間分解測定のために使用する拡張コネクタ。(e)でシリアルデータに変換するのではなく、直接スペクトル情報をアナログデータで取り込むことによりミリ秒オーダーでの測定を可能にします(未実装)。

回路図と制御及UI用ソフトウェアコード

(準備中...)

制作の履歴

  • 2019/3, より簡便な装置構成および発光スペクトルの観測に対応するため、回路構成を見直した (PocketSpectro 0.4)。
  • 2018/5, Hamamatsu C12880を用いた吸収スペクトル測定装置を試作した。
  • 2018/3, フォトトランジスタ(NJL7502L)を用いた単色光での吸光度の測定装置を制作した。

関連情報: Review of Hamamastu C128880 Microspec Module
GroupGets, Manufacturers, Hamamatsu Photonics, C12880MA Micro-Spectrometer
ミニ分光器 マイクロシリーズ

携帯型ポテンショスタット/ガルバノスタット/EIS
PocketPotentiostat

本格的な電気化学測定は高価な装置を持っていないとできないのか?そんな時代は過去の話です。研究グレードのAll-in-one型の小型ポテンショスタットの実装も、ラピッドプロトタイピングの一環としてできるようになりました。オペアンプ技術の進化により高性能なポテンショスタットを簡単に設計できるようになったのが一番の理由です。電気化学測定は一度始めると丸一日かかることが多く、装置が占有されることがしばしばあります。これがあればみんな笑って研究できますね :)。

関連情報: A Small yet Complete Framework for a Potentiostat, Galvanostat, and Electrochemical Impedance Spectrometer (J. Chem. Edu. 2021)
Voltammogrammer
Electrochemical Methods: Fundamentals and Applications, 2nd Edition
ポテンショスタットから眺める電気化学分析法の特色
手作りポテンショスタット : 電子工作実験室

ギャラリー

熱分析のための熱重量分析計

熱重量分析計(thermogravimeter、略称TG)は、物質を同定したり、物質の熱に対する応答性を調べる上で力強い味方です。ある種の物質は熱を加えることにより組成変化を起こし、副生成物として水やガスを発生する場合には重量変化となって現れます。これをうまく可視化するのが熱重量分析計です。原理はとても簡単のようで、極端に言えば、オーブントースターと秤があれば実現できそうに聞こえます。実際、「できます」。左の装置のように ;)。但し、測定データに精度と確度を求めようとすると色々と工夫しなければなりません。例えば、1 mgスケールで精度と確度を出すにはどうすればよいでしょうか?この装置の良い側面は、測定データの精度と確度について深く考えさせられることです。

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